目の前に二人の男が立っている。

一人は、毎日ストレス少なく生きているみたい。やりたいことを見つけたか、やりたくないことを生活から極力省きながらか。どちらにせよ、不安はあれどそこそこ楽しく生きている。ただし、どうやら一人のようだ。

もう一人は、毎日あくせくしながら生きている。やりたくないことも我慢しながら、家族のために懸命に働いている。でも、不満はあれど、家族と幸せに暮らしている。

今現在の僕がイメージしうる、目標とするべき数年後の僕の姿。
どちらを目指す道に進むか、今まさに分岐点に立っていると言える。
もちろんこの二人は確実な未来ではない。両方のいいとこ取りをできるかもしれないし、悪いところばかりを取ってしまうかもしれない。
なんでそんな極端なイメージしかできないの？と言われてしまうかもしれないが、置かれている状況とマルチタスクが苦手な自分の今の力では、全てを手に入れるといったことはどうもイメージできない。

どっちでもいいから、どっちか目指せよ。いい加減。

歩く方向を決められず、部屋の隅で膝を抱える僕に、僕は今日も言葉を投げかける。

単純な話だ。未来はどうなるか誰にもわからないんだから、何でもいいからやってみろよ。不器用なんだから、人より倍やらなくちゃならないだろう。

二人の未来の僕。踏み出せないのは、どっちの僕が心から笑っているのか、ここから見える表情からはうかがい知れないから。

毎日、同じ疑問を自分にぶつけては、動かない自分を憂いて、酔いしれて。

ほら、また無駄な一日が終わるよ。

・・・

昨日、夢を見た。
悪夢ではない、むしろ幸せな夢。
にもかかわらず、早朝に目覚めた僕はしばらく頭を抱えてうずくまっていた。

夢の中で、僕は未だ忘れられないあの人と一緒にいた。日中は街でウィンドウショッピング。夜は二人でミュージカルを観戦して、綺麗なビルでオシャレなディナーを食べた。二人で手を繋いで帰る。夢の中の僕は、次の日の仕事についてだるそうに、けれど楽しそうに話していた。僕は笑っていて、彼女も笑っていた。駅について、彼女がトイレに入っていく。僕はポケットに手を伸ばし、スマートフォンをチェックする。

そこで目が覚めた。
隣には当然誰もいない。シャワーも浴びずに眠ってしまっていたようだ。
目を覚ましてから、見ていた夢について考えて、どうすれば実現できるか考えて、何から何まで実現するのは難しいと考えて、理想の中でどこを目指せばいいか考えて、何から手を付ければいいか考えて・・・

突然ブレーカーが落ちたように、頭が真っ白になった。

こんな風に考えて悩んでうずくまることは多い。
いつも些細なことから一日沈みこんでしまうことはよくあった。
しかし今日ほどリアルに願望が現れたことはなくて、頭のキャパシティーをオーバーしてしまったみたいだ。

考えすぎて動けなくなる僕を、きっと周りは笑うだろう。
だけど僕からしたら、なぜそんなに考えずに動くことができるかの方が疑問だ。いや、考えている風を装うだけでいつまでも同じところを堂々巡りしている僕のほうが、何も考えていないのではないだろうか。動きたいと考えるだけで、動き方を考えているとは言えないから。
僕は日々何をしているのだろう。考えていることは毎日同じ。毎日同じ問題と向き合っているのだ。でも、解き方を質問できるような先生は僕にはいない。

考えるのをやめたい。そんな風に思う僕は、とっくの昔に考えることを放棄しているのかもしれない。
同じ疑問に向き合い続けることで、何も考えていない自分を否定しようとしている。こういうのも、現実から目を背けているって言うんだろう。

・・・

ひたすら自分に言い聞かせる。きっと、もっとシンプルだよ。
自分が信じるように動けば、理想に近いものはついてくるよ。

だけど僕はこだわりが強くて、欲しいものには妥協ができない。自分と向き合って気づいた一面だが、とっても扱いにくくて困っている。思考の堂々巡りを繰り返してしまう理由の一つがこれだろう。

隣にいるのは絶対あの人でいてほしいし、自分がこれだと思ったことしかしたくないし、そうでなければ自分のポテンシャルが発揮できないことはよくわかっている。

だからこそ、どうすれば自分の思い通りに行くかを考えすぎてしまう。
答えがいつまでも出ないのは、自分の中の選択肢があまりにも少なすぎるから。
考えるのをやめたいと思ってしまうのは、引き出しが少ない中で答えを見つけようとして消耗するから。
そしてなにより、うまくいかないことがどうしようもなく怖いから。

みんな、どうやって自分と向き合っているのだろう。
どうやって自分の道を決めているのだろう。
僕と同じような人は、どうやって生きているのだろう。

きっと今のままでは答えはでない。でも嫌なものは嫌だ。やりたくないことをやりたくないって言って何が悪いんだ？
何がしたいかと言われると、何も答えられないけど。

ただ笑って生きていられればそれでいいんだけどな。でも僕は、それじゃ満足できないみたい。
自分の頭と心がどんどん離れていくようだ。

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