第170号『チェイサーゲーム 外伝 -此の花サクヤ編-』

古荘サクヤはお年頃だった。

古荘は“フルショウ”と読む。が、そういえば2年前に熊本から東京に出てきて誰からも正しく名字で呼ばれたことが無い。

みんな“フルソウさん?”とか“コソウさん?”なんて間違えるので訂正するのも面倒くさくなってきたので“サクヤでいいよ”って言ってるうちに本当にそうなった。

サクヤは仲の良い両親の元で育ちすくすくと大きくなったが、高校の卒業が近づいてくるとだんだんと熊本の田舎から飛び出して自身の夢を叶えるために上京することを具体的に考え始めていた。

サクヤは役者になりたかった。

女優になりたかった。

自分の身体一つで他者に何かを与えられる表現者になりたいと願っていた。

そのことを両親に伝えると、意外にも母は快諾したが父は反対した。

“もっと他にもやれることがあるだろう?”

役者なんて何の保証もない仕事に夢を見るよりも、もっと堅実な仕事に就いて欲しいようだった。

それでもサクヤは諦めきれなかったので父を説得した。

“ねぇ、パパ、私はパパとママの娘なんだよ?「やめておけ」って言われて諦めると思う?”

このセリフはある意味“殺し文句”に近かった。

というのもサクヤの両親は若いころに共にバックパッカーとして世界中を放浪して回っていた自由人だったのだ。

バックパッカーとは世界中を旅することにロマンを抱いてリュックサック一つで個人旅行をする旅行者のことだ。

若い父は“世界中の文化や人に触れること”にロマンを抱き、若い母は“世界中の文明や遺跡を見て知ること”にロマンを抱いて、それぞれが世界中を旅していた。

そんな若い父と母がやがて出会い結婚してサクヤが生まれたのだ。

“自分たちが若い時にはロマンを持って自由に世界中を旅して回っておいて娘には「夢を追うな」はないんじゃあない?”

“だって私はパパとママの娘なんだから”

そう言われるとはもう許諾するしかなかった。

“東京の専門学校に通うよ。もちろん生活は自分でちゃんとやっていく。寮に入って新聞奨学生をやる、だから学費の心配もいらないから。自分で全部なんとかする”

そう宣言して東京に出てきてからサクヤは本当にそれを実行した。

寮で生活をして毎日2時に起きて新聞配達を行い、それから学校に行って勉強をした。他のことには目もくれなかった。一生懸命レッスンを受けて演技力を身に着けつつたくさん働いた。

周りの同級生はだんだんといなくなっていった。

それから2年が経ち専門学校を卒業した。

サクヤは20歳になった。

所属はテアトルアカデミーになった。

所属とはいってもまだまだ訓練生扱いなので仕事は無い。オーディションすらも受けさせてもらえない。

それどころか訓練生はそれぞれのレッスン料を支払わなければならない立場なのだ。

出費がかさむ。

節約しなければならない。

専門学生時代は新聞奨学生の制度の助けもあって寮で食事も出来たし生活において困ることは(働いてさえいれば)何もなかった。

しかしいきなり卒業と同時に寮を出て単身で生活をしなくてはならなくなった。

サクヤは東京の調布の近くのシェアハウスで生活することにした。

家賃は共益費込みでおよそ4万円程度。

週に一度だけご飯を3合炊いてラップで7つのおにぎりに分けて冷凍して毎日解凍しながらそれを一日1個ずつ食べた。

たまに近くのスーパーで5個で250円のコロッケのパックが半額セール(125円)になっている時があるので狙ってそれを買って、同じく冷凍して一日1個ずつ食べたりもした。

“今どきの若い女の子の食生活とは思えない”

そのままの感想を伝えるとサクヤはニカッと笑って“こっからですよ!”と強がってみせる。

確かに“ここから”なのだろう。

そう。

古荘サクヤの物語はここから始まる――――

こうして幕を開けるのだ。

まだ何者でもない彼女がやがて世界中から注目される大女優になる(かもしれない)までの物語。

そして、序章の幕がそろりと開く。

――――サクヤの母には“弟”がいた。

東京でなにやらクリエイターという怪しげな仕事をやっているらしかった。

クリエイター?って何の?

サクヤにとっては叔父にあたる、その“母の弟”には小さい時に会ったくらいのボンヤリとした記憶しかなかった。

詳しくはわからないがどうやら大きな会社で世界的にも有名なコンテンツを作っているようだった。

ゲーム?

そう、ゲームソフトだ。

サクヤの叔父はゲームソフトを作っているクリエイターだった。

“せっかく思い出したんだから今度久しぶりに叔父さんに会いに行ってみようかな、東京にいるみたいだし(むにゃむにゃ)”

そんなことを考えながら今はベッドで(お腹をすかせながら)無理矢理に眠るサクヤであった。

爛漫な性格の彼女は今日ものんきな顔をしてスヤスヤと眠る。

後に――――サクヤ自身も改めて知ることになるのだが。

その叔父さんが作っている作品は『鉄拳』というゲームソフトだった。

シリーズ累計4,700万本を誇る世界的に大人気の対戦型格闘ゲームだ。

その叔父さんは原田勝弘という名だった。

*****

【チェイサーゲーム 外伝 -此の花サクヤ編-】

―了―

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