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第204号『アニメ化は原作ファンを喜ばせるためじゃない』

たぶん色んな所で物議を醸す内容になりそうなので慎重に書きます。

これは今から20年くらい前に私自身が直面して思い知った出来事です。

ゲーム業界で働き始めて4年ほど経って、ある出版社の担当とゲームメーカーのプロデューサーとアニメの制作委員会の担当者とミーティングしていた時でした。

雑談がてら私がこんな話を振りました。

「しかし私自身が子供の時からずっと感じていたモヤモヤっていうか、疑問というか、いや、せっかくアニメ化されるわけですから。この作品はしっかりした作品にしていきたいですね」

「ん?松山さん、どーゆー意味ですか?」

「あーいえいえ、すんません、初めてこういうアニメ作品の制作現場で一緒に話をするのでなんか感極まってしまって」

「うん、モヤモヤってなに?」

「あーいや、個人的な話なんですけど。子供の時に観ていたアニメ作品のいくつかが全然漫画原作とイメージが違っていてガッカリしたことが少なからずありまして……この作品では絶対“そう”ならないようにしていきたいなって……ん?あれ?なんか変な事言ってます……か?」

「うーん」

「え?」

「うん、松山さん、根本的にズレてますね、というか全然違いますね」

「え?」

「イチから説明した方が良さそうですね、まずこの漫画原作をアニメ化する一番の目的ってなんだと思いますか?」

「えっと、あー、そうですね、漫画原作の人気がある一定の成果を上げたからより多くのファンを広げるためにアニメ化する……ってことですよね?」

「うん、もちろんそうなんだけど、一番の目的は何だと思いますか?」

「一番の目的……は、アニメもヒットさせてゲームソフトも関連グッズもたくさん売ってこの作品自体のビジネスを最大化すること、ですよね?」

「その通りなんだけど、それは一番ではないね。最終的にはそうなるようにみんなで力をあわせて頑張るんだけど」

「一番ではない?」

「うん、一番の目的は“アニメ化することで原作漫画をより売れる作品にする”ことですよ」

「あー、はい、それはもちろんそうだと思います」

「いや、松山さんたぶんわかってないよ」

「え?」

「“アニメ化すればそりゃ原作漫画だって発行部数が増えて売れるに決まってるでしょ、だって認知が広がるんだから”って思ってるでしょ?そこが根本的にズレてるんですよ」

「えっと何が違うんですか?」

「考え方の順番が違いますね」

「順番?」

「そう、今の松山さんの意見というか感覚ってのはただの“漫画原作のファン視点”ですよ。これから一緒にこのプロジェクトを進めていこうという立場の人がそういう感覚では困りますね」

「えっと」

「まずこの漫画原作は2年前に連載がスタートして本誌でももちろん大人気で単行本の発行部数も〇〇万部を超えました」

「はい」

「ではこれ以上の発行部数を伸ばすために何が出来るか?」

「ええ、だからアニメ化を」

「そうです、だからアニメ化するのです」

「え、いや、じゃあ同じってことですよね?」

「いいえ、同じではないですね」

「ええ?」

「これから作るアニメは決して“漫画原作のファンを喜ばせることを第一に考えて作るのではない”ということです」

「はぁ?なんで?」

「第一の目的は“アニメをきっかけに作品のファンを増やして新たに漫画の単行本を購入してもらうためにファンを増やすこと”なのです」

「いや、だから私が言っていることと同じですよね?」

「違いますね」

「ええ?」

*****

まるで禅問答のようなやり取りに見えてしまいますが、これは完全に実話というかほぼ実録です。出来れば落ち着いて冷静な視点で読んでいただきたいです。

それでは改めてどうぞ。

アニメ化は原作ファンを喜ばせるためじゃない

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