セルフメンタリング2

セルフメンタリングの実践

前回の記事では、チームメンタリングの実践について書いた。
そして、1回目の記事で、チームの自律は個人の自律が前提であると述べたが、今回は、個人の自律を促す手法「セルフメンタリング」について説明したいと思う。


「人間としての成長」とは何か?

セルフメンタリングの中身に入る前に、その前提となる「人間としての成長とは何か」ということについて考えてみたい。既に大人になってしまった自分たちは、いったい、何をもって「成長した」と言っているのだろうか。

「職業人としての成長」はわかる。経験を重ねて、以前よりできることが増えたり、多様な立場の意見をくみ取ることができるようになったり。収入も一面的な指標にはなり得るかもしれない。
近いところでは「心の成長」だろうか。ただ、心の成長といっても、思春期の心理的成長とは違って、何を指しているのかがあいまいで、人間としての成長とはどうにも意味がずれる気がする。

戦前の日本には、まだ精神文化みたいなものが残っていて、人としてどう生きるべきなのかが、選択の自由があったかどうかは別として、今よりはもう少し明示されていたのかもしれない。
今は全くそのようなものが社会の中になくなっているが、「人間としての成長」は、何歳になっても、生き続ける限り目指すものとして存在することが大事だったように思う。
今の社会では、どんな生き方をすればいいのか、モデルも方向性も学ぶ場もなく、完全に個人任せになっている。そんな中では人としての成長なんて見定めようがない。ではどうするか?

「成長」を確かめるには、目指す状態を自らが設定し、そこに近づいているかどうかを測る必要がある。だから、個人にも理念が必要になってくるのだ。

また、前回の記事で、個人の成長とは自分を知ることが第一歩と書いたが、自分を知り(自分の思考を知り)、自分の取り扱い方に習熟していくこと(発生した苦への対応能力を上げること)が「自律」に近づく道であり、これも人間としての成長に欠かせない要素だろう。

まとめると、「人間としての成長」とは、

・「個人の生き方の理念」を設定し、それに近づくこと
・自律した状態(自分を知り、自分の取り扱い方に習熟する)になること

だと現時点では考えている。

自分の場合は、初期仏教の「慈悲」の概念を借りて、個人理念を設定した。
そして、夜寝る前、何かうまくいかないことがあったときや、心に引っかかることがあるときは、自分の思っていることを書き出して、思考の癖を明らかにしようとする。
朝起きた時には、自分が設定した理念に基づいている状態にあるかどうかをセルフチェックする。
これがここでセルフメンタリングと呼んでいるものだ。

以下具体的にやり方を説明する。


セルフメンタリング(=自己との対話)の方法

セルフメンタリングの基本は、自分自身との対話、簡単に言えば自問自答することである。
頭の中で考えていると必ず膠着してくるので、紙に書いて行う。
自分は、朝20分、夜15分くらい時間をとって行っている。ついサボってしまうときもあるが、その時は調子が悪くなるので、できればやらないと気持ち悪いくらい習慣になることが望ましいと思う。
*以下は自分のやり方なので、実践したい方は、自分なりのやり方をつかんで行ってください。

◆事前準備

個人理念ノートを用意する。見開きページの左側に、個人理念を書き出す。右側に、自分に発する問いを書いておく。

「自分に発する問い」の例
・(気になることが残っている場合)苦からどんなことが学べるか?
・私が本当に求めているものは何か?
・それを手に入れるために、私は今何をしているのか?
・その行動は本当に効果的か?もっといい方法はないか?
・自分の行動は理念に即しているか?

その他、下記のようなツールを用意する。
*行動管理ツールは自分はTrelloを使っているが、自分の気に入ったものを活用する。

セルフメンタリングツール

◆朝のセルフメンタリング

①自分の体調、気分をチェック。何か気にかかっていることがあったら掘り下げる。
②個人理念ノートを開いて、自分に対して問いを発し、浮かんできたことをメンタリングノートに書き出す。
③目標と行動計画を確認。新たにできそうなことが思いついたら、行動管理ツールのタスクに積んでおく。

◆夜のセルフメンタリング

①寝る前に、今日を振り返る。特に、心の動き(嬉しかったこと、動揺したこと、怒りを感じたことなど)をチェックする。
②何か気にかかっていたり、苦痛を感じることがあればメンタリングノートに書き出す。なぜそう感じたのかを考え、自分の思考の癖が見つかったらそれも書いておく。(恐らくこの時点でかなりの割合気持ちが楽になっている)
*これは始めから一人で行うのは難しい。チームメンタリングの記事で書いたように、他者からのフィードバックを手掛かりに自分の癖を明らかにしていくのが有効となる。
③瞑想、体操など、自分がリラックスできることをして就寝。

いろいろなやり方があるが、自分は半年くらいこのやり方で実践していて、とても調子が良く、仕事のパフォーマンスも向上した。


他者を変えるのではなく自分を変える

セルフメンタリングを行うことで、自分の心の微細な動きをキャッチできるようになり、観察力が上がってくる。
そして自分のマネジメントがうまくなると、組織での動き方が向上する。
セルフメンタリングとチームメンタリングは往還関係にあり、双方が向上するのだ。

問題へのアプローチの仕方も変わる。
何か問題があった時(問題があったと自分が認識している時)、つい自分たちは外(他人)に働きかけようとしてしまう。
これを「問題解決」と呼んでいるが、形の上では解決したように見えるものも、人を押し込めているだけだったり、対処療法がなされているだけだと、またすぐ元に戻ってしまったり、遺恨が残ったりしてしまう。

他人ではなく、自分(自分の思考)に働きかけ、そちらを変えると、気づくと問題が解消しているということが起こるようになる。
これはやってみると驚くことなのだが、ほとんどの問題は自分の認識によって発生しているものなので、自分にアプローチすることで問題自体がなくなってしまうのだ。
そして、この「自分へのアプローチ」が、先に述べたセルフメンタリングの要諦なのだ。


セルフコンパッション(self compassion)という考え方

今回の記事は、自分自身が実践段階なのと、概要だけ簡略化して書いてしまったので、これだけ読んでもわかりにくかったかもしれない。
セルフメンタリングの手法は、セルフコンパッションという考え方をベースにして構築しており、最近はハーバードビジネスレビューなどでも特集されたりしていたが、初期仏教の手法を元に、研究会のメンバーと紡ぎ出しているものだ。

仏教というと「利他」というキーワードが思い浮かぶ人が多いかもしれないが、利他の前には自分自身の幸福が前提にあり、自分に対する慈悲が基本となっている。
これを生き方の習慣として実践に落とすことを今やっているのだが、個人にもチームにも良い影響を与えている。

今後も学びを深めていきたいと思っている。

*今後関心のある人向けに勉強会なども実施していこうと考えているので、興味のある方はコメントやメッセージをいただければと思います。

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