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チームメンタリングの実践

先々月から、自分のチームで、いつもの業務遂行のためのミーティングとは別に、週一で「個人の成長を促すためのミーティング」というのを始めた。
仕事は常に外から持ち込まれる。チームに新しい仕事が加わったら、メンバーはそれに対応しようとする。
研修でもOJTでも、仕事を遂行するためのスキルの学習は重視される。
しかし、実行主体であるメンバーの「人としての成長」は個人任せだ。
特にプロジェクトリーダーのような仕事は、スキルだけ身に着けてもできるようにならない。
「マネジメント研修」を受講してマネジメントができるようになるのであれば、世の中の組織はもっとうまく運営されているだろう。
自分たちは日々の実践の中で学んでいるのであり、実践の中に学びの機会を永続的に入れていかなければ意味がない。
そういう思いから、このミーティングを始めることにした。


個人が成長するチームメンタリング

前回の記事で、自律したチームをつくるためにメンタリングを活用していると言及したが、「個人の成長を促すためのミーティング」で実施しているのがチームメンタリング*だ。

*メンタリングとは、「対話による気づきと助言によって、被育成者の自律的な発達を促す方法」と定義され、通常、メンターと呼ばれる指導者が育成のために使う手法だが、ここでは、同僚どうしで相互に行うものや、個人で行うものにもこの言葉を使っている。

このミーティングで行っていることはシンプルだ。
参加メンバーが、ひとりひとり、1週間仕事をして感じたことを、KPTの観点で述べ、互いにフィードックしていく。
KPTとは、Keep(うまくいっているので続けていくこと)、Problem(うまくいっていないこと)、Try(Problemを解消するためにやってみること)のことだ。
フィードバックのやり方にコツがある。

1.すぐに問題を解決しようとしない。誰かから出たProblemは、皆でひたすら深掘り、原因を明らかにする。
2.メンバーからのフィードバックを通して、自己理解を深める。

上記をルールとして実施している。
このミーティングは、業務を進めることではなく、「個人の成長」を目的にしているので、この場でプロジェクトの課題を解決しようとしたりしない。
それよりも、なぜ「うまくいっていないと感じているか」を掘り下げていくと、最終的には自分の考え方や行動の癖に気づくことになる。

「個人の成長」=「自分を知ること」

とも言える。
人は、驚くほど自分のことを知らない。
自分は何が好きで、どんな考え方をして、どんなことが起こるとどんな反応をする傾向にあるのか。自分では当たり前だと思っていることがスタンダードではないこと、世の中の原則に合っていない思考をついしていること。
自分というシステムの実態を知らないまま、自分があるべきと考える「幻想の自分」の判断で、無理な行動をしたり無理に合わせたりして心身は壊れていく。
そういうことは自分だけで考えていても気づかないし、普通に仕事をしていても気づかないし、気づいている人が周囲にいてもあえて言ってもらう機会などないことがほとんどだ。
だからあえてそういう場をつくる必要がある。
自分の思考・行動パターンを外在化してとらえ、よく知り、「自分の思考」を育てていこう、という態度をとると、一気に生きやすくなり、仕事も結果的にうまくいくようになる。

先日のミーティングでは、リーダーの一人であるOさんから、「先週のミーティングのTryで、チームメンバーの業務範囲を広げるよう働きかけるという目標を立てたが、他の業務に追われて実施できなかった。」という発言があり、その後、「今週は、自分の業務を急いで終えて時間をつくりたいと思う。」と続けたので、「あ、ちょっといいですか?」と止めた。
「それだと、Oさん自身が苦しくならないですか?」
自分が発した問いに、Oさんはポカンとして反応しあぐねていた。
「無理して実施ほしいのではなくて、Oさんが先週忙しくなってしまったのはなぜかという点が大事なのでもっとそこを掘り下げましょう。Tryはできなくてもいいので。」と続けて、メンバーみんなでOさんが苦しくなってしまった原因を掘り下げていった。

日本人は真面目だ。そして自分にも人にも厳しい人が多い。
自分が苦しくても、より苦しく詰め込んでなんとか仕事をやり切ろうとする。他人から外的コントロールで仕事を無理強いされたらパワハラだが、他人がやるよりも数倍も多く、自分に対してパワハラしている人が多い。
それは短期的には成果を出せるかもしれないが、長期的にはうまくいかない。自分を無視して結果だけ出しても、それで抱えてしまった弊害が、後で悪い結果をもたらすことになる。

自分を知ることで、苦(Plobrem)をマネジメントできるようになること。

これが自律するということであり、自律する個人を育てることになる。
チームメンタリングを通して、「自分の扱い方」に長けた人を増やしたいと思っている。


Management=管理 なのか?

前述したミーティングは毎週行われ、KPTで振り返りを行っているが、ここでは業績の話はしない。
チェックしているのは、チームのコンディション、参加メンバーのコンディションであって、それを測る上で役に立つ数値があれば活用するが、今のプロジェクトの場合必要ないのでしていない。
「チームがうまくいっているかどうか」の感じ方は各人の主観でしかないので、うまくいっている状態がどういう状態なのかを表すチェックリストのようなものが必要になる。それが理念だ。

自分のプロジェクトチームには、クライアントから要求されている成果があって、プロジェクトとしてのビジョンや目標は期初に定めている。
「個人を成長させるミーティング」を始める際、それとは別に、このプロジェクトに携わるチーム(組織)としてのあるべき姿を言葉にした「チーム理念」をつくった。
これを話し合うと、自分でも気づかなかった、このチームのカタチが見えてくる。(現状6つにまとまった。)
例えば、うちのメンバーは、子育て中で時短勤務のメンバーが非常に多いのだが、「時短勤務の人が気兼ねなく仕事ができている状態が、このチームにとってのいい状態だ」という理念が出てきたりした。

この理念に照らし合わせて、今のチームのコンディションが良い状態なのかそうでないのかをチェックしていく。

組織とは、固定されたものではない。
組織とは、目的があって集まった人の集団であり、常に変化している。
その変化する形のないものを取扱いながら、ある一定の方向に秩序づけて目的を達成していく術がマネジメントであり、業績を出せるように管理していくこと=マネジメントではないと思う。

マネジメントを実践するには、現実を観察し、理解した上で、理念に基づいて変化に対応する必要がある。世界が変化しているのだから、それに対して自分を開いて変化していく必要があるのだ。

孔子は、これができる状態のことを、「仁」といい、その素養を持つ者を「君子」と呼んだ。
ドラッカーは、この態度を「Integrity」と呼び、それを実現できる者を「manager」と呼んだ。(参照:安富歩著「ドラッカーと論語」)

自分は本当のマネージャーになりたいし、本当のマネジメントができる人が増えていくことが世界にとって望ましいことだと信じている。


今回はチームメンタリングについて説明してきたが、前回の記事で、自律的な組織をつくるには、個人の自律が不可欠であるといった。
チームを構成する最小単位は個人であり、個人からしか変化は生まれない。
チームメンタリングにおいても、全体の議論をするのではなく、チームで、個人の課題を深堀りしていくことに主眼を置いていることを説明した。
そして、チームメンタリングによって自己理解を深めることができたら、次は、チームメンタリングで学んだ対話方法を適用して、自分自身との対話を行うことが、個人の自律にとって有効になる。

次回は、セルフメンタリングについて説明したいと思う。



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