子供を産むと死ぬ世界

出産=魂の譲渡
授業で刻まれた文字を私は消すことができずにいた。クラスメイトはもう音楽教室に向かっている。このまま行ったら、日直ーっと呼ばれるかな。黒板消しを持ったまま外を見る。体育着に着替えた男女が蟻の巣から出始めた。学校はヒイロとしての役割を与えられるから嫌い。

「忘れ物ーってあれ。ひーちゃん、遅刻しちゃうよ」
「うん。」

驚いて文字の7割ほど消してしまった。
このヒイロっていう名前も嫌い。この世界では誰でも子供を産むことができて、子供を産んだ人だけが女性になる。
死んだ母はヒイロをという名前だけで私が女性になるように仕向けている。子供を産んだら、死んでしまうのに。

黒板をそのままにして教室を出たところで鐘が鳴る。
遅れて入る教室。皆中性的な容姿をしているが、明確な男女区分が勝手にできていた。

「ヒイロちゃん遅刻しないようにね」
「でかいウンコしてたんだろ」
「してないし!」

言動だ。女の子はウンコなんて言わないという先入観。
性別は自由に選べるはずなのに、生まれたときから誘導されている。学校はキチンと道標に従っているか監視する場所みたいだ。自分で決めるってなんて大変なんだろう。

授業中もボーッとして集中できない。
いいなあ、雀は性別決まってて。

「ヒイロ。次当たるぞ」
「え、どこ??」

隣の席に座っていたヤマトが教科書代わりのタブレットに赤丸をつけて共有してくれる。

「じゃあこの問題を...ネモト」

はい!と立ち上がったのは私の席からは遠く離れたクラスメイト。私じゃないじゃん!キッとした睨みをきかせるとヤマトは肩を震わせて笑う。
タブレットに文字が追加されていく。
真面目に受けろー

バーカ。口パクで伝えて共有を解除する。

ヤマトの後ろに座っていたサクラはその様子を見てクスクスと微笑んだ。授業中の会話は全て内緒話のようになる。
内緒話を通して、色々な人の側面が見えてくる。
だから私...サクラはヒイロちゃんの内緒話を知っている。
誰よりも女の子っぽいのに、レールの上を走るのが嫌で男の子になろうとしてることやヤマトが気になってる自分を認めたくないことも。

女の子になればもっと楽で可愛くできるのに。
サクラのタブレットには恥じらいながらもドレスを着たヒイロが描かれている。

「私がヒイロちゃんを女の子にしてあげる。」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?