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2m先から見守るやさしさ

私の母親は専業主婦の傍ら多趣味で、その一つが朗読だったのですが、小さい頃から寝る前の読み聞かせは基本として、CDを流しながらの発声練習、大量の絵本を本棚に抱えており、私も児童書の夢のある話や心に優しく訴えかけてくる話を手に取って良く読んでいたように思います。
大人になってから少し高い棚の本も手に取れるようになると大友克洋の「ヘンゼルとグレーテル」なども愛読していたことが分かり、母のハードな皮肉を好む面も分かることになるのですがこれはまた後日。。

私はおおらかで小さな夢を都度持って過ごす悠々自適な気質の両親に育てられた事もあり、絵本の世界観が大人になっても(所謂むず痒く感じたりする事なく)とっても好きなのですが、ここで大人に紹介するにあたって教訓くさくなく適度なポップさがある本といえばこちらかなと思いまして。
前回の「手元には10能力があるけれど推敲してここでは6の優しい見せ方をしよう」を感じる作者なのでお薦めしたいと思います。

◼️マムアンちゃん(ウィスット ポンニミット)

タイ在住の通称「タム君」が描くマムアンちゃんとその周りの人々のお話。といってもストーリー的なものではなく基本は1ページ2コマずつの4コマ漫画構成です。
2018年10月1日が初版となっていて、雑誌「ビッグイシュー日本語版」に2007年から連載されていたものから厳選した回が収録されています。ビッグイシューはホームレス等の生活困窮者へ雑誌の路上販売を通して労働のチャンスを与えるという事業で、都市部で目にする方もいらっしゃるのではないでしょうか。
なのでこのマムアンちゃんも出版が決まっている中での連載というわけではなく、好評ののちクラウドファンディングで発行が決まったと言う経緯があります。

◉好きポイント
・キャラクターに直線的な角がなくころんと可愛い
・ページの配分、数に余裕があり疲れない
・日常の3秒くらいの事象をとても繊細に描いてくれる
・タイ語が添えられているので勉強して読みたくなる

「物事は起こっているその事象以外に意味はないが、見る人の生い立ちや心情で捉え方が変わっていく」の様な哲学の様なことも押し付けがましくなく描かれています。私はここの塩梅がよくあるほのぼの教育絵本の皮を被った作者の思想の強要ではなく「本来の絵本的な」まとめ方でとても好きです。

作者のタム君はタイのバンコク在住ですが、2003年から京都に3年間留学しており、アニメーション、ミュージシャンとしても活躍してます。1998年から描き続けている「ヒーシーイットアクア」という枚数もジャンルもバラバラなショートストーリー集があるのですが、これも今回のマムアンちゃん同様ラフな鉛筆描きが特徴で、カッチリしたコマ割りに慣れ親しんだ感覚をフッと外してくれて良いです。
最近では絵柄をガラッと変えて描いたりしているみたいなので読んでみたいな。

数年前六本木でタム君の来日サイン会があって会いに行きました。
名前を1人1人聞いて少しの会話と、沢山ファンが集まっていたにも関わらず笑顔を絶やさず対応する姿、凄く人柄が表れていてさらに好きになりました。こういう事なんだよね。
今、サインを書いてくれたカードは毎日見える棚に大切に飾ってあります。好き。

ちなみに私は本当に疲れたなぁと言う日は花占いをする様なテンションでマムアンちゃんを手に取ってパラッと1ページ開き、そのページの気付きを明日のモットーにしてみようかな、と言うことを良くやっています。
外部の言葉を信仰しすぎたくないけどなにか考える軸が欲しいなという時とかに、是非。

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