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詩集 マインドトラベラー 02

【黒き雷光① 苦手な奴】

トラベラー「黒き雷光」 と呼ばれて久しい。
この仕事。始める前は、タダのオヤジだった。
だがどうだ。今じゃひとかどの人物になった。
といっても次の客との駆け引きはきびしい。

難癖はいくらでもつけ、要求は困難極まる。
報酬も正規の額さえ出し惜しみ、メチャ値切るし、
それでいて結果を出しても正当な評価を渋るし、
それでいて最上得意なのだからほとほと困る。

今日もまた新たな依頼ひっさげて、もうすぐ
オフィスにやって来るはず。気が滅入る。逃げたい。
だがしかし、私はプロだ。ビジネスに徹する。

席を立つ。嫌な予感だ。逃げようか。いますぐ
一瞬のスキに飛び込む侵入者。逃げたい。
今度こそ無事じゃ済まない。もう駄目な気がする。
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 本編のひとり目の主人公、黒き雷光のエピソードが始まります。ビジネスに徹する彼にも苦手意識を拭い去れない相手が存在します。それは上得意なクライアントでした。

マインドトラベラー「黒き雷光」さん

【黒き雷光② 自殺未遂少女】

侵入者、素早い動き。回り込む、後ろに。
首周り、柔らかな腕。絡みつく。柔らか?
「また来たよ、元気にしてた?」 その声は高らか。
「もう来るなっつっただろうが」 眼が泳ぐ、虚ろに。

「来ないわけにはいかないわ。契約よ。違った?」
この女、我が天敵で上得意。その上
いいとこの箱入り娘のはずだが、それ故
虐められ、心を折られて自殺を図った。

一命はとりとめはした。壊された心を
修復し、新たに自我を取り戻す手伝いを
する事が私の仕事。それだけの事だが

事後メンテという名のもと、これからの進路を
考える為に契約し直され、手伝いを
続けてる。形の上はそれだけの事だが。。。
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 上得意クライアントはいわゆる「いじめ」被害者で自ら命を絶とうとしたことがあること、心が壊れた状態だったのを雷光が癒やし続け、ようやく元気に振る舞える状態になったことが明かされます。しかし、契約は完了したのに事後メンテの名目で再契約が結ばれてしまった事に雷光は多少の違和感を覚えているのでした。


【黒き雷光③ バラッド:モノローグ】

私はマインドトラベラー。定年までは会社員。
ブラック企業を脱出し、国際試験を突破して、

今の仕事にありついた。充実の日々、満喫中
だったはずだが最近は調子が狂う事がある。

今契約中の上得意。親の依頼で、重症の
人格破壊を快癒させ、任務完了したのだが、

その後も契約継続で未だに「ここ」に来続ける。
「ここ」は私の場所じゃない。契約によりあつらえた

仮初の場所。契約が終われば直ぐに放棄され
お互い見知らぬ人となる。そうだ。彼女はここでしか

私に会える事はない。それがマインドトラベラー。
MITA(マイタ)が全ての連絡を取りつぐ事になっている。

国際的な取り決めだ。これがあるから安全に
活動出来るというものだ。破れば重い罪になる。

だから、全ては契約の有無が決定する事だ。
今度こそ継続なしで契約は満了だ。

なんとなくロビーを見渡す「黒き雷光」さん

あの両親も、娘には負い目があるのかいつまでも
こっちに依存し過ぎだな。放置といってもいい程だ。

そもそもMITAもおかしいぞ。私の仕事は完璧だ。
完癒したのに何でまたこっちに契約振ってくる?

遊ばれてるんじゃあるまいか? あいつらたまにワルだから。
気持ちは理解出来なくはないから、余計腹が立つ。

私も社畜を勤め上げ晴れて自由を得た男。
業務にかこつけ憂さ晴らし。たまにはやってみたいもの。

だがなぁ。。。それの矛先を、私に向けんで欲しいなぁ。
今度、担当つかまえて飯でも奢ってみようかな。

ちょっとは加減してくれる様になるかもしれないし。
「ねぇねぇ、聞いてる?」 そうだった。問題娘が来てたんだ。

今はひとまず相手して報酬分は働くさ。
じっと相手の眼を見ると、訝しそうな顔をした。

「なに? どうしたの?」 言ってくる。
「元気になったと思ってな」 返すと真っ赤な顔をした。

「急に何を言い出すの!」怒ってそっぽを向いたまま
ぼそりと呟く声がした。

「そんなの当たり前じゃない。あなたが治したんだから」
これがあるからこの仕事。辞められそうにないんだよ。
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 説明回になります。以下が明らかになります。
①雷光は定年までは普通のブラック企業を勤め上げた元社畜である
②退職後に国際的な資格試験に合格してマインドトラベラーになった
③通常患者の治療は個人情報保護のため、秘密の場所で行われる
④治療が終わればその場所は廃棄され、お互いに会う事もなくなる
⑤患者と直接接する事はなく常にMITA経由で連絡をとる義務がある
 (MITA=マイタ、については後で出てきます。)
⑥今回治療完了後に謎の契約継続があった
⑦ともあれ、この仕事をやってて良かったと思う
 主人公は元社畜なので、多少苦労はあっても報われる瞬間というのがあり、そこに幸福感を感じてしまいます。その采配はMITAが握っているのでいわゆる「やりがい搾取」をされている形です。

ロビーで佇む「黒き雷光」さん