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岡山芸術交流でオクトさんを見て得た気づきについて


オクトさんが参加された作品が展示されている「岡山芸術交流」という大規模な国際芸術展に行ってきました!!

作品の感想を書こうとしたら話題が広がりすぎてまたも長編になってしまいました。ダンスについても偉そうに語っていますがあまり真に受けずに、一意見として読んでいただけたら幸いです。

よろしくお願いします!



オクトさんが参加された作品はMy-Linh Leさんというアメリカのアーティストの
「demons of good dreams(良い夢の鬼)」
というタイトルの映像作品で、複数のダンサーがひとりひとり即興で踊る姿が様々な角度で撮影されつながりひとつの作品となっている。屋外でも屋内でもさんさんとした太陽の光の元撮られたそれぞれのダンスには柔らかな動きの中に不穏さが潜んでおり、鳥の囀りを聞きながら見入るとまるで白昼夢のようだった。この作品を通してやっぱり私はオクトさんのダンスが好きだなと直感的に思った理由を言語化していきたいと思う。
 

なぜこんなにもオクトさんのダンスが好きなのか、という話をするにはアニメーションというストリートダンスのスタイルについて書く必要がある。まずは岡山芸術交流の公式コンセプトブックからMy-Linh Leさんの言葉を引用したい。

ダンサーであることが第一で、映像作家は第二とする私にとって、既存のダンス映画の幅を広げること――奇妙でアンダーグラウンドなダンス世界を描くドキュメンタリーや、著名な白人俳優を中心にアクション満載の振付で派手に踊るヒップホップダンス映画の枠を超えること――が重要だった

私はこの言葉に大いに納得した。オクトさんに出会って初めてストリートダンスやダンスバトルに触れた私は、それらが何たるかを知るためにいくつかの映画を見た。何かの情報を得たいと思ったとき大抵本を探して読むのだが、ダンスのことは文字では絶対にわからないと思ったからだ。だが取り上げられるのはやはりブレイクダンスやヒップホップなどが多かった。My-Linh Leさんの言うように派手で映像映えするジャンルだからという理由もあるのだろう。私が知りたかったものとは違った内容ばかりだった。私が求めていたのは、アニメーションとダンスバトルのリアルな映像だったのだがこれが本当になかなかなかった。だからMy-Linh Leさんの作品を見たとき、めちゃくちゃこれだ!!と感じた。と同時に、自分がなぜストリートダンスの代表格であるブレイクダンスに興味を持たなかったのかがわかった。アニメーションと比較するためにも少し触れておきたい。


ダンスバトルとブレイクダンスは非常に相性がいい。ギャングの抗争からうまれたダンスバトルが攻撃的で威圧的かつ相手や観客に見せつけ勝利することに重要性があることは間違いない。元来のダンスバトルとは殺し合いの代わりに生まれたものだ。そして目の前の相手とダンスで殴り合うということにおいて、ブレイクダンスほど相性のいいジャンルはない。大技につぐ大技を見せつけることで相手を圧倒させて勝利する。ジャッジがはっきりしているという点でとてもバトル向きなのだ。ブレイクダンスにはとくに常に戦う相手の存在が不可欠なのだと思う。対面の相手=他者に自分の強さをわからせることが大きな目標に思えるからだ。つまり自分の外側にいる"他者"への意識がものすごく強い。外への動きが激しいと言い換えることもできる。一方ブレイクダンスが外への動きなのであればポップダンス(アニメーションを含む)は内への動きだと言えるだろう。ポップダンスは、自問自答だ。流れてくる音楽に対し自分の身体のどの部分をどう動かすのか?技をどうつなげていくのか?自分のイメージを表現するには?という自らの問いに対して身体で答えていく。それを繰り返し繰り返し様々な音楽に対して行うことで、技のニュアンスの中にあるいは合間にだんだんと自分らしさが出てくる。そうやって積み重なってできた自分だけのムーブがその人の持つ世界となり、その世界がどれだけ戦う相手や観客を飲み込めるか、夢中にさせられるかがポップダンスのダンスバトルにおいて重要なのではないだろうか。内なる動きに相手を巻き込めるかどうかが勝敗に関わってくるように思う。ようするに私は、オクトさんのその世界にずっと魅了されているのだと言える。他者に勝つための動きよりも自己を表現する動きの方が好きだから、ブレイクダンスではなくポップダンスに興味があるのだと思う。

先述したようにポップダンスの中でもアニメーションというスタイルがある。オクトさんのダンスもこのスタイルだ。どういうスタイルかというとこれはロボットダンスを例に出すとわかりやすい。思い浮かべてもらったらわかるのだが、ロボットダンスは“ロボットそのものに成る”ダンスだ。抽象的に表現するのではなく自分の身体を使ってロボットに成りきる。何かに成りきって自分の身体で表現するのがアニメーションの特徴的なスタイルだ。これはロボットだけに限られた話ではない。アニメーションの技のひとつで「ウェーブ」がある。日本語でいう「波」の動き。私が高校生のとき創作ダンスの授業があり、ふわっと「この動きは波のイメージです」と教えられ「これ波なのか?」と思いながらもなんとなくクネクネしていたのを思い出すが、アニメーションのウェーブはそんな“イメージ”のものではない。もちろん波を想像しながら身体で表現していくのだが、波を“作る“というよりはやはり“成る”に近い。“波に成る”とはどういうことか。ここでオクトさんのお師匠さんであるRickyさんの投稿を共有したいと思う。


ちょっとほんとにえげつなさすぎてもはや「これです」としか言いようがないのだが、頑張って言語化すると、私は海の波そのものに見える。川のように一方向の水の流れではなく潮の流れを感じる。海独特の潮の流れによって大きくなったり早くなったり渦になったり時に荒ぶって人を脅かす波。人間には骨という硬くて曲がらないものが入っているはずなのにどうしてこんな動きができるのか…?と信じられないがこれが"波に成る"ということだとわかっていただけたと思う。

このようにアニメーションは人間離れした技が多い。人間ではない何かを表現するには最も適したダンススタイルだと言っていいだろう。今回オクトさんが出演した作品の中でもそのスタイルがしっかりと活きていた。「demons of good dreams」、作品のタイトルを見たときに、なるほど!と思った。何かに成るのがアニメーションなら、オクトさんは悪魔に成っている、という見方をするのが私の中ではしっくりきたのだ。このタイトルのいうデーモンは所謂桃太郎で出てくるような日本的な鬼という意味だろうが、そうではなく西洋の、以下の写真のような姿の悪魔を想像している。

様々な動物の要素を持つキメラのような悪魔。この悪魔の姿が頭に浮かんだときにまず「こいつ四つ足で動きそうだぞ?」と思った。
オクトさんの特徴的なムーブとして地面に手をついた四足歩行がある。この時点で人間ではない生き物をイメージしているのは間違いないが、なんの生き物かは想像ができていなかった。四足で歩く生き物はたくさんいて、犬や猫、馬や熊などは想像しやすいがカエルやワニも四足ある。オクトさんの四足歩行は地べたを這うワニのようにも筋肉質なオオカミがのしのしと歩いているようにも見えるときがある。実際特定の生き物になろうとしているわけではないんだろう。身体のぬるぬるとしたうねりは蛇のようだしきゅるきゅる回る首はフクロウのように不気味で、いろいろな生物に似た動きが身体の至るところで同時に行われているからこそ全体で見るとキメラのような現実世界にはいない生き物に見えてくるのだ。

次に決定的だと思ったのが腕の動き。鋭い爪で空を裂き、力が込められ緊張をはらんだ指先がはらはらと流れ、背中へ回した腕が骨ばったカクカクとしたうねりをするとき、これは羽根のようだと思った。コウモリのように鋭い爪を持つ皮だけの骨ばった羽根。もちろん腕の動きというのは様々な意味合いをもたらす非常に表情豊かなものだ。コウモリのような羽根というのもひとつの表情にすぎないが、そのイメージがより一層バサリと大きなそれを背中から生やしている悪魔を連想させた。
悪魔がどう動くかなんて誰も知るはずがないということとオクトさんの動きから伝わる"得体の知れない生き物''のイメージがピタッと当てはまったように感じ、私はひとり頷きながら作品を見ていた。

岡山市の廃校と神社に飾られたその作品から私はこのような気づきを得ることが出来た。普段はダンスバトルに参戦し爆音の中で踊るオクトさんを見ることが多いから、無音かつ明るい空間でゆったりと踊る姿は新鮮だった。オクトさんは音楽や歌詞をとても大事にされており、ムーブにもそれが表れるのだが、音がない状態はオクトさんの内への動きをより顕著にさせていた。私もものすごく歌詞を聞く人間なので歌詞世界を表現しているオクトさんの振付が大好きなのだが、オクトさんが自分のものにしてきた技が歌詞ではなくオクトさん由来でつながっていくのを見続けられたのが本当に嬉しかった。私は、ダークで怪しくて得体がしれない、オクトさんだけのダンススタイルが好きなんだと心底思った。そういうほの暗さが私の中にもあることを共鳴するように思い出させてくれる。見失いたくないものだからこそ私はオクトさんのダンスが好きなんだろう。


ここまでかなり断定的に書いてきたがこれはただの非常に個人的な感想でありひとつの解釈にすぎない。私もこの解釈を前提にはせずここに書き残しておくことで、またフラットな目線で日々進化し続けるオクトさんを見ていきたいなと思う。素晴らしい機会を本当にありがとうございました!!!


オクトさんの今後益々のご活躍を願って。



いろり


オクトさん
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