第37回 スカーフ・コンプレックス


スカーフについて語ってみようと思う。
これを読んでいるあなたの中で、今スカーフを巻いてますよという人はどれくらいいるだろうか。

かつてスカーフがマストアイテムだった時代があった。
いや、現在もファッション界では昨年後半から「空前のスカーフブーム」だそうだが、実際街では所謂スカーフらしいスカーフはあまり見かけない。もちろんショールやストールなどの巻き物類は、随分前から日常のファッションとなっているも、スカーフらしいスカーフは、飛行機に乗った際に見るCAさんのものくらいの影の薄さである。
10年くらい前からずっと「スカーフがきてる!」と言われつつも、実際は全くきていないと思うのだが、この認識の違いはどこからくるのだろう。今もGUCCIなどのハイブランドではお家芸の華やかなスカーフ柄が人気であるが、かつてのようなスカーフ人気というのとはちょっと違うような気がする。
80年代バブルの頃、スカーフは一斉を風靡していた。HERMESやFerragamoといったハイブランドのシルクのスカーフ全盛期で、猫も杓子もスカーフをしていたと言っても過言ではない。かく言う私もFerragamoの動物柄が好きでこつこつと集めていたのだが、いざ着用しようとするとこのような大判のシルクのスカーフはなかなか手強い。「スカーフの巻き方」なる本を買ってきて練習したりもするが、どうも写真のように格好良く巻けないのだ。また柄の自己主張が強いので、コーディネートに苦心する。さり気なくワンポイントで取り入れると言うは易しで、どうしてもさり気なくならない。我が強いのである。しまいにはあきらめて、一枚の絵として楽しむために額に入れて飾っておいたが、そうするに足る美しいデザインであったことは確かだ。
今また80年代ファッションのリバイバルという話もあるが、あのバブリーな出で立ちをそのままやろうとする人はいないだろう。スカーフもまた、当時のようなきっちりとした巻き方は流行らない。一時期派手なスカーフをバッグに巻くのが流行したことがあったが、それももう流行遅れだそうだ。もちろん自分が好きでやるのなら流行もへったくれもないのだが、いまの気分としてはやはりもう少し肩の力が抜けている使い方の方が気持ちが良い。

そういえば少女のイメージにはあまりスカーフというアイテムは浮かばないが、しかしここでセーラー服を思い出してみよう。セーラー服にはスカーフが必要だ。ネイビーのセーラーに白のスカーフ、白のセーラーに黒のスカーフなど、いくらでも組み合わせが考えられる。いや、でもこの場合のスカーフは柄物ではなかった。あくまでもセーラー服に合わせるスカーフは無地でなければならない。
やはりスカーフの難しさは、その「スカーフ柄」そのものにあるのだ。HERMESなら馬具柄、GUCCIなら花柄、Ferragamoなら動物柄と、各ブランド特徴的なスカーフの柄がある。80年代に流行ったHERMESのスカーフは、その馬具柄のゴールドの印象が強く、それがバブリーなイメージと結びついてしまったのだろう。本来とても素敵なデザインであるにもかかわらず、なんとなく気後れがするのは残念なことだ。
実際「カレ」と呼ばれるHERMESのスカーフは現在進行形で進化している。1957年に発売の世界で一番売れたとされる柄「ブリッド・ド・ガラ」から、今年発売の大胆な抽象柄まで、どんなコーディネートにも合うような柄が揃っているので、少女に相応しい柄というのもきっとあるはずだ。

颯爽とスカーフを首に巻くのはなかなかお洒落なものだと思うのだが、まだまだそれには程遠い。
いまの気分に合わせてスカーフを使いこなせるまでには、修行が足りない今日この頃である。


登場したブランド:GUCCI
→そういえば2015年にCOMME des GARCONSがGUCCIとコラボしたスカーフは、GUCCIの伝統的な花柄に派手に血が飛び散っているという凄いものであった。御多分に洩れず、アレッサンドロ・ミケーレのデザイン。いや、褒めてますよ。
今回のBGM:「軍隊ポロネーズ」ショパン作曲 ウラディミール・ホロヴィッツ演奏
→かのホロヴィッツは1983年と1986年の2回来日している。おりしもバブル真っ盛り、高額のチケット争奪戦の狂騒はよく覚えているが、1回目の演奏は不本意な内容だったため、挽回しにもう一度3年後に来日したというのが彼らしい。稀代のピアニストの弾くショパンは、私には少々暑苦しすぎるのだが。

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