第23回 傾いて候


危機裸裸商店というブランドがある。
ユニークでインパクトの強いコルセットや帽子で有名なブランドで、多くのミュージシャンなどに衣装を提供していることでも有名だ。危機裸裸商店は一点もののいうなればオートクチュールだが、もっと手の届く価格帯のプレタポルテであるDangerous nudeという姉妹ブランドもある。
デザイナーのkikiはもともとはCA4LAという帽子のブランドに勤めていたが、在籍中に自分でも制作を始め、2002年に「危機裸裸商店」という個人ブランドを今は無き原宿同潤会アパートに立ち上げ、同時期にHPとウェブショップを開設する。

さてなぜ突然危機裸裸商店について書いているのかというと、デザイナーのkikiとは長い付き合いのいわば盟友とも言える間柄であるからである。
彼女がウェブショップを作ったその第一号の客が私であった。確かゴスロリバイブルだったと思うが、それに掲載されたわずか1ページのストリートスナップの小さな写真の中に、これまで見たことのないユニークなコルセットを着ている人を見つけたのだ。虫眼鏡が必要なほどの小さな活字で書かれたそのコルセットのブランドが、「危機裸裸商店」というこれまた一度聞いたら忘れない名前であることを知ると、すぐさまネットで検索してみた。ヒットしたページには、数は少ないながらもどれもとても個性的でこれまで見たことのないコルセットと帽子が並んでいた。
早速その中の1点を注文してみたが、届いたそのコルセットを着用してその着心地の良さに驚いた。それまでもコルセットは好きで外国のものなども着用してはいたが、自分の骨格的な問題もありどれも長時間の着用は耐えられなかったのだ。しかしこのブランドのコルセットは着けていても痛くも苦しくもならない。コルセットといっても体形補正のためのそれではなく、ファッションアイテムとしてのものを求めていた私にそれはとてもしっくりとはまった。
それからその「作品」とも言える豪華で挑戦的なデザインのコルセットや帽子を、ウェブで注文したり実店舗に行ったりする中で、デザイナーのkikiとも個人的に親しくなり、オリジナルのオーダーも依頼するようになる。
その頃から危機裸裸商店は、「ゴシック&ロリータ・バイブル」や「KERAマニアックス」などの雑誌の企画や実際のライヴなどで、数々のアーティストの衣装を担当するようになっていった。
その中でアーバンギャルドというバンドの衣装制作には私もkikiと共に関わってきたのだが、2018年4月パラボリカ・ビスにて開催した「アーバンギャルド×危機裸裸商店ー不在の少女の衣装部屋」という展覧会での、2012年からの衣装全ての展示は壮観であった。そして同時に行った「移動劇団・危機裸裸商店 春の興行の舞台裏」という展示では、衣装だけでなく空間芸術をも含めて自分の世界にしてしまうkikiの奇想と実力を目の当たりにすることになる。この素晴らしい空間は今、危機裸裸商店の新しいアトリエショップとして生まれ変わった姿で見ることができる。

危機裸裸商店のデザインを一言で表すなら、それは「過剰」という言葉だろう。質素簡素倹約などという言葉とは程遠い、エネルギッシュで攻めたデザイン。傾く(かぶく)とはこういうことではなかろうか。
少女が普通である必要はない。傾奇者で上等だ。


登場したブランド:危機裸裸商店
→Dangerous nudeに続いて登場した姉妹ブランド「NudeSOX」では、「大人ゴシックプロジェクト」も進行中。
今回のBGM:「Age of」 by ONEOHTRIX POINT NEVER
→「21世紀の電子バロック」と呼ばれるOPN。現代を代表するそのエッジィな音楽は、相反するアイテムを放り込んでおきながら混沌とはならない。その尖った感性がkikiのデザインと通じるものを感じさせる。

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