第27回 白猫は笑わない


キティはいつから笑うようになったのだろう。

ハローキティといえば誰もが知っているキャラクターだ。今や世界中に進出しており、日本発のキャラクターとしては最強と言ってもいい。
ありとあらゆるものとコラボしているので「キティは仕事を選ばない」などと揶揄されているが、たとえどんな形態になっていてもそれがキティだとわかるのだから、ある意味凄いことだと言える。私が一番うけたのは、携帯の待ち受け画面でエヴァンゲリオンの使徒に扮したキティで、それを見た人の「やめなさいキティ!ネコに戻れなくなる!」というツイートに爆笑してしまった。
ともあれ、トレードマークの赤いリボンに三角耳。それだけでもう「キティだ!」とわかってしまうのは並大抵の力量ではない。

サンリオを代表するキャラクターであるハローキティは、1974年に生まれた。当初は子供向けと考えられていたため、赤や紺と言ったいかにもという色の文房具を中心としたラインナップだったが、デザイナーが2代目3代目と変わるにつれ生活雑貨などにも進出し、使われる色や形もバラエティに富んでくる。
1990年代半ばに高校生やOLをターゲットにした商品を展開すると、当時人気の芸能人が「キティラー」を公言するなど火付け役となり、爆発的なブームが起こった。全国各地の名産や特徴を生かした地域限定キティ、通称「ご当地キティ」なるものが流行りだしたのもこのころからだ。VIVITEXなるブランドで、ちょっと大人向けに差別化したラインナップも出現した。
元々は白い猫(の擬人化)という設定であったキティは、そのうち「ロンドン郊外在住・身長はリンゴ5個分・体重はリンゴ3個分」という訳のわからない設定が付与され、両親やらボーイフレンドやらも現れる。キティに双子の妹のミミィがいるなど、どれだけの人が知っているだろうか。
その中でも一番の謎設定は、キティの飼い猫というチャーミーキティだ。猫が猫を飼ってどうする、というツッコミなしではいられないこの設定。チャーミーキティは二足歩行するキティとは異なり、外見は極めて通常の猫に近いのだが、それにしても無理がないか。

ご存知の通り、キティには口がない。
これはキャラクターという性質上不可欠の要素である。キャラクターに表情があってはいけないのだ。表情がないからこそ、持ち主はそこにどんな表情も読み取ることができる。同じサンリオのキャラクターであるマイメロディやシナモロールには口が描かれて表情が豊かであるが、それゆえ汎用性はキティに比べて低いのではないだろうか。
同じく人気のあるキャラクターにサンエックスのリラックマがいる。このリラックマには口があるが、大概において無表情を貫いていることが多い。同じサンエックスが出したキャラクターで以前一世を風靡したたれぱんだには、やはり口が描かれていなかった。
口が無いから表情が固定されていない、それこそキャラクターというものの真髄であると私は思う。

最近のキティは随分と表情豊かになっている。口が無くても笑ったりウィンクしたりと、少々サービスが過ぎるのではないかと心配になる。
キティの設定は、ピアニストか詩人になることを夢見る少女だそうだ。少女はそんなに誰も彼もに愛想良くしなくていい。
ただでさえこの社会では、自分を守るために無理に笑顔をつくらざるを得ないような場面が多いのだ。キティには無表情のまま世界で戦っていてほしい。


登場したキャラクター:チャーミーキティ
→そうは言っておきながら猫好きとしては、チャーミーを外せないだろう。はい大好きです、コレクターでした。
今回のBGM:『コレカラー』by コレサワ
→「死ぬこと以外かすり傷」、タフでなければ少女でなんかいられない。

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