第2回 アリスの呪縛


『少女アリス』というあまりにも有名な写真集がある。
沢渡朔の名前を世に知らしめた作品で、少女といえばアリスというイメージを強烈に植えつけた嚆矢と言ってもいいだろう。

写真集のテーマになったのは言わずと知れたルイス・キャロル作の『不思議の国のアリス』だが、初版を飾ったジョン・テニエル挿絵のアリスは、少々気難しくプライドの高そうな少女として描かれている。
テニエルが描いたアリスがモノクロであるのに対し、ディズニーのアニメーションでキャラクター化されたアリスは、真っ黄色の髪、青い服に白いエプロン、白いタイツというかなりインパクトの強い配色になっており、今ではアリスといえばこの陽気な出で立ちが一般的になってしまった。
ルイス・キャロルことオックスフォードの数学者であったドジソン博士は、沢山の少女の写真を撮影したことでも有名である。残された写真の中には『不思議の国のアリス』を物語ってもらったアリス・リデル当人のものもあるが、こちらは現在のアリスのイメージとは異なり、濃い髪の色にぱっつん前髪のおかっぱ頭であるのが面白い。そして写真の中の少女たちの服装は、概ねクラシックなドレスである。
沢渡の『少女アリス』は、ドジソンが撮影した少女の写真とテニエルの挿絵の両方を合わせたような姿で撮影されている。ふわふわのブロンドに白の長袖の幾重にも重なったドレス。偶像としての少女にもっともふさわしい格好と言えよう。
かくいう私も10代の頃、部屋にこの写真集のポスターを飾っていたくらい『少女アリス』に夢中になった。少女のイメージ=『少女アリス』であった。少女は可憐で神聖でなければならなかった。
しかし本来の物語のアリスは、気難しく不機嫌でプライドが高くお喋りだ。決してこの『少女アリス』に出てくるような物静かで儚い少女ではない。我々は作り上げられた偶像のアリスに縛られすぎてはいないだろうか。

2018年のピレリのカレンダーで、写真家のティム・ウォーカーは全て黒人のモデルを使って『不思議の国のアリス』の世界を描いた。それはキッチュでパンクで、なにより物凄く格好良かった。
アリスはもっと自由になれる。少女も、だ。


登場した本:『少女アリス』 沢渡朔著
→度々の復刊を繰り返しながらも残念ながら現在は絶版となっている。刊行から45年経った今、当時8歳だったサマンサはどうしているのだろうか。
今回のBGM:「Polly Scattergood」by Polly Scattergood
→睨みつけるような眼差しのジャケットの少女が印象的な、イギリスの宅録少女のデビュー作。荒涼としたヒースの丘に吹き荒ぶ風を思わせる音作りが素晴らしい。

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高柳カヨ子

精神科医/元法医学教室助手/少女批評家/Bunkamuraギャラリー「新世紀少女宣言」キュレーション/『夜想ーゴス特集』インタビュー/『夜想ー少女特集』評論/『S-Fマガジンー伊藤計劃特集』アーバンギャルド論/パラボリカ・ビス「アーバンギャルド10周年記念展」キュレーション

少女主義宣言

少女とはなにか。少女であるとはどういうことか。 あらゆる時代と時間を超えた少女たちに捧げる少女論。 「不在の少女」を探して言葉の森に分け入る試みを始めよう。 ヘッダー:「あのコになりたい」宮本香那作
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