第39回 マイ・ブックショップ


本屋があるととりあえず入ってみる。本屋という空間が好きなのだ。
なんらかの理由で時間が余った時、本屋があれば何時間でも時間はつぶせる。以前新宿で2時間くらい時間を持て余してしまった時には、紀伊国屋書店の外国文学の棚を堪能した。端から面白そうな本を手に取って選んでいたらあっという間に時間が経ったのだが、見終わった棚はまだ2つ程度でしかなかったという。それ程じっくり見ていたということで、まだ見ていない棚が残っているということが名残惜しく、かえって時間が足りないくらいであった。

本好きあるあるで、幼い頃親に本を読み聞かせてもらった経験があるという人は多いと思う。
その場合読んでもらった本は大概は絵本なり児童文学なりだろうが、私の母親は一風変わっていた。今でも強烈に覚えているが、小学校に入ったばかりの頃おやすみ前に読み聞かせられた本は、有吉佐和子の『女二人のニューギニア』である。たまたまその時自分が読んでいた本を読んでくれたのだろうが、それにしても凄いチョイスだ。何を思って小学校低学年生にこの本を読んで聞かせたのだろう。サバイバル技術でも身に付かせようと考えたのであろうか。

ともかくその甲斐あってかなくてか、本好きにはなった。
小中高と図書委員をやり、大学に入ってからは本屋でバイトをした。バイト先は今は無き銀座の老舗本屋、近藤書店。毎週日曜日に通っては、バイト代をせっせとまた本代に還元していた。レジの後ろの棚に国書刊行会の「幻想文学大全」が全冊並んでいるという、今思えばかなり通好みの品揃えで、有名な常連のお客さんも多かった。そういえば植草甚一もこの書店の常連の一人で、何度かお顔を拝見したことがある。
メインのレジの他に、奥の方のアート関連の棚の前にももう一つ小さなレジがあり、そちらでの店番を任されると得した気分になった。そこはメインと比べてあまり忙しくなかったので、そこら中にある好みの本を見放題読み放題だったからである。中にはかなり濃い趣味の人向けの、今では到底販売できないであろう危ない内容の写真集などもあったので、レジの奥でこっそり眺めるのが密かな楽しみであった。
自分は書店で本にカバーはつけてもらわない派であるが、カバーをかけるのは得意で、自分で言うのもなんだが物凄く速かったと思う。あと開店前に書棚に並んでいる本の面を揃えると言う作業が好きで、今でも本屋に行くと、書店員でもないのについ面を揃えたくなる。

一つ目の大学である東京理科大学を卒業した後、浪人をして信州大学医学部に入り直した。そしてここでもまた大学生協の書籍部でバイトをした。
大学にある書店なので、学部の内容に則した本を取り揃えてあるのだが、医学部関連のテキストは想像を絶する金額のものが多いので、棚卸しの時などに思わず桁を間違えそうになる。自分の守備範囲ではない分野の棚の棚卸しに当たると、これまで興味を覚えなかった本に目がいくこともあり、これもまた幅広い本と出会う良い機会になった。
地方に住むと歩いていける範囲に大きな本屋がないため最近はついネットに頼りがちであるが、やはり本好きとしてはそのように思ってもみなかった本との出会いがあるからこそ、本屋に行く楽しみがあるというものだ。

「少女」という謎にたどり着くきっかけとなったのも全て本であり、本屋という場所である。
本屋は私にとって、今も昔もまだ見知らぬ世界へと開かれた扉だ。


登場した本屋:近藤書店
→銀座の現在Diorのビルとなっている場所にあった老舗書店。丁度バイトをしていた時に創業100周年の記念パーティがあったのが懐かしい。
今回のBGM:「FANTASY」by パークハイツ楽団
→中山うりと仲山卯月のナカヤマ兄妹のファーストアルバム。ちょっとひとをくった歌詞の中に、懐かしさと風通しの良さを感じる。それにしても「バカ兄妹」というタイトルのインパクトの強さよ。

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