見出し画像

超濃厚なレポートを発信しているアクティブファンドに注目!  #月次レポート研究所のポッドキャスト テキスト版

こちらのポッドキャストのテキスト版です。

前半の内容はこちら


renny:先日ブロガーの下山さんのツイートがきっかけで、こんなファンドあるんだ!と存在を発見したファンドがありまして、ここからはそのファンドのお話をしてみたいと思います。

renny:りそなアセットマネジメントさんの「日本株式インパクト投資ファンド」なのですが、吉田さんこのファンドの存在はご存知でしたか?

吉田:はい。これは設定当初から知ってます。(NPOの活動の関係でサステナブル投資関連の投資信託にはすべて目を通しています)ただ、謎なファンドなんですよね。

renny:謎なファンドっていうことの最大の理由は…

吉田:どこで買えるのかわからない。

日本株式インパクト投資ファンドのインパクトレポートを読む

renny:そうなんですよね。りそなアセットマネジメントさんのファンドのページで、販売会社のタブをクリックすると、現在お取り扱いしている販売会社はありませんと出てくる。これはなんだ?というのはさておき、実はこのファンドに一番注目した理由は目論見書・レポートのタブにあるインパクトレポート。僕は習慣的にこういうアクティブファンドのサイトを見ると、まずその月次レポートとか運用報告書を見てしまうんですが、このインパクトレポートがすごい。こちらのレポートを吉田さんはご覧になりましたか?

吉田:はい。このレポートすごく良いですよね。これだけ力を入れた内容なのに、買い方がわからないとなると、誰に向けて書いているのかますます謎めいてきますが。

renny:そうですよね。このレポとは「インパクト投資とは?」というところから説明をされていて、5ページぐらいにあるんですけど、このファンドでは、「長期厳選投資」「対話・エンゲージメント」「インパクト評価・レポーティング」という三つの要素によってインパクト投資を実践していきますよと説明をされています。このあたりはどう評価されますか。

吉田:とくにインパクト評価、成果を検証して、それを開示するっていうところまでセットにして初めてインパクト投資を名乗れると思うので、このやり方でいいと思います。

renny:そうですね。インパクトをどう図るかは試行錯誤みたいなところはあると思いますが、それを評価しよう、捉えようとする姿勢、そして評価し続けることによって、その質が上がっていくんじゃないかなと思います。6ページの「インパクト評価・レポーティングを通じた価値の見える化」部分で、

「当社のインパクト投資では、リターンの獲得のみならず、インパクトを生み出すことも運用の目的のひとつと考えています。そのため、投資の成果として、投資先がどのようなインパクトをどのくらい生み出しているのか、定期的に評価し、お客さまに見えるかたちでレポートしていくことを重要視しています。」

「お客さまに投資いただいた資金が、どのような投資先のどのような事業活動を支えているのか、結果としてどのようによりよい社会が実現しているのかについて、わかりやすくご理解いただけるよう努めてまいります。」


renny:このように非常にいいこと書いてありますが、お客様になかなかなれないという…。この後、日本の社会課題が多岐にわたって挙げられて、それに関わる投資先が掲載されています。8ページでは「10の課題領域(Impact Target)と投資先企業」ということで、防災・減災、次世代まち作り、ライフライン機能の維持改善などなどテーマが10個並んでいて、その課題に関連する投資先の会社がここですよと。少しベイリー・ギフォードのインパクト投資ファンドと近いものを感じますね。

renny:分類をした後、それぞれのテーマについて、例えば最初に出てくるターゲットは9ページの「次世代まちづくり」。今何が問題かというところから始まって、具体的なデータも示されていて、改めて認識させられるところもありますよね。

吉田:ベイリー・ギフォードよりすごいんじゃないか?、っていうぐらい充実してます。

renny:そうですよね。続く11ページでは「次世代まちづくり」に関係する投資先企業ということでカチタスさんが紹介されています。地方の中古住宅の再生流通事業、つまり結構古めの家を買い、それをリノベして販売されるっていう事業だと思いますが、その事業を通じてどういうインパクトを出しているか。ここでは二つ示されていて、「住宅購入の経済的負荷低減」、つまり家買うと高いからその負荷を下げましょうと。あともう一つは「就業の誘発」。これはなんですかね。

吉田:都心ではなく地方に引っ越してきて働くってことですかね。

renny:そういう地域では少し人口減少が目立つから、住環境を移動させることによって、そこで働く人が増えるってことなのかもしれないですね。カチタスさんの事業を通じてどれだけのインパクトを与えたかが定量的に数字として示されていて、次のページには定量・定性的な評価がかなり詳しく書いてあります。これは本当にすごいな。

吉田:これを読んでいて私が興味あるのはやっぱり「食」の話。23ページのところにオイシックス・ラ・大地の話が出ていて、農家1軒当たりの収益性向上額220万円と書いてあるんですよ。これはすごいなと思って、オイシックスのウェブサイトのどこに書いてあるのかな?と探してみても見つからなくて。これは対話の中でこういう数字を拾ってきているのかも。

renny:なるほどね。あと食品廃棄の削減のトン数も掲載されていますね。これはサブスクリプションのモデルだから需要予測の精度が上がることによって、作りすぎないとか買いすぎないとか、そういうところに繋がっているんでしょうね。

吉田:うちも大地を守る会の宅配を取ってますが、他の業者よりちょっと高いんですよ。だから他で買えば安いからと思うことありますが、こういう社会的インパクトを見せられると、そんなこと言わずに大地で積極的に買わないといけないな、って思わされました。これも勉強になりましたよ。

renny:先ほどの契約農家1軒当たりの収益性向上額については、「既存流通から生産量の一部を同社のプラットフォームに移すことで売上に占める生産者の手取り額の向上に寄与しています」と書かれていますね。生産者の粗利が良くなったってことですかね。

吉田:いろいろな仲介業者がいなくなったおかげ、っていうことでしょうね。

renny:オイシックス・ラ・大地のお客さんが増えれば、食品廃棄の削減量が増え、生産者の収益性ももっと上がるのかもしれないですね。このように10個のインパクトターゲットについて、3,4ページ使われてるから、これだけで30ページぐらいはいっちゃうわけですね。さっき引き合いに出したベイリー・ギフォードのレポートよりも、さらに具体的っていう感じがしますね。

吉田:日本の課題を知るには、とても良い教科書みたいなところもありますね。

renny:最近ESGウォッシュだと非難されているESGのファンドも、このファンドに張り合うぐらいの気概を持ってやってもらいたいですね。

吉田:そうですね。

renny:オイシックス・ラ・大地は、他のインパクトテーマでも出てきていましたね。家事育児の負担軽減。ミールキットの販売で家事効率化による負担軽減効果1,600万時間。たぶん家事育児の負担軽減は少子化問題と直接にリンクしているところですよね。労働人口が減っていく中で1人当たりのパフォーマンス上げていくのが大事なので。こういう説明をするためにはこういうデータを取ってこないと、インパクトを評価したことにならないよね、とよく練られてるんだなと印象を持ちますね。日本の課題がもちろん全て網羅されてるわけではないでしょうけど、社会課題が今、どういう状況なのか、現在の環境を知るためにすごく役に立つレポートですよね。

吉田:まず総論が2ページで示されて、次の2ページで各論として投資先の話が出てくる形になっていて理解しやすいですね。

renny:もちろん月次で作れるレベルの内容ではないので、1年に1回発行されるのだと思います。充実したレポートがあって、投資の成果がしっかり出ていたら、フィーがどうこうという話には多少目をつぶってもいいんじゃないかなって思う。こういうレポート製作にかかる労力も含めてのフィーだ、と言えるぐらいの内容かなとは思いますね。

吉田:もしかしたら、りそなだからここまでのものが作れたのかな、とチラッと思ったりして。りそなは2003年に実質的に破綻して、国から税金を入れてもらって、生きながらえたという歴史があるから、社会に奉仕しなきゃいけないんだ、ということを講演で必ず話している印象があります。他の銀行は15時で窓口を閉めちゃうけど、それじゃ国民の立場にしてみたら不便だから営業時間を延ばすところからはじまって、金融業界の中では社会への意識が飛び抜けて高い印象があります。だから、今回のレポートみたいに、日本の社会課題を調べ上げた上でインパクト評価するというようなものは、りそならしいなと。

renny: 51ページから活動報告ということで、対話・エンゲージメント活動の事例を載せられています。個別対話が85件、オイシックス・ラ・大地さん、エン・ジャパンさん、カタチスさんとの対話の内容。こういう対話を前面に出したファンドはありますが、たとえばマネックスさんの場合はある程度の成果が出た後で説明というスタンスですが、このあたりはどう思われますか? たしかに株主還元を求めるような話だと、なかなか出せないのかもしれないですけれども。それ以外の対話は、現在進行形で説明・発信する方がいいんじゃないかなと。

吉田:できれば説明してもらいたいですよね。以前、鎌倉投信さんとサイボウズさんの対話を中継する企画がありましたよね。ああいうのは面白かったですし、ちゃんと対話をしてくれているのが見えるっていうのは大事ですよね。

renny:あの試みは1回限りで終わっちゃったようですが。でも、ファンドの皆さんが投資先のどこを課題としてご覧になってるのか、ああいう機会で話し合いをされることで、双方が共通で課題認識を持っているふうに見えるのか、投資家側だけがそう思ってたかというようなズレのようなところが見れるんで、ああいう機会はあった方がいいですね。株主になるってこういうことなんだ、と実感できるのかなと思います。

月次レポートのバックナンバーを読みたい!

renny:このファンドはどこで買えるのかわからないですが、月次レポートも出されています。月次レポートでは10個の社会課題に対して、それぞれ何社投資していて、投資のウエートはこれぐらいです、と出ていますね。こういうふうに示してもらうと理解がより深くなるかな。このレポートには投資先の紹介についても結構詳しく書かれていて、この月のレポートでは、ステラファーマさん。主力事業がホウ素中性子捕捉療法向けのホウ素医薬品の開発・製造販売ということで、最先端の治療のような感じがします。惜しむらくは、このひと月分のレポートしか閲覧できないこと。

吉田:そうなんですよね。設定した当初は特別レポートみたいなものも、ちょこちょこ出てたような記憶はあるのですが、今は見られないんですよね。

renny:やっぱり月次レポートができるだけ長い期間、掲載されていた方が、そのファンドがどういうふうに運営されてるのかが、連続写真のように見られるので、せっかくこれぐらい力入れて作られてるんで、前のものが見れるようなことを考えてもらいたいです。それはこのファンドに限らず、一生懸命作ってらっしゃるファンドの場合は特にそう思うんですよね。もういつ見ても内容が一緒とかだったら、いらないですが、しっかり作られてるものに関しては、すごく価値あるコンテンツ、資産だと思いますので、これをうまく活用するのは、すごく大事なことだと思うんですよね。

吉田:そうなんですよね。ちゃんと書いてあるレポートは何年分かを編集して、普通に本として売っちゃってもいいぐらいの内容のものがあるので、もったいない。

renny:歴史を語る資料にもなり得ると思うんですよね。運用チームの人たちが、当時の市場環境からこういう会社がいいと思って判断して投資判断していたのか、と研究する対象になり得るんじゃないかなと。

吉田:たとえば研究対象として振り返りたくてもできないのが、東日本大震災前後の東京電力への投資状況を知りたいと思ってもわからないんですよね。あの当時は社会的責任投資ファンドというカテゴリがあって、震災前はクリーンエネルギーといえば原子力ということで、多くのファンドが投資していたはずで、その後どのような投資行動をして、レポートにどう書いたかを振り返れたらいいなと考えても見られない。歴史資料としても結構重要じゃないかなと思うんですけどね。

renny:そうですよね。この日本株式インパクト投資ファンドは、1月収録分のポッドキャストの今年注目したいファンドには挙げていませんでしたが、非常に面白いファンドだなと思いますので、注目していきたいと思います。できれば月次レポートのバックナンバーが見られるようにしてもらいたいなという願いを込めて、終わりにしたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?