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プロセスファンド? 月次レポート研究所のポッドキャスト 2023年11月

こちらのポッドキャストのテキスト版です。


renny:去年10月にこのポッドキャストで投資信託の分け方についてお話をさせていただいて、世の中的にはインデックスファンドとアクティブファンドに分けられていますが、いまいちしっくりこないとずいぶん前から思っていました。去年10月の時点では「企業価値を探求しているかどうか」で分けたらどうかと、僕は発信してきましたがネーミングとしてどうなんだろう?と思ってたんですよね。

renny:ずっとモヤモヤしてる一方で、最近は先月のポッドキャストでお話したように、NISAが変わるということで、インデックスファンドの信託報酬の値下げ合戦が話題になっていて、そういうのちょっとどうかな?というふうに思うところもあり、吉田さんはそのあたりの動きには全然関心ないですよね?

吉田:ニュースでちらほら目にするぐらいで。そんな競争の仕方をするなら、運用会社を合併しちゃえばいいじゃん、と思ってしまう。

renny:そうですよね。ものすごいレッドオーシャンになってしまって、どうするつもりなんだろう。これでまたインデックスファンドに注目が集まるのかな。その一方であいかわらずアクティブファンドはボロクソに言われてるという構図ですよね。だから別の切り口やコンセプトが求められると思ってます。僕の読んだ好きな本で「続・ゆっくり、いそげ」の中で、結果最優先の思考様式のことを「リザルトパラダイム」と呼び、それは高度成長期の思考様式でもう時代遅れなんじゃないのと指摘されています。それに対する概念として「プロセスパラダイム」を提示し、成果を先に決めずに、過程、プロセスを追いかけることで、プロセス重視の思考様式をしてみようと提案されていました。この話をファンドに置き換えると、企業価値を探求することはプロセスであって、株価指数に勝つとか負けるとかリザルトを前提にしてない、というのが企業価値を探求するっていうことなんじゃないかと。ということで、企業価値を丹念に追求しているファンドのことを「プロセスパラダイムファンド」と呼んでみたらどうかと思ったんですけれども、吉田さんはどういうふうに思われますか?

吉田:言葉の使い方がちょっと気になるかな。パラダイムの一般的な使われ方は、トーマス・クーンの「科学革命の構造」から取られていますよね。

renny:はい、パラダイムシフトってやつです。

吉田:パラダイムという言葉に抱くイメージは、その時代に信じられていた考え方みたいな感じ。

renny:なので天動説から地動説がまさにそれに当たるっていう感じですよね。

吉田:だから名前にパラダイムっ入れないほうがいいんじゃないかなと思います。

renny:なるほど、パラダイムはいらないと。「プロセスファンド」、チーズみたいですね。インデックスファンドもリザルトそのものっていうような感じだと思うんで、パラダイムを入れなくてもいいのかなと思うんですけど、要は株価指数を上回るように運用しますと声高に表明してる、できるのかもわかんないのに目指します、というファンドもリザルトファンドなのかなと。

renny:パッシブ運用のよりどころになってる現代ポートフォリオ理論、あるいはCAPM、資本資産価格モデルでしたっけ。そういうようなものがベースになって、それがノーベル経済学賞を取ったっていうことで、すごいんだというようなことがよく書かれてますが、吉田さんはこのあたりの理論についてはどうお考えですが?

吉田:一通り学んで、もういらないや、って忘れちゃった感じですね。

renny:いらないやって感じられた一番の理由ってどんなところにあるんですか。

吉田:個人投資家として投資する分には、高性能なコンピュータを使って計算するとかはそもそも不可だし、その理論をもとにしたヘッジファンドか何かが1997年頃に潰れましたよね。(お詫び…ブラックショールズモデルとごっちゃになって話していました)

renny:LTCMでしたっけ。

吉田:そうですそうです。そういうこともあったんで、天才たちが1回失敗した理論みたいなイメージで、自分より頭のいい人たちがダメだったんだから。

renny:なるほど、そうですよね。ただ一方で人間の欲望は際限がなくて、そういう貪欲が世界経済を成長させるから、世界経済を支える会社で幅広く分散されたポートフォリオを持つのがいいんだ、というようなことで世界経済の成長の波に乗るのがいいんだというような認識についてはいかがですか?

吉田:インデックス指標自体もなんだかんだ言ってアクティブっぽいとこもあったりするし。S&P500なんて今は結局GAFA、マグニフィセントセブン次第みたいな感じだし。

renny:マグニフィセントセブンって何ですか?  7社?

吉田:GAFAにマイクロソフトとテスラ、NVIDIAを加えた7社だったと思います。

renny:そんな言い方するんですか!

吉田:大体そのあたりの企業の株価の動きによって、S&P500は左右されてしまう。

renny:1970年代のニフティ・フィフティ相場に近いような話ですかね。なるほど。これからの地球環境とか社会問題を考えずに、安易にパッシブのファンドを持つっていうのはどうなのかな?と思ったりもするんですよね。パッシブ運用には世の中の方向性を変える力はないんじゃないかなと。パッシブ運用がどんどんシェアを増やしたら、地球はどんどんもっと温かくなっていくんじゃないかなと思ったりもします。

吉田:限界はあるでしょうしね。あとは今のパッシブ運用のメインは先進国の年金運用なんで、人口動態からすると、これから本格的な取り崩しの時期に入ってくるので、もしかしたら世界の株式市場全体に対しては下押し圧力になってくるのかなとも考えられますね。

renny:先進国の年金に代わって、新興国の年金資金が買い向かうということも考えられるってことなんですかね。

吉田:そうですね。ただうまく入れ替わるのかなって疑問もあるので。

renny:ちょっと話を戻しますが、吉田さんはインデックス・アクティブと呼び続ければいいじゃんと思われてるんですか?僕はアクティブファンドって言われると、プロセスが全く違うファンドが同じのところに並べられていて、フランス料理もイタリア料理も洋食にまとめられているみたいでどうなの?と思ったりするのですが。

吉田:もしかしたら人間とAIの戦いの先取りなのかなっていう印象を持っています。すべてAIに任せればいいじゃないっていう流れと、いや人の手に残してやるべきだよねっていう戦い。

renny:まさにそのAIっていうのがそのマーケットっていうことで、パッシブ運用がAIってことになるんですよね。そういう見方はできるのかもしれないですね。ただそれでいくと結局争うのって勝ち負けなのかなという気もしませんか?

吉田:たとえばAI関連で一歩先を行くイメージの将棋の分野では、今は人間の棋士がAIと戦っても絶対勝てないレベルだと思うんですよ。でも人間が指す将棋って、今は結構注目されていて、ネット中継を見る人も増えてるんですよ。だからAIと人間のどっちが勝つかではなくて、楽しみ方が変わるみたいな。

renny:なるほどね。パフォーマンスがどうかになったらAIに軍配が上がりそうなだけれども、結果が欲しければそれでいいのかもしれないけど、無味乾燥というか、面白さがないっていうような感じなんですかね。

吉田:そうですね。

renny:そういう意味では今回のあり方みたいな話でいくと、よりプロセスにフォーカスして、人間臭さをより追求した方が、いいのかもしれないってことなんですかね。

吉田:そうですね。人間がやってることが見える形じゃないと残らないんだろうなって思うんです。

renny:お金の話なので結果を横に置くっていうのは難しいのかもしれないですが、どういうことをやってるのかっていうようなところに、注意を払ってというか関心を寄せるというようなことを考える方向に寄せていくっていうことですかね。

吉田:これからは人間が関わる意義があるかどうか?みたいなところが重要な社会になっていくんじゃないかな。

renny:逆にそれがないとSFの世界のようにAIが資本配分を決めるような世の中になってしまう。

吉田:そういう感じになっちゃうでしょうね。

renny:でも突き詰めると資本をどこに再投資するかっていうのをAIに決めてもらいますとする方が資本は増えるんですというストーリーなりますよね。それでいいっていう人もいるから、インデックスファンドは売れるんでしょうけどね。だから、ただ一方でそれで温暖化とかが本当に止められるのか?と思ったりするんですよね。もちろん人間が選んだから止められるのかという問題はもちろんありますが。ただ短期的な欲の方に走ると、どんどん地球に負荷をかけることになるんじゃないかなと。人間がやっても同じなのかもしれないですが、良心みたいなものがAIよりあるんじゃないかなと思ったり。いかに投資家がリターンをより多くもらえるようになるかっていうようなところに関心が集まりすぎているような気がしていて、それが強すぎるとAIは暴走するんじゃないかなと。

吉田:なんとも言えないですね。

renny:この間、吉田さんがブログで紹介されていた「客観は存在しない」とかってすごく哲学的な命題だと思うんですけれども、結局、人間って主観しか持ち得ないっていうことで、すべての事実をありのままに捉えることは不可能だってことですよね。

吉田:そんなような話は結構昔からされていて、たとえばナポレオンの時代の数学者ラプラスは、人間が未来を予想できないのは、全ての事象を客観的に理解する神様のような存在じゃないから、みたいなことを言って、その神にあたる存在が「ラプラスの悪魔」とかってキーワードでよく出てきたりしますね。

renny:ラプラスってガンダムシリーズで聞いたことある気がします。なんかそういうモチーフになってるような気がします。客観は存在しないという視点に立つと、近いのはマーケットなのかもしれないという見方もできるかもってことなんですかね。

吉田:どうなのかな。

renny:しょせん客観を見ることができないような主体がいくら集まっても、主観が集まる集合体にしかならない。この間、吉田さんが本の紹介をされていて、パッシブだアクティブだ、というようなところにも通じてるような気がしたんですよね。こういう禅問答みたいなのは、それこそギリシャとかローマの時代からやってそうな感じの話ではありますよね。

吉田:そうですね。

renny:プロセスなのかリザルトなのか、っていう切り口は、企業価値を探求するというよりは多少マシかなって思ったんですが。さっきの話に戻りますけど、インデックスとアクティブという分け方だと、イタリア料理とフランス料理を一緒くたにされていて、シェフの皆さんが不憫に感じて、そういうふうに思うんですよね。そういえば日興アセットマネジメントさんが、コンセプトファンドという言い方をしてたのを見たんです。要はアクティブファンドの中にコンセプトファンド。でもそれってテーマ型じゃないんですか?と言ったらそれまでなんですが。コンセプトファンドという概念を出されてて、コンセプトっていう言葉よりはプロセスの方がいいかなと思ったんですよね。人間が手触りを持ってやっていることが分かる、たくさん発信し続ける、プロセスを重視する方向へ舵を切ればいいのにと思います。そしてそういうファンドが増えてくると、この月次レポート研究所で取り上げるレベルの月次レポートが増えてくるんじゃないかなと。AIというかマーケットに連動するのではない、違うところを出すっていうのは、結果じゃなくてプロセスなんじゃないのかと思うので、プロセスファンドという表現がいいかどうかわかんないですが、そういうのが出てきてもらいたいっすね。

吉田:なんとなくもう大手の運用会社には期待できないのかなと思っていて。ESG投資が出始めの頃は、当然そういうプロセスを出してくる方向に行くのかなと期待してたんですけど、結局、ESG評価のデータベース作って、外側からは何やってる分からない感じのファンドばかりになっちゃったので。

renny:あと結局、結果に引きずられるんで、ESGでパフォーマンスに繋がるんですかというか、データベースをいくらチューンナップしても、結果が際立って違うとか出なかったら、チューンナップというかアップデートを続けるようなインセンティブがなくなっちゃうのかなって思ったりしますね。だからそういうのも、もう少し長い時間軸でやってくれるといいんですけど、なかなかそうはならないんだろうなって感じますね。ちょっとこのアクティブファンドを全部ひとくくりにするのはどうなのかっていうのは、これからも何かいいアイディアがないか考えていきたいなと思ってるんで、また吉田さんにご意見をいただければと思います。

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