おれが2年半サラリーマンをやって来れたのは運が良かったから part.5

若くして最短のコースで出世した期待のホープは、同じ営業所の他の同年代の若手からめちゃくちゃ嫌われていた。

うちの会社は基本的に平社員から一つ上の役職に上がらないと他の営業所に異動できず、下手したら一生同じ営業所に居なければならないことになる。

社歴10年の先輩がまさにそれだ。
その営業所が生み出した使えない社員を他の営業所に渡されても迷惑という話らしい。

おれが会社に入社した年に若手のホープは出世して今の営業所に異動してきたらしく、その当時そこに居た20代の若手4人全員から嫌われていた。

立場の違い、ホープの人柄、僻み妬み、一緒に過ごしてきた年数など、要因は様々あるだろうが、おれが見ていて最大の原因だと思ったことがある。

他の若手4人が根が明るくて人当たりのいいスポーツマンなのに対して、ホープは割と根暗で普段はあまり人と喋らない。

前の文章でも書いた通り、おれは無理して自分が出せる最大限の社交性を振り絞って会社の人間と付き合っていた。

しかしそれは仮初めのものなので、めちゃくちゃ疲れるしずっとその状態を保てない。

会社の飲み会や付き合いは行きたくなかったし、常に早く帰りたいと思っていた。

そもそも、おれは世間一般とは会話が合わないみたいだ。

TVの話、スポーツの話、天気の話、グルメの話、結婚や子供の話、仕事の愚痴、誰かの悪口、過去の話、etc...

友達や気を遣わなくていい相手と会話していて、興味のない、面白くない話になったときはスマホでも弄りながら適当に相槌を打っていればいい。(それはそれで問題あるかもしれないが・・・)

だが、会社の付き合いだとそうはいかないみたいだ。
おれは一度、会社の飲み会中にモンストを起動しただけでめちゃくちゃ怒られたことがある・・・

そんなある日、普段営業所の若手と付き合わない期待のホープが仕事帰り唐突におれをメシに誘ってきた。

(え、あんま喋ったことないのに急に?なんで?なんか怒られるのかな・・・)

おれが入社した当日、社員一人一人に挨拶をしたとき、若手のホープからかけられた最初の言葉がこれだ。

「この会社、向き不向きがハッキリ出るからお前が会社向いてないって思ったらすぐ辞めて他の仕事探した方がいいよ。
俺もお前が向いてないって思ったら言ってやる。」

怖っ!
普通、初対面で入って来たばかりの新人にそんな事言う!?
まあ言ってることはもっともだし、それがホープなりの優しさかもしれないが、そりゃ嫌われるわ・・・

その頃、まだ一年も経っていなかったがおれ会社向いてないなと思い始めていた刻だった。
二人きりになってお前会社辞めろと詰められるのかと思った。

ホープが行きつけのラーメン屋に入った。

なんの他愛もない世間話をした。

その次の日から、社内でホープがおれに話しかけてくる頻度が増えた。
ホープは普段、上司と仕事の話をするときか自分のチームの部下に指導するときしか口を開かない。

ホープは冷たい人間だが、居場所が欲しかったのかもしれない・・・

そこで目をつけたのが3、4年一緒に働いて苦楽を共にして固い絆で結ばれている他の若手メンバーではなく、入って来たばかりで同じ根暗だから中途半端にしか周りに溶け込めていないおれ。

若手のホープはおれと居るとき、よく他の若手の悪口を言っていた。

あいつらの馴れ合いは好きじゃない。

あいつは給料分の仕事をしていない。

お前はああいう風になるな。

一方、若手グループの飲み会に行けば、期待のホープに対する悪口が聞こえてくる。

あいつは自分の数字のことしか考えてない。

社歴10年の先輩へのアタリが強すぎる。

自分の考えを押し付けすぎ。

・・・なんだこの板挟み。

おれは正直、心底どうでもいいと思った。
どちらも言ってることはわかるし、毎日顔合わせるんだから仲良くすればいいじゃん・・・

くだらねぇ。

ある日、若手軍団の中で一番若手のホープのことを嫌っている先輩からこんなことを言われた。

「お前最近、期待のホープと仲いいけどあいつ俺らのことなんか言ってなかった?」

おれ「んー、特に何も言ってないですよ」

マジクソしょうもねぇ。。。