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裏浅草通信/映えカッター/mash iro(まっしろ)

 今戸神社の傍…と云いたいんだけど、今戸神社を話題にするのは、ちょっと嫌…儲けの神社(神社がね…)なのでね。結婚したい(ほんとか?)芸能人が通うので有名になった。見苦しい程の巨大な招き猫。話がどんどん逸脱していく…。なので今戸焼きの窯元傍と云っておこう。今戸焼きの可愛い招き猫は120点ですよ。全国土人形の中でも。浅草神社の脇にある古い神社に奉納する夫婦の狐なんてほんとに最高。
 で、今戸焼きの窯の傍、目の前がリバーサイド体育館——mash iro(まっしろ)という名のカフェ。カフェに座っていると、少し南国を思わせるような木々があって、向こうは隅田川なんだけれども…海の近くにいるような錯覚を覚える。企画会社?の一角でカフェをやっている。ここで本を読んだり…本を拡げてぼーっとしたり。最近のカフェ三昧はここ。珈琲もカレーもケーキ、焼き菓子も◎。素朴系が少し入ってるけど。
 「スクラップ&ビルド」というブレンドがあって、これが面白い。面白いし美味しい。面白いのは、深入りと中入りを混ぜていて、ちょっと濃い色の豆と、浅い色の豆が混ざっている。時間が経つにつれて、キャニスターの中で、濃い方の香りが中入り移ってきてまた異なる味が生まれる。
 参考にと、一杯あたりの推奨g数と時間と温度を書いてくれて…それを目安にいろいろトライしている。楽しいな。


ゴトー本朱入れ中


mash iro(まっしろ)は、ちょっとハードめなお姉さんが独りでやっている。こちらとしては、ほっといてもらえるし、いくとだいたいがらんとしているので、しめしめという感じ。珈琲は、これがなかなか相当にとても美味しい。でも、ちょっとだけ喋るようになって、喋ると、いろいろ知らないことを教わることになってこれまた面白い。ダニュエル・シュミットの映画が再公開されていて、それを今戸焼きの御主人がとても好きでおっかけをしてるとか。え、シュミット、見られなくなってもう何十年。ビデオもないし。『パロマ』が見たい!とか。
 話している最中に失礼ながら、ここには映え客、こなさそうだから良いよねぇ
と、云ったら
来ますよ。
えっそうなの?
どうしてるの。
 結構、強く云います。自分の中で、ここまではいいけど、ここからは駄目というのを決めてますから。
前、の店でもそうしてました。入り口で、ただ写真ばかり撮っていて注文もしないさそうな人が居ると、けっこう不機嫌そうな感じだします。
ふーん。
でも、ネットに、感じ悪い女のひとが一人いるって書かれました。ここ、私しか居ないんで(苦笑)
なるほどね。体張って、止めてるんだ。それで良い感じなのねここは。失礼しました。

やっぱり「映え」は「映えカッター」を使わないと居なくならないんだ。ふーん。「映え」は切らないと蔓延るんだ。
 蔵前の『蕪木』は「映え」はもちろん嫌な客、駄目な客を本気で足止めている。HPにしか書いてないが、PC駄目、大声駄目。インフルエンサーの動画の撮影もたぶん駄目だと思う。蕪木は以前noteでも紹介している。 

 在る夏の午后。
二階から降りてきたところで、蕪木さんと口論しているお客がいた。
カウンターのところで。
細かく云うと口論ではなくて、一方的に客が文句を云っている。一杯で入れない客が入れろ、様子を見させろと揉めている。
ですからお待ちいただいて。
時間がないんだよ、俺は忙しいんだから
ですから、席があいたところでご連絡しますから
取材したいから、ちょっと雰囲気だけ見せてくれって言ってんだよ。
いや、それは他のお客さんのご迷惑になりますから…
遠くから見るだけだよ。
お客さんが気になさいますし、うちはそうしたことはご遠慮願っています。
俺、けっこう有名なライターだよ。なんなら書いた記事をもってこようか。
取材なら、改めて時間をとらせていただきますから
何で今じゃ駄目なんだよ。おれはこんな扱いを受けたことないよ。
自称ライター一歩も譲らない。会計の場所で蕪木さんとのやりとりになっているので、滞りがではじめている。大変だなぁと思って佇んでいた。一瞬、割って入ろうかと思ったが、たぶん蕪木さんの迷惑になると思ってやめた。
 
 快適な喫茶を維持するためには、もちろん客も協力して意識を共有しなければならない——ぼくはそう思っている。雰囲気維持は、分担制だ。それを維持するのは大変だから、それはコストだと普通に思っている。だからそれが価格に反映されても、僕は許容する。
 どうするんだろう…
 蕪木さんは、敬語のまま一歩も譲らなかった。有名ライターは遂に諦めて、毒舌をはいて消えた。せっかく紹介して宣伝してやろうと思ってたのに的なことをもっと嫌な感じで云っていた。ようやくレジ前があいて、会計を済ませて、外にでた。今はほんとに大変だ。いろいろな客がくる。カスハラって云うんだっけ?なんでこんなことになっているんだろう。空を見上げてぼくは溜め息をついた。そしたら蕪木さんが後ろから追いかけてきて声をかけてきた。わざわざ追いかけてきて…。
「お見苦しいところをお見せしました。まだまだ未熟者です。お許し下さい。」
カスハラの処理が…もうあんな客はもの扱いの処理で…悪かったから、その処理も気持ちの良い場所として喫茶を考えている蕪木さんにとっては失態なんだろうな…うーん。これはほんとに大変なところに蕪木の快適さを設定している。
「いえ、全然。もの凄く尊敬しました。大変ですね。頑張って下さい。応援しています」

 昔、バッハでも、店員さんが(バリスタだけどね)一歩も引かず、順番待ちを飛ばそうとした客をおさめていた
。でも、相手の云うことをききながら、どうにかする手法だった。客は怒らせないようにして。蕪木さんは、一歩だけ引いた位置で、自分のポリシーを一歩も妥協しないし、相手に伝えていた。引いた位置で、一歩も相手を入れずに攻めていた。お客のいないところなら、もう少しロジカルに攻め返してるのだろうなと想像した。

 美味しい飲み物を出して、それを快適に楽しんでもらうということが、どれだけ大変なことか。そして大変な時代になってしまったのだ。でも、駄目な客(敢えて本気でそう云いたい)を排除するのは本当にストレスがたまるし、難しい。ぼくは余りお店の人と交流がないので、(黙って食べたり飲んだりして帰る)フルーツパーラー・ゴトーの後藤さんくらいかないろいろ話すのは。聞いてみたら、後藤さんも今まで生きてきた仕事のテクニックを総て駆使して全力で、「映え」や嫌な客をブロックしていると…。聞いていたら、そこまでするの?っていう感じ。気も遣っているし…。痩せちゃうよー後藤さん。

 今、ぼくは、接客のある仕事は一切やりたくない。ギャラリーでだいぶ痛い目にあったから。痛い目に遭いながらぼくは、なおかつ嫌な客やスタッフをカットできなかった。自分の身を結果カットしてしまうことになった。この話しに結論もなにもない。今、喫茶店はそんな状況にあるという報告だけだ。だから美味しい店では、できるだけ気配を消しながら閑かに場所と出されたものを愉しもうと思っている。ほんとはそれじゃ役に立たないんだけどね。


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