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ノラや

"縁の下で生まれた野良猫の子だから、ノラという名前をつけた。イプセンの『人形の家』のノラとは関係はない。イプセンのノラは女だが、うちのノラは男であった。"1957年発刊の本書は『イヤダカラ、イヤダ』や鉄オタなどのユーモア溢れる人間性でも知られる著者による珠玉の猫小説。


個人的には犬や鳥、亀など散々な動物たちも好きなのだけれど、中でも【猫の傍若無人さ】が大好きである事から、これまで国内外の猫小説に手を出してきましたが。著者の本には何故か縁がなかった事から今回初めて手にとりました。

さて本書には、溺愛した2匹の飼い猫、ノラの失踪、そしてクルツの病死まで昭和初期から晩年にいたるまでの【猫の話ばかり20篇】が収められているわけですが。師である夏目漱石の『吾輩は猫である』が擬人化された猫から見た人間模様を描いているのに対し、本書では"実は私は猫が好きではない"とも語る【ツンデレ爺さんである】著者による熱量溢れる猫愛が語られていて、猫好きな人なら号泣必至、猫好きでなくても圧倒されるのではないかと思いました。(もちろん、私は前者です)

また"私の家内はアビシニア国女性陛下である。アビシニア国がどこに在るか知らない。わかっていても、口に出しては云わない事。"などのリズミカルな文体(と妻への愛情) 最後の随筆となった『猫が口を利いた』での猫との幻想的な会話描写などは目を覚ますかの様な素晴らしい文章力でこちらも大いに感銘を受けました。いや、本当に素晴らしい。

全ての愛猫家へ、また明治文豪のユーモア溢れる文章に触れたい誰かにもオススメ。

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