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チップス先生 さようなら

"彼は伝説であった。古ぼけて、ボロボロになった教師服、危うく躓きそうな歩きぶり、鉄縁の眼鏡越しにこちらをのぞく優しい眼、それに妙におどけた話し方など、彼のブルックフィールドにおける在りかたは、それでなくては通用しなくなった。"1934年発表の本書は人生の意味を静かに教えてくれます。

個人的には、英国の代表的なパブリック・スクールの生活を描いたと絶賛され、何度も映画化や舞台化されている事で名前位は知っていたものの実は未読であった事から今回、約100ページと割と短い作品でもある事から手にとりました。

さて、本書は19世紀末から20世紀の初頭にかけて、全寮制男子校のパブリックスクールに勤務した男性教師が自身の教師生活を回想するシンプルな内容となっているのですが。

最初に印象的だったのは【教師を題材にした物語】って日本に限っても、古くは『坊ちゃん』そして『3年B組金八先生』『GTO』と、どこか主人公である先生が熱血漢だったり、破天荒だったりといった派手な先入観が私にはあったのですが。比較して本書の主人公であるチップス先生は【ごく普通の先生】であり、若かりし頃はそれなりに野心や情熱はあっても『そういったこと』にはすぐに興味はなくなり【繰り返される毎日】に満足している平凡な人物として描かれているのが意外であり新鮮でした。

そして、それでも。そんなチップス先生が、爽やかな一陣の風の様に駆け抜けていく女性、キャサリンとの出会いと結婚、あるいは何世代もの生徒との別れ"さようなら"を繰り返していく中で、まるで寝かされたワインが熟成していくかの様に【長く丁寧に生きたからこその】人格的魅力を見につけ、自然と周りからの敬意を獲得していく姿には、だからこそ。読後には、派手ではなくても【まるで自分ごとの様に】じんわりと心に響く感じがしました。

また、発刊から80年以上たちますが【刺激的で新しい情報】が世界中で溢れかえり、誰かに背中を押されそうに益々、個人としても変化のスピードが求められる今の時代ですが。本書全体を通じて、変わらず【派手でなくても、新しくなくても】軸を持って【自分のペースを保って生きる大切さ】を私的には再確認させてもらえた気もしました。

派手さはなくても、じんわりと心を打つ短編名作を探す誰かに。(あるいは熱血漢教師物語に食傷気味な誰かにも)そして、人生の後半戦を迎え『立ち止まって考えたい』ミドル世代以降にもオススメ。

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