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三体

"『でもな、おれは究極の法則をひとつ発見したぜ』(中略)『不可思議な出来事には必ず裏がある』2008年発刊、2019年国内紹介された【アジア人初のヒュゴー賞受賞作】である本書は、異星文明との接触を壮大なスケールで描くハイブリッドSF三部作の第一部として読みやすく、また続きが気になって仕方ない。

個人的には、バラク・オバマ前アメリカ合衆国大統領や、Facebook創業者のマーク・ザッカーバーグをはじめとする【全世界の知識人が愛読】という前評判や、アーサー・C・クラークの影響を受けた"所謂、祖国を守る的なプロパガンダ作品ではない"【本格SF】という触れ込みにオールドSFファンとして発刊を心待ちにしていた事から、発売後に飛びつく様にして本書を手にとりました。

さて、そんな本書は訳者あとがきにもある様に派手なアクション展開の戦争ものと違って、アーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』やジェイムズ・P・ホーガンの『星を継ぐもの』を彷彿とさせる(オールドアニメファンにはイデオンでも可)【どこか懐かしい感覚】で、天体力学問題『三体問題』から拝借した設定で【もし三重太陽を持つ惑星に文明が生まれたら?】を異星文明との接触ものとしてミステリーやエンタメ風味で描いているのですが。

まず印象に残ったのは、SFならではのオーパーツ的ギミックに安易に頼らない、現実の中国の歴史と織り合わせた【ストーリーテラーの確かさ】そして欧米作家によりステレオタイプ的に描かれがちだったアジア、あるいは中国人物像とは違った【洗練されたキャラクター設定】でした。なのでナノテクとかVRとかが登場しても、また本書の舞台の多くが中国国内だとしても。そういった【時事ネタや地域性に依らない】普遍的な物語的楽しさを純粋に感じる事が出来ました。(これは著者自身が『SFファン上がりのSF作家として、わたしは、小説を利用して現実社会を批判するつもりはない』と述べていることから意図的と思われます)

一方で、これまで中国にゆかりのあるSF作家としては中国系アメリカ人として2012年に『紙の動物園』(この作品も素晴らしい)でネビュラ賞とヒューゴー賞と世界幻想文学大賞の短編部門で受賞、史上初の三冠を達成した、ケン・リュウの作品しか読んだことはなかったのですが。本書が世界的に知られる様になった要因の一つとして、まさにそのケン・リュウによる【中国の長編SFとして初となる英訳】作業があったことを知り、こうした作家達の活動をキッカケに世界的にアジアの認知度が上がっていくであろう近未来を想像し【同じアジア人の一人として】素直に嬉しく思いました。とりあえず?続編を早く読みたい。

ギミックや設定に依らないスケールの大きな本格SF好きな誰か、あるいはオールド名作SFファンの誰かにオススメ。

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