見出し画像

私の『漱石』と『龍之介』

"夏目漱石でなく、他の名であっても夏目とあれば眼が見逃がさない。新聞の一ぱい詰まっている活字の中からその字づらだけが浮き上がって来ます。"1965年発刊の本書は、熱烈に崇拝する師、夏目漱石。良き理解者であった芥川龍之介との思い出話として、かっての文豪達の姿を偲ばせてくれる。

個人的には、文中で旧友が評する『いくら読んでも実益がない』著者の書いた本に、むしろ【実益ばかりの本が世に溢れている反動からか?】すっかりはまっている事から本書も当然の様に手にとりました。

さて本書では、いつもの【猫好きでも食いしん坊でも鉄オタでもなく】現在の感覚からすれば過剰というか最早【アブないアイドルおたくの領域】に踏み入れているかのような著者が、漱石の表情や立ち振る舞い、タバコや机といった所持品を真似したり、隙あらば何でも!もらったりするのは序の口で【漱石の書ばかりに囲まれた部屋】を本人に見つかって苦言を呈されたり、あまりの崇拝ぶりから、尊敬する先生が相撲や謡ひに興ずるのにくどくど文句を言ったりしているわけですが。

今みたいにSNSがあったら【実はめんどくさい人】だったかもと思いつつも、その【純粋な、純粋すぎる師への想い】に関しては、それを不幸にして持ち得ない身として素直に羨ましく思いました。

また、流石に師に対するのに較べると熱量が違うというか抑えた文章ながら、芥川龍之介の死に対して『あんまり暑いので、腹を立てて死んだのだろうと私は考えた』と『又それでいいのだと思った』と書いていたり、また芥川からの『君の事は僕が一番よく知っている。僕には解るのだ』と言われた事を記している辺りからは、師匠間ともまた違う【同門として、あるいはそれを越えた】二人の大切な関係性が余白をもって伝わってきて、こちらはこちらで印象に残りました。

文豪たちの作品だけではない、人間性を知りたい誰かへ。また古き良き、師や弟子同士の関係性を感じたい誰かにもオススメ。

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?