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物足りなさを辿る

週に七日は自炊する生活を送っている。
そうすると、月に一度は外食したくなってくるもので、月120食分の1食という大変貴重な機会に何を食べるか、常に頭を悩ませている。ということもなく、たいてい即決で、揚げ物一択である。というかから揚げ一択である。なぜ揚げ物なのか。理由は単純で、自炊で作らないから。揚げ物をする用意が自宅になく、外食で何を食うか、を選ぶ際は自炊で食えないもの、イコール揚げ物、そのなかでもから揚げを選ぶのは、大好物だから。自炊では補いきれない物足りなさを、外食で、主に王将かやよい軒で満たしている。

一日のだいたいを自炊に費やし、じゃあ他の時間になにをやっているかといえば、散歩してるか本を読んでいるだけだ。ジャンル問わず本を読んでおり、最近『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』というタイトルの長さからしてライトノベル感全開のライトノベルを読んだ。いきなり壮大なネタバレを含む紹介をすると、冒頭からヒロインが死の危機に瀕しており、中盤ほどできちんと死んでしまう。その後は、復活するかもしれない…!?という期待感を煽りつつ、結局最後の一行まで死んだままだった。まじかよ!主人公とのやりとりもっと読みたかった!!という物足りなさが凄まじい作品だった。

ただ、だからといって作品がつまらなかったわけではなく、物語としてはとてもおもしろかった。冒頭から世界滅亡の危機に瀕しており、なぜ危機に瀕しているのか、その原因は何なのか、解決するためには何が必要なのか、その謎を解き明かすのが物語の主軸になっていて、読み進めると謎を解くためのピースがどんどん集まる。いたるところに伏線が貼られ、ああ、そういうことか!エウレカ!みたいな快感のある作品だった。

この作品は5巻完結で、もっと巻数があったらヒロイン絡みの物足りなさを解消することができたのかもしれないが、そうすると世界設定の謎解きの魅力が薄れてしまう気がするので、ちょうどよい分量だった思う。けど、やっぱりヒロインの絡みもっと読みたかった、、、すんごい素敵なんですよ、主人公との掛け合いが、、、ということで、作品的にはおもしろかった、けど、この物足りなさは満たしたい。じゃあどうするかといったら、同作者の別の作品を読もう、となる。取捨選択において、世界設定ではなく人間関係を選んだ作品があるだろう、と期待して漁ってみる。そして見つけて、抱えていた物足りなさを満たしたあとは、次はあの素敵な世界観を描いた作品がほかにもあるはず…となり、ズブズブと作家にハマっていく。

自分の読書循環はだいたいそんな感じで回っていて、作品の魅力を感じる一方で物足りなさを常に探して、言語化するようにしている。そうしたら次に読みたい本がすぐ見つかる、気がするので。

作品に物足りなさがあることは健全なことで、でないと多分おもしろくない。完璧超人より欠陥のある人のほうが魅力的、みたいなことと一緒か。ある作品に対する物足りなさは、別の作品への興味に変わる。そしてまた物足りなさを感じて、別の作品を探す。そうやって映画を観て、小説を読んで、でも物足りなさは尽きることなくあって、よぼよぼのお爺さんになっても映画を観て、小説を読んで、ああ物足りないって思いながら最後を迎えられたら最高。

作品に対する物足りなさによって日々を楽しく生きていられるのが読者という生き物である一方で、作者にとっても必要なものらしい。

『君の名は。』の新海誠監督が、自分の作品はいつも課題ばかりだとラジオで言っていた。そして、その課題を次作で解決するように作っている、と。

例えば、『雲のむこう、約束の場所』という映画ではSF的な世界観を描くことができた一方で、登場人物の内面をきっちり描けなかった。じゃあ次は内面をきっちり描こう、ということで『秒速5センチメートル』という主人公の小学生時代から大人になるまで、その内面をひたすらに描く映画をつくった。作品に対する物足りなさが、次の作品につながっている。自分の作る映画は、基本的にその繰り返しだと、新海監督は言っていた。

その物足りなさは、監督が何かを描ききるために切り捨てた部分であり、観客はその切り捨てた部分に不満をもつこともある。一方で、切り捨てたからこそ描ききれた部分に魅力を感じる観客も一定数いて、彼らがファンになる。自分もその一人だった。
物足りなさの連鎖で作品を読む自分にとって、物足りなさの連鎖で作品を作っている新海監督は大変な好物であり、どの作品もおいしくいただいている。

いついっても変わらないおいしさ、みたいな老舗の名店もいいけど、その日の気分で味が変わるてきとーな大将がが店主のお店のほうが行く楽しみにがある。王将は厨房のアルバイトによって味が違うすぎて、カリッカリの餃子を食べた次には、水餃子と見紛うものが運ばれてくる時もあるが、それもまた一興である。


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