自宅庭

物語を紡ぎ出す語り部“みっちゃん”

私には「みっちゃん」と呼ぶ友だちがいる。
みっちゃんは、私の親より年上。お孫さんがいる、おじいちゃんだ。
母は、みっちゃんのことを「兄のような存在」と言い、慕っている。
でも、私にとってみっちゃんは、やっぱり年の離れたお友だちという感覚だ。

みっちゃんは、幼いときの病気が原因で、背骨が丸くなっている。
よく「オレは身障者だから」と言うのだが、とんでもない!
周囲の誰もが認める働き者で、年金暮らしの今でも、現役バリバリの職人だ。
ただ、私は、みっちゃんの職業が何なのか、実はよくわかっていない。
庭の手入れをお願いすれば庭師になるし、屋根の修繕をお願いすれば、いとも簡単に屋根に登って、あっという間に直してくれる。
力仕事から細かい雑務まで、どんなお願いごとでも叶えてくれるのだ。
何でも器用にこなす、よろず屋なのだろうか?(今度、ちゃんと聞いてみたい)

ある時、私が帰省していることを知って、みっちゃんが遊びにきた。
みっちゃんとは、仕事や趣味、昔の苦労話など、いろんな話をする。
みっちゃん自身の体験からくる話はとても面白く、ついついみんなが聞き入ってしまう。

実は、みっちゃんには新聞に投書したり、詩や俳句を詠んだりする趣味がある。
「時間があったら、自伝を書きたい」と言うのだが、仕事の依頼と孫の子守りで、なかなかそんな時間がとれないのだとか。
そんなみっちゃんが、こんな話をしてくれた。

ある日、○○さん家の庭仕事を頼まれたんだよね。
オレは一日でどうにかして終わらせようと思ってさ、朝から晩まで一生懸命働いたわけよ。
それで庭がすっかりキレイになって、オレはもうクタクタになって「ああ、今日一日も一生懸命仕事をしたなぁ」と思ったわけ。
そこで、道具をキレイに洗って片づけて、さあ帰ろう……と思ったときに、庭先に転がっていた軍手を見つけたんだな。

その軍手は泥まみれであちこち擦り切れてボロボロなんだ。
それを見たとき、オレは「あっ、ゴメンナ。今日一番働いたのはオレじゃなくてお前だよな」って、軍手に話しかけたのよ。
「放っておいてごめんね、お疲れさま」ってね。
そして、そのボロボロの軍手をポケットにそっと入れて持ち帰ったんだ。

持ち帰った軍手はね、庭で燃やしたさ。
そして、燃えた灰をね、オレが一番大切に育てている植木の根元にまいてやったんだ。

それで、このお話は、おしまい。

オレはね、道具のおかげで仕事ができるんだ。
だからどんな道具でも絶対に捨てて帰るようなことはしたくないんだ。
ちゃんと「ご苦労さま、ありがとう」という気持ちで道具を大切に扱いたいんだよな。

これは、作り話ではない。みっちゃんのありのままの日常なのだ。
なのに、童話のように優しく温かく心に染み入ってくる。
私は、そんな「みっちゃんの世界」に、いつも魅了されてしまうのだ。

いつか、みっちゃんの物語を絵本にできたらいいな。
そう言ったら「そりゃ大変だ! どこかの旅館に泊まって、じっくりと書く時間を作らないとなぁ」と、みっちゃんは笑っていた。

でも、そんなふうにして、みっちゃんの本ができたらいいなぁ。

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