世界を守り、色を紡ぐ

白い線が、一筋、ぼぅっと光り輝く。

無意識の無色の世界で、数多の色が泡のように浮かび、浮かび、浮かぶ。

私はそれを優しく掴み、紙の上へと滑らせる。

ころころと。さわさわと。するすると。

するとほら、女の子が立ち上がった。

するとほら、鳥が甲高い声で鳴き始めた。

白い線が、縁を描く。
青が波立つ。
赤が弾ける。
黄色が、歌い出す。

彼らは、この世界のキセキから生まれる。

そんな彼らには、役割がある。

けど、ふと思いがよぎった。

私が創り出したキセキたち。

彼らは、役目を果たせるのだろうか。

「マカセテヨ」

私を励ますように告げて、羽を広げて彼らは力強く飛び立った。

・ ・ ・

出会ったのは、藍色のブックカバー。

名前は、「ことばの海」

今、自分の手元にあるのは、かつて藍色を愛した人の手記。

――ああ、偶然じゃないな。

引力を感じた。自分を媒介にして、本が「それ」を呼んでいる。

それでも葛藤はあった。

私はもともと、ブックカバーとは縁のない人間だ。本はむき出しのまま読んできたし、外出時もそうやって過ごしてきた。

けど、と耳元で引力が囁く。

世界は、出会いたがっているんだ。

結局、それを手に取った。

引力の語るまま、本が呼ぶまま。

藍色を愛した人の世界を、これから自分の中に入れようとしている世界を、

いささか緊張した手で藍色のキセキで覆う。

――安堵の溜息が手から伝わった。

本が、ため息をつくはずないのに。

でも確かに、本は、どこかほっとしたような雰囲気を醸し出していて。

長年、本棚にあった本。最近、読みたいなと思って取り出した母の本。

手から伝わる、暖かみ。ブックカバーを通して伝わる、作り手の想い。

「お守り」だと、みんなが言っていた、その意味。

それが、今、分かった気がした。

ああ、出会いたかったんだね。

藍色を愛した異国の人。藍色の国を誰よりも愛した人。

死後もなお愛される、八重の雲の名を持つ人。

きっとこの手記を書いた人は、時を超えて、その色を身に着けることができて、どこかで微笑んでいるに違いない。

それは、なんてすごい、奇跡なんだろう。

この人の本を私は読み、私の世界は広がってゆく。

この人は、その魂から紡がれた本は、時を超えて今、生前最も愛した色を身に纏っている。

このブックカバーを作った人の、手を想う。心を想う。

本を書いた彼も、こう思うに違いない。

奇跡を生み出してくれて、ありがとう。

・ ・ ・

色が、私を通してキセキを紡ぐ。

無色の世界に色が滲み、広がり、誰かに届く。

色が、私を通して世界を守るんだ。

小さな無数の世界たち。濃厚で無窮の世界たち。

幾千幾万の、誰かの心を支える世界。

世界が生み出した奇跡は、私が創り出したキセキは、きっと、あなたの世界を守る。

きっと、あなたの世界を創る。

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