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【読書ススメ録】第二回︰「悠久」を教えてくれた人

プロローグ

心が躍る瞬間を感じたいとは思わないかな。

いつもとは違う景色が見たいと、心の底から望むことはないかな。

そう思うからこそ、私たちは「旅」に出るのだと思う。

じゃあすぐにでも、「旅」を始めよう。

気が付いていない?

「旅」への扉は、いつでもどこでも、あなたのすぐそばにあるよ。

あらすじ

「自分」に流れている時間と、違う時間を見たいというささやかな願い。

もしもあなたがそれを持っているのなら、まずこの本を開いてみるといい。

【旅をする木】という本の中には、とある写真家が見て、聞いて、触れてきた異国の命の時間が流れている。

表紙を開いてまず現れるのは、「星野道夫」という人の満面の笑顔。

はじめまして。こんにちは。今から、僕がアラスカを紹介します。

まるで、目の前に星野さんがいるように、本の中には「アラスカ」が広がっている。

ムースの群れの走る音が聞こえる。

極寒の地に咲く花の鮮やかな色が目に映る。

野生のブルーベリーのなんという美味しさ!!

どこまでも広がる青空と、聡明な命しか生き残れない厳しい自然。

ほらね、と隣に佇む星野さんがにっこりとほほ笑む。

この自然の雄大な景色が、悠久の時間が、あなたに伝わったならいいのだけど。

あ、ほら。あそこにクジラが泳いでいますよ。

彼が指をさす方向に目を向けると、満天の星空の下、ゆっくりとジャンプする一匹の巨大なクジラの姿。

水しぶき。鳴き声。命の気配。

それは、この世の物語。

私たちが時計に追われて忘れてしまった、今も確かに息づいている悠久の時間の話。

【旅をする木】星野道夫

読了後

「魂が震える」という言葉を、小説でよく使う。

それを実体験したのは、この本を読み終えた時だった。

私は感動が薄い性質なので、映画でも小説でも泣いてしまうということはほぼない人間だ。

けれど、「星野道夫」さんが書く本だけは違った。

【旅をする木】では、本当に星野さんが見てきた大自然がそこにあるように感じる。

手を伸ばせば届きそうな星々。
水しぶきとともに飛び上がるクジラ。

雪の上に残るオオカミの足跡。

波の音。風の心地。

どこまでも広がる白い大地と、そこに生きるたくましい人々。

そして、それを撮り、また文章に綴った星野道夫という人の命の話。

私に悠久の時間があることを、そしてそこに「私」という存在が組み込まれていることを教えてくれたのが、この本だった。

忙しない日常ばかりを目の前にして、世界に流れる悠久の時間の一部が、自分の中で小さく息づいていることを私たちは簡単に忘れてしまう。

だから、私はこの本を読み返す。

私もまた、クジラと同じ空気を吸って生きていることを確かめるために。

私もまた、「大自然」という世界の兄弟であることを再確認するために。

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