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巡り結ぶ、石の言霊

巌のもの。揺らがぬもの。そは永遠を過ごすもの。
水のもの。歪むもの。そは揺らぎゆき清冽なもの。

石は語る。不動の世を。
模様は語る。変わりゆく世を。

小さく輝く鉱物の声を、永遠にして神宿る大地の欠片の声を、私の耳は聞き届ける。

・ ・ ・

揺れる。勾玉。若草の色。

揺れる。勾玉。曙の色。

人の手が、その縁を、するりと石を撫でる。

それはいったい、幾星霜の長い時、何人の人間が同じ行動をとっていたのか。

揺れる。勾玉。耳元に。

揺れる。勾玉。胸元に。

わたしの仕事は、人に合わせて大地の恵みである石を切り、丸く優しく削ること。

神宿るものを、人と共にあるように形作ること。


・ ・ ・


マクラメ、とはアラビア語で「結ぶ」を意味する。

私の仕事は、石と人を結ぶため、言葉なき彼らの声を聞き、ただでさえ神秘的な姿をより美しく飾ること。

――石に触れ、耳を澄ませて。

ほら。聞こえる。

それは遥か遠い彼方から今へと届く。

星の光より、更に遠いところ。
宇宙の果てより、まだ遠い。

声は、忘れられない物語を私たちに語り掛けている。

幾億という時間の流れの中で、変わることなく、悠久に。

私は、そんな石の声を聞く。
耳で聴き、指で触れ、魂を共に震わせて。

私は石を飾る。古来よりそうであったように。

祈りをもって紐を編み、それがいつか、縁を結ぶことを祈りながら。

・ ・ ・

運命を導く石と、彷徨い途方に暮れる旅人は出会うでしょう。

惹かれ合い、導かれ合い、ささやかな時間の中で迷い惑う貴方と共にあるために。

それは、私達も同じ。

神宿る石を形作るわたし。石を結び紐で飾る私。

形作る縄文の時代から、紐を結ぶ今この瞬間まで、私達「石の声を聞くもの」の行うことは変わらない。

積み上げられる石の壁のように、連綿と、永遠に。

――わたしは、石を形作る。

――私は、石を紐で飾る。

――私達は、人と石との縁を結ぶ。


・ ・ ・


巌のもの。揺らがぬもの。そは永遠を過ごすもの。


それを、私達は「鉱物」と呼ぶ。


水のもの。歪むもの。そは揺らぎゆき清冽なもの。


それを、私達は「人」と呼ぶ。


石は語る。不動の世を。



この世には、揺るぎないものがある。


模様は語る。変わりゆく世を。

この世には、かけがえのないものがある。


その語り部である小さく輝く鉱物の声を、私達の耳は、世代を超えて、時間を超えて、絶え間なく、聞き届ける。




ひかりのいしむろさんに送る物語


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