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【PLANETS CLUB第7回定例会】 家入一真「『プラットフォームの思想』がもたらした失敗」

「日本のインターネットの一周目は失敗だった」

こう述べるのは、インターネット黎明期からレンタルサーバーなどのネットビジネスを手掛けてきたCAMPFIRE代表の家入一真氏と、自らを「インターネットから生まれた物書き」と定義するPLANETS編集長の宇野常寛氏です。インターネットに精通した両氏が、なぜこのような考えに至ったのか? そして、日本のインターネットはどこへ向かうべきなのか? 日本のインターネット文化を総括し、新しい可能性を模索する議論が、9月18日のPLANETS CLUB・第7回定例会にて行われました。

■「プラットフォームの思想」がもたらした失敗

“資金調達の民主化” をミッションに、個人やクリエイター、企業、NPO、大学、地方自治体など、様々な挑戦を後押しするCAMPFIRE(https://camp-fire.jp/)を手掛ける家入氏は、日本のインターネットの失敗は、「プラットフォームの思想」に原因があるのではないかと述べています。かつてのプラットフォーマーたちは、「場」を提供するまでが自分たちの仕事であると定義していたため、そこで巻き起こるユーザー同士のイザコザには、一切干渉しないというスタンスが一般的でした。

しかし、提供した「場」を放置し過ぎた結果、2ちゃんねるは「匿名陰口文化」の、はてなブックマークは「いじめ袋叩き文化」の源流となってしまいました。このような、コミュニティやイデオロギーには一切干渉せず、場だけを提供すれば良いという「プラットフォームの思想」が、今日におけるインターネットのいじめ文化を醸成しているのではないかと家入氏は語ります。

さらに宇野氏は、この「プラットフォームの思想」には大きな読み違いがあったと指摘しています。その読み違いとは、自由に発信できる環境下で、我々人間が取る行動についてです。アメリカ西海岸における「プラットフォームの思想」では、それまで受信するだけだった人々が、自由に発信できるようになると、確率的にクリエイティブな人々が増えていくだろうと考えられてきました。

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しかし、自由に発信できる今日の環境下では、他人の顔色を伺って発言したり、大きな潮目に合わせて発言したりと、人々は個人を集団に埋没させるような動きを見せています。個人のクリエイティビティを発信するのではなく、思考を停止させて大きな流れに身を委ねてしまう。「プラットフォームの思想」がこの点を見誤ったこともまた、日本のインターネットが失敗に終わってしまった原因であると宇野氏は考えています。

■「戦い」と「離脱」という二重の戦略

この失敗してしまった日本のインターネットと、今後どのようにして向き合うべきなのか? この問いに対する家入氏と宇野氏の意見は一致していて、二つの選択肢があると述べています。

一つ目が、現在の失敗してしまったインターネットと徹底的に戦うこと。二つ目が、インターネットから離れるということです。そして、宇野氏は「戦い」と「離脱」。この二つの戦略を同時に実践しようとしています。

具体的には、今の荒れ果ててしまったインターネットの世界で再び面白いことをするために、一度、閉じた世界であるオンラインサロンや紙の本に戦略的に撤退します(=離脱)。そして、その閉じた世界の中で、宇野氏が持っているビジョンやスキルを共有して、同じ価値観を持った人間を育てていくのです。最終的に、ここで育った仲間たちと再びインターネットの世界へと繰り出し、面白いことをする(=戦い)というのが、宇野氏が考える今後のインターネットとの向き合い方です。

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では、インターネットから一時離脱して、同志を集めた後、どのような形で既存のインターネットと戦っていくのか? この問いに対しては、家入氏と宇野氏はそれぞれ別の意見を持っています。

プラットフォマーである家入氏はプラットフォームを用いて、「give&give」の精神で個人や地域が支え合う「小さな経済圏」を作ることで、今のいじめ文化が蔓延するインターネットとは違う、優しい世界の実現を試みています。

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一方、宇野氏はプラットフォームではなく、メディアで戦うことを宣言しています。プラットフォームによって、誰もが自由に発信できる環境では、先ほど確認した通り、人々は信じたいものだけを信じ、その時々の大勢に個を埋没させてしまいます。現状のプラットフォームのままでは行きつく先は同じ。そこで出てきたのが、「遅いインターネット計画」です。

これは、宇野氏が考えるWEBメディアで、インターネット失敗の原因である「誰もが発信できて繋がり過ぎる環境」から離れたところに良質なコンテンツを置こうという試みです。誰にでも開かれているが、簡単には繋がれない。ネットサーフィンで偶然良いコンテンツを見つけるような感覚に近いのかもしれません。このような「ネット上に開かれた切断的なメディア(戦い)」+「メディアを作るための閉じたコミュニティ(離脱)」で日本のインターネットを変えていこうというのが宇野氏の考えです。

しかし、この方法には一つ課題があります。それは、宇野氏のビジョンを共有する閉じたコミュニティでメディアを作成し、発信する場合、その規模に限界があるという点です。宇野氏は数千から一万単位の規模であれば、自ら先導することが可能であると述べています。しかし、この「メディア」+「コミュニティ」の動きを数百万単位に拡大させ、日本のインターネットの二周目をスタートさせる場合、まだまだプラットフォームの力が必要となってくるでしょう。

宇野氏が「メディア」+「コミュニティ」で蓄積した情報を家入氏に提供することで、仮に「プラットフォームの思想」を越えるような新しいプラットフォームが誕生すれば、この動きも加速するのではないでしょうか。

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このようなメディアとプラットフォームの二人三脚が、日本のインターネットの二周目を始める上で、重要な一歩になるのではないか? そう感じました。そして、何周目になるか分かりませんが、インターネット社会が成熟し、プラットフォームを介さずして、人と人とが繋がる社会が訪れた時、そこが優しい世界であれば良いなと思います。

文:森 優人+PLANETS編集部
写真:森 優人

※本記事は、2018年9月17日に行われたPLANETS CLUB第7回定例会の
家入一真氏と宇野常寛氏の対談をまとめなおしたものです。
(ゲスト:家入一真)

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