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「二次方程式の解と係数の関係の新メンバー」の勧めと「±スイッチ変形」

二次方程式の解と係数の関係」の新メンバー

 みんな大好き「二次方程式の解と係数の関係」の新メンバーを紹介します。まずは既存メンバー。

$$
\alpha+\beta=-\dfrac{b}{a}\\
\alpha\beta=\dfrac{c}{a}
$$

 それでは、新メンバーの紹介です。

$$
|\alpha-\beta|=\dfrac{\sqrt{D}}{a}
$$

 ここで、$${ 判別式 D=b^2-4ac}$$です。

改めて、「解と係数の関係」と「解の公式」とは

 人類が長年付き合ってきて、私自身もずっとお世話になっている二次方程式の解と係数の関係。まさか新しい知見があるとは微塵とも思っていなかったが、先日数学を教えていて、これはひょっとしてと思い記事にしています。

 まず、二次関数の対称性から当然ですが、関数の軸は、二つの解のど真ん中にあります。あ、x軸と絡まない「解なし」は面倒なのでこの際忘れてください(本当は深い意味がありますが)。慣習に従い$${\alpha<\beta}$$とします。

軸は2解のど真ん中

 さて、ここで、世界中の嫌われ者、二次方程式の解の公式に登場願います。

$$
x=\dfrac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}
$$

 この式、意味もわからず丸暗記された方も多いのでは。
 少し変形してみましょう。実は、単に二つに分けるだけでも色々わかります。ついでに見通しが良いように判別式Dを使います。

$$
x=\dfrac{-b}{2a}\pm\dfrac{\sqrt{D}}{2a}
$$

 この式の意味するところは、$${-\dfrac{b}{2a}}$$を中心として、$${\dfrac{\sqrt{D}}{2a}}$$を左右に振ったところに2つの解がある、ということですね。これだけで解の公式が俄然意味を持つようになります。

解の振り幅

 この図を眺めていると、赤い線の部分、$${\alpha}$$と$${\beta}$$の間隔は、$${\dfrac{\sqrt{D}}{2a}}$$2つ分であるのが一目瞭然です。つまり、

$$
\beta-\alpha=2\cdot\dfrac{\sqrt{D}}{2a}=\dfrac{\sqrt{D}}{a}
$$

 $${\alpha}$$と$${\beta}$$の大小関係は設定によって変わるかも知れないので、念の為に絶対値を付けておきましょう。これが解と係数の関係の新メンバーです。

$$
|\alpha-\beta|=\dfrac{\sqrt{D}}{a}
$$

 また、軸のx座標は2つの解の中点なので、足して2で割れば良い。つまり、当然ながら解の公式の前半$${-\dfrac{b}{2a}}$$と一致します。

$$
\dfrac{\alpha+\beta}{2}=-\dfrac{b}{2a}
$$

 ここで、解の公式を$${\alpha}$$と$${\beta}$$だけで表してみましょう。どうせ$${\pm}$$するので絶対値は不要です。

$$
x=\dfrac{\alpha+\beta}{2}\pm \dfrac{\alpha-\beta}{2}
$$

 複合$${\pm}$$が$${+}$$のとき$${\beta}$$が消え、生き残った$${2\alpha}$$を$${2}$$で割るので結局$${\alpha}$$になり、逆は$${\beta}$$だけが生き残ります。中点から同じ振り幅を左右に取るので、当たり前といえばこれ以上当たり前のことはありません

・・・ん?この関係式は、どこかで見覚えがあるぞ・・・

三角関数「和積の公式」のミソは「±スイッチ変形」

 高校生が使う三角関数「和積の公式」というのがあります。記憶力がないので私は毎回名前も忘れてて公式も作り直しているのですが、こんなやつです。

$$
\sin{A}+\sin{B}=2\sin{(\dfrac{A+B}{2})}\cos{(\dfrac{A-B}{2})}
$$

 あと3種類あるのですが、同じことなので省略。
 この公式の証明は、左辺の角度を以下のように変形して加法定理を適用することで、結果前者が「sc+cs」、後者が「sc-cs」みたいになり、両者を足したり引いたりして一方を相殺し一方を生かすという形で行います。

$$
A=\dfrac{A+B}{2}+\dfrac{A-B}{2},B=\dfrac{A+B}{2}-\dfrac{A-B}{2}
$$

 これは正に、解の公式が±で2つの解$${\alpha}$$と$${\beta}$$を同時に表しているのと同様、中点$${\dfrac{A+B}{2}}$$と振り幅$${ \dfrac{A-B}{2}}$$を用いて、$${\dfrac{A+B}{2}\pm \dfrac{A-B}{2}}$$で2つの角度を同時に表す手法を用いて実現されています。これを仮に「±スイッチ変形」と呼びます(既に名前がある場合、他に良い呼び名がある場合はぜひご教示ください)。実に巧妙な数学テクニックです。

 ただ、確か、線形代数か物理学(量子力学?)に、同じ手法を用いたものがあった気がするのですが、今のところ思い出せません。残念。

今回のまとめ

 解と係数の関係メンバーに$${|\alpha-\beta|=\dfrac{\sqrt{D}}{a}}$$を加えることによって、二次関数を扱うときの手掛かりとなり、それより何より、二次関数の本質に迫れるのではないか?というのが今回のまとめになります。
 加えて、二次方程式の解の軸からの振り幅が$${\dfrac{\sqrt{D}}{2a}}$$であることは、$${D=0}$$のとき振り幅$${0}$$、すなわち重解になることが視覚的に確認できて大変お得なのですが、それはさておき、実は今回の指摘は全く目新しいことはありません。
 そりゃ、軸は中点に決まっているし、振り幅は2つの解の距離の半分に決まっていますからね。
 ただ、あえてこのことを明確に伝えている記事や文献を寡聞にして知らず、忘れないうちにメモして公表しておこうという魂胆を白状して筆を置きます。お役に立てれば幸いです。

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