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エキソニモ「LO」 @WAITINGROOM。

 2018年、水戸芸術館での「ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて」展や、キュレーターとしても参加したYCAMでの「メディアアートの輪廻転生」、ICCの「オープン・スペース」での展示などで、強烈なインパクトだったエキソニモ。(前記の2つの展覧会は個人的に2018年の展覧会のベスト1,2でした!)

 そのエキソニモの国内では6年ぶりとなる個展が、江戸川橋にあるギャラリーWAITINGROOMで開催されています。

 エキソニモ「LO」 @WAITINGROOM

 今回の個展も、1つの作品の中で異なる2つの世界を行き来するような作品ばかりの、印象的な展示でした。

① 【言葉】 と 【物質】 を行き来する世界

 ギャラリーの入り口にあるのは、ディスプレイの向こうで、ネコがマウスの周りにあるキャットフードを食べる映像作品です。

(《断末魔ウス》より 猫の映像の抜粋/ exonemo)

 ”断末魔”ウス… 断末”マウス”…? ネコとマウス(ネズミ)なんて、マンガの世界だと大ピンチ!な状況?!なんて連想してしまいます。この作品だけでなく、他の作品も、そんな”言葉遊び”のような、【言葉】と、同じ言葉をちょっとひねって捉えたような【実体】の世界を行き来する、”言葉遊び”のような作品が数多くありました。

 でも、この作品、いくらネコがキャットフードを食べても、マウスとつながっているはずのディスプレイ中のポインタは微動だにしません… 全くマウスを動かさずに食べるなんて…ネコの食べ方って器用なんですね…。

 ところで、マウスがディスプレイの向こう側にあって、ポインタがディスプレイ上にあるということは、ひょっとして見ている私がいる世界の方がディスプレイの中の世界なのかな?

 ディスプレイのあちら側とこちら側… 例えば、FaceTimeで話をしているとき、自分は現実空間にいて 相手はディスプレイの向こうにいる、と感じるけれど、相手から見たらそれは逆の関係になるのか… と、自分の”いる”場所の世界は本当に物質的な世界なのかな?と、そんな不思議な感覚にも陥る作品でした。

② 【情報】と【実体】を行き来する世界

 続いて、ギャラリーの奥にあるのは、多数の”矢印”のペインティグ

(「Click and Hold」/ exonemo)

 はじめは同じ方向の矢印が並ぶのを見て、思わずその方向に何かあるのかな?と、見上げてしまいました…このとき、わたしの頭にあったのは”記号”としての矢印。

 しばらくみているうちに、その矢印は”ポインタ”なのかも?と気づきます。でも、このときのイメージは、「カンバスに描かれた”ポインタ”の絵」。

 ところが、プライスリストでこの作品の写真を ”2次元” の状態で見たら、一瞬にしてその印象が変わりました。「カンバスがポインタによって”Hold"されている…!」

 そこから再び3次元の作品を見ると、壁に掛けられたこれらの作品が、すべて”ポインタ”によって”Hold"されていて、マウスから手を離したら全てが落下してしまうような状態さえ想像してしまいました。

 矢印の絵が、捉え方ひとつで別の意味を持ってしまう…PCの中の【情報】の世界と、現実の【実体】の世界を行ったり来たりするような不思議な体験でした。

③ 【生物】と【機械(非生物)】を行き来する世界

 今回の新作は、こちらの作品。

(「shotgun texting」/ exonemo)

 ”shotgun texting”とは、メールを大量送信するような意味のネットスラングのようです。この作品では、その言葉どおり、ショットガンでキーボードを撃ち(打ち)、それによって入力された言葉を記しています。こちらもまた、”言葉遊び”のような世界です。

 今回は、その結果としての破壊されたキーボードと、そのときの映像が展示されています。

 キーボードは機械であるにも関わらず、壁に固定されてショットガンを打ち込まれる様子を見ると、処刑のシーンをみているような苦しい気分になります…そして、物理的に壊れながらも言葉が入力されていくのを見ていると、ギロチンで首を切られてもしばらくはまばたきを続ける…という話などを連想してしまいました。

 100台撃って テキストが採取できたのは4台だけとのことでしたが、そのうちの1台は、破壊されても虹色に光る機能はまだ残っていて、これは生きているのか、死んでいるのか…?と、機械なのに ”生死” を考えてしまうような、不思議な感覚になる作品でした。


 この他にも、水戸芸で展示されていた「I randomly love you / hate you」や、これと対になるような一方通行で様々な”I love you”を発信し続ける作品(作品名忘れてしまった…)なども。

(「I randomly love you / hate you」 / exonemo)

 展覧会タイトル『LO』は、1969年にインターネットの原型となるARPANETの最初の通信実験で送信されたメッセージで、「LOGIN」と入力しようとしたところ、「LO」を送信した後にシステムがクラッシュしたために、この2文字がインターネットの世界を切り開いた言葉になったものとのこと。

 この展覧会での「不完全なメッセージ」は、見方によって異なる意味を感じ取り、不安定な足場の上で身近にある世界を考え直すような展示でした。

 2019年3月24日までです。

【展示概要】 エキソニモ「LO」

会場:WAITINGROOM
会期:2019年2月23日~3月24日
時間:12:00~19:00(日〜17:00)
休館日:月、火、祝
観覧料:無料

 エキソニモは、千房けん輔と赤岩やえにより1996年に結成されたニューヨーク在住のアートユニットです。インターネット上での作品発表を皮切りに、独自の手法とハッキングを思わせる感覚でインスタレーションやパフォーマンス、イベントオーガナイズなど、多岐にわたる活動を行い、日本のインターネットアートを20年に渡り牽引してきました。当ギャラリーでは初、国内では実に6年ぶりの個展となる本展は、「不完全なメッセージ」をテーマに新旧作織り交ぜた作品群で構成されます。去年水戸芸術館でのグループ展『ハロー・ワールド ポスト・ヒューマン時代に向けて』で展示された2台のモニター作品《I randomly love you / hate you》の他に、本展のテーマに基づいて制作される新作、また過去作品からリミックスし直した作品などを展示いたします。

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