「記憶」をたどって、つなぐ。 ーあした と きのう の まんなかで @はじまりの美術館

「あなたの目にうつる風景は、あなたがそれまでに出会い、感じ、得てきたものが反映された、あなたにしか見ることのできない風景なのではないでしょうか。」(展覧会ステートメントより)

 そんな ”あなたにしか見ることのできない風景”を、作品を通じて感じる展覧会が、福島の小さな美術館で開催されています。

あした と きのう の まんなかで @はじまりの美術館

◼︎誰かの「記憶」をたどる。

 ステートメントには「本展覧会では、風景にかかわる表現をする8組の作家を紹介します。」と書かれています。でも、その「風景」は 絵葉書のように切り取った「風景」ではなく、誰かの「記憶」が、作品を見た人の「記憶」に変わっていくような「風景」でした。

 例えば、鈴木のぞみさんの作品は、生活の中で使われていた窓ガラスや鏡に直接乳剤を塗って、そこに写っていた風景をそのまま現像したり、鍵穴を使って撮影されたピンホール写真などの写真作品。写真の原理に帰るような技法と、モノ自体に閉じ込められた風景の記憶がどちらも印象的な作品です。

(《Other Days, Other Eyes:長谷川邸洋間の窓》 / 鈴木のぞみ(2018)

(《Monologue of the Light》シリーズ / 鈴木のぞみ 展示風景)

 クワクボリョウタさんの《LOST#17》は、鉄道模型とLEDと日用雑貨を使った光と影のインスタレーション作品。存在するはずのない風景でありながら、なぜか懐かしさを感じてしまうような風景が展開されていきます。

(《LOST#17》 / クワクボリョウタ(2019))

 ハナムラチカヒロさんの《Translucent Fukushima / 半透明の福島》は、”手紙”というツールをつかって、自分の記憶と、顔も名前も知らな誰かの記憶を共有していくような作品。手紙を書くという行動を通じて、自身の記憶をたどっていく体験にもなりました。

◼︎アール・ブリュットの美術館。でも、それだけじゃない。

 「はじまりの美術館」は、社会福祉法人 安積愛育園の運営する「アール・ブリュット」(伝統や流行、教育などに左右されず、自身の内側から湧きあがる衝動のままに表現した芸術)の美術館です。

 自分の気に入った写真を何年も触り続けることで写真が削れ、様々な形に変形し、一つの作品となっている杉浦篤さんの写真《Untitled》は、「作品」と意識して作られたものではないかもしれませんが、写真の中のに対する想い入れの強さがこんな”形”として表れてくることに驚かされます。

(《Untitled》 / 杉浦篤(1997-))

 また、壁一面の高橋和彦さんの精緻に描き込まれた絵画作品など、福祉の文脈でのアール・ブリュットの作品も展示されています。

(高橋和彦 作品展示風景)

 HPには「アール・ブリュット はじまりの美術館」と書かれていますが、アール・ブリュットの作品だけを取り上げて展示するのではなく、テーマを持った展示の中にアール・ブリュットの作品も区別なく取り入れられている構成がユニークです。

◼︎作品以外のもうひとつの「記憶」 ー建物の記憶。

 今回こちらの美術館を初めて訪れて、作品だけでなく印象的だったのが、美術館の建物。(竹原義二 / 無有建築工房)

 まちに残る風情ある建物をリノベーションし、アール・ブリュットの魅力を発信する場をつくる「ボーダレス・アートミュージアム構想」のなかで5番目の美術館としてオープンしたというこちらの美術館。

 約 130 年前に建てられ、酒蔵・ダンスホール・縫製工場と用途を変えてきた「十八間蔵」をリノベーションしたものなのだそうです。「十八間蔵」の名前は、約33m(18間)1本の木でできた梁に由来するそうです。

 この立派な梁だけでなく、国産の松の古材を再利用したという床や、木繊セメント板、コンクリートブロックなど、建築のなかのいろんな素材の個性が楽しい美術館です。靴を脱いで上がるので、足元の感触も楽しいです。

 作品だけでなく、美術館の建物自体もその土地の「記憶」を伝えるような建物でした。

 「あした と きのう の まんなかで」展は、2019年 7月 7日(日)までです。


【展示概要】 あした と きのう の まんなかで

会期:2019年4月6日 - 2019年7月7日
会期:2019年 4月 6日(土) ~ 2019年 7月 7日(日) 10:00〜18:00
   ※火曜休館、4月30日は開館、6月22日16:00閉館
会場:はじまりの美術館(福島県耶麻郡猪苗代町新町4873)
料金:一般500円、65歳以上250円、
   高校生以下・障がい者手帳をお持ちの方および付添いの方(1名まで)無料
出展作家:クワクボリョウタ、国立療養所菊池恵楓園絵画クラブ金陽会、
     杉浦篤、鈴木のぞみ、瀬尾夏美、高橋和彦、谷川俊太郎、
     ハナムラチカヒロ

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ぷらいまり。

旅行とアート(現代アート/メディアアート)と写真 が好きな 30代・DINKsサラリーマンのnote。ほどほどに仕事して趣味に生きる。 / twitter(@plastic_candy) https://twitter.com/plastic_candy

●展覧会 案内●

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