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それぞれの未来の見つめ方 ー 三人展-Forward Stroke 明日への眼差し- @佐賀県立美術館 (佐賀県 佐賀市)

 佐賀県立美術館で開催中の「三人展-Forward Stroke 明日への眼差し-」へ。

 八谷和彦さん池田学さん葉山有樹さん、佐賀出身の3人のアーティストによる展覧会です。1人1室ずつ、それぞれの世界観にあふれていて見ごたえがありました。

 展示を見る前は ”佐賀出身” という以外は、メディアも作風も全く異なるように感じていたのですが、見終わったあとには そのつながりが見えて、なんて良い展覧会タイトルなんだろう… と思ってしまう展覧会でした。

■ 八谷 和彦

まず、メディアアーティスト・八谷和彦さんの部屋へ。

(「M-02J」 / 八谷和彦)

 こちらの主役は、「風の谷のナウシカ」に登場する 架空の飛行具「メーヴェ」をコンセプトにした一人乗りの全翼機「M-02J」。造形を真似ただけでなく、実際に人が乗って飛べるジェットエンジン付きの飛行機で、会場では 機体のほかに試験飛行の動画や写真も見ることもできます。

 特に、大型の三面スクリーンに フライト中のパイロット視点からの映像が投影される「きみはテト 2018」は、自分もその機体に乗っているような気分になることができて面白いです。

 都内では 表参道・スパイラルでの展示が終了したばかりですが、今回の展示では、エンジン部分の展示や過去の模型なども追加されていて、スパイラルの展示を見ていても楽しめる内容になっていました。

(「FairyFinder 02—空を見るための望遠鏡」 / 八谷和彦。
一見何も写っていないディスプレイですが、双眼鏡を覗くと…)

 クイズに正解すると、M-02Jのフライトシミュレータにもチャレンジできます。(わたしは今回で4回目のチャレンジでしたが、墜落せず飛べるようになり感激しました…!)

 2003年から続くこのプロジェクトのきっかけのひとつはイラク戦争で

「いつか現れるナウシカ(ナウシカのような心を持った未来の子供たち)のために、調停のための飛行機を作って世界が変わるのを待とう」
(「ナウシカの飛行具、作って見た」 / 八谷和彦より)

と考えたことなのだそうです。(カッコ内は、共著者・猪谷千春さんの記述)

■ 葉山 有樹

 続いて、佐賀県西松浦郡有田町ご出身の 陶芸家・葉山有樹さんの部屋へ。

 個人的には、陶芸(お皿とか壺とか)って、見方がよくわからなくて敷居が高いなぁ…と尻込みしてしまう分野だったのですが、第一の展示室の巨大なインスタレーションで、そんなイメージが覆されました。

(「海青皇賜壺」 / 葉山有樹)

 そして、これに続く展示室の「壁画 有為転変図」と「鼓動玉盌」。

 子どもたちのほのぼのとした光景と、それとは対照的な自然の厳しい風景が、円筒状の部屋をぐるりと一周するように描かれています。モチーフを見ていると、部屋を一周する間に春夏秋冬の季節の流れが描かれているようです。

 「有為転変図」という不穏なタイトルですが、

「現代の変化のスピードの速さに由来する将来的な有為転変が、当事者の自分たちではなく、未来の子供たちに降りかかるのではないか」
(展覧会ハンドアウトより)

という危惧を表したものなのだそうです。

■ 池田 学

 最後に、カラーインクとペンで描いた緻密な絵画の画家・池田学さんの部屋へ。(こちらの部屋は、一部のみ撮影可能です。)

(「誕生」 / 池田学)

 初期の作品から、「誕生」(2017) まで、大小の60点を超える作品が紹介されています。

 「超絶技巧」という領域には止まらない、細密でリアルな描写と、ファンタジー映画のようなユニークな世界観。大判の絵画のなかでは、そんなユニークな”物語”が、各所で同時多発的に展開されているのが魅力的です。

 「誕生」には 解説の映像もありました。大きく見ると自然が描かれているように見えて、実際にはすべて人工物でできているというところがポイントなのだそうです。

(「誕生」 (部分) / 池田学 )

 東日本大震災を想起してしまう絵画(著書のなかで「それはこの絵の表層的な顔の一部であり、全てではない」と記されていますが)につけられた「誕生」というタイトルには少し違和感も感じますが、この作品制作を通じた新たな気づきや、被災地に赴き、

「ここは全てが無くなった所でもあるが、同時に生まれたばかりの場所でもあるのだ」
(「池田学《誕生》が誕生するまで」より)

といった実感がこの作品に込められているそうです。

 この「誕生」は、11月28日からは、森美術館の「カタストロフと美術のちから展」にも展示されます。(現在、森美術館では作品解説の映像が流れていました。「予兆」は現在、森美術館に展示中です。)

 ちなみに、この美術館ちかくで開催中の「肥前さが幕末維新博覧会」の会場では、池田学さんと、この展覧会の後に佐賀県立美術館で個展が開催される 吉岡徳仁さんの短冊も飾られていました。(吉岡徳仁さんも、佐賀県のご出身なんですね。)

 三人それぞれ、表現方法もテーマも異なる展覧会ですが、サブタイトルの「明日への眼差し」のとおり、未来への問題提起と希望がともに感じられる、見応えのある展覧会でした。

 2018年11月18日(日)までです。

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■ 三人展-Forward Stroke 明日への眼差し-

会期:2018年9月30日(日曜日)~11月18日(日曜日)
※会期中の休館日はありません

会場:佐賀県立美術館(2.3.4号展示室)

観覧料:一般・大学生 1,200円
※高校生以下及び障害者手帳をお持ちの方とその介助者1名は無料

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