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デジタルの時代に 写真という”メディアアート”を捉え直す ー メディアアーティスト・落合陽一の世界『質量への憧憬 〜前計算機自然のパースペクティブ〜』 @amana square

 天王洲アイルにあるamana squareで開催中の、落合陽一さんの写真展 メディアアーティスト・落合陽一の世界『質量への憧憬 〜前計算機自然のパースペクティブ〜』へ行ってきました。

 メディアアーティストの落合陽一さんの「写真」作品を中心とした個展です。インタビューなどを読んでいると、ご本人の意図とは少し違った部分もあるかもしれませんが、実際に見て感じたことを書きたいと思います。
(※ 昼と夜に1度ずつ訪問したので、写真は昼夜混ざっています)

圧倒的な作品量

 まず展示室会場に入ると、壁を埋め尽く写真の量に圧倒されました。

 写真だけでなく、立体作品やインスタレーションもあり、また展示のいたるところに落合さんによるテキストも散りばめられています。

 中には 落合さんが過去に手掛けた作品やアートプロジェクトの様子が写真作品に取り込まれた、入れ子のような作品も。

 今回の展覧会タイトルは「質量の憧憬」。展示を見る前、写真に対して”質量”という言葉を使うのが、なんだか疑問に感じていました。今回の展示を観ているうちに思い出したのが、落合さんが著書「デジタルネイチャー」の中で、(「リアル」と「バーチャル」ではなく)「物質的(Material)」「実質的(Virtual)」という言葉を対比し、そのどちらにも共通して内在しているのが情報(本質)である、としていたことです。光を捉えた写真という「実質的」もののなかに、質量を備えた「物質的」な部分を表現しようとしているように感じられ、それは例えば、過去の落合さんの作品;シャボン液のスクリーン「Colloidal Display」や、”触れる”空中ディスプレイ「Fairy Lights」;を通じて、「実質的」な世界を、波という情報を使って「物質的」な世界とつなげていくことにも通じているようにも感じました。

(ガラスで隔てられた「苔とコンクリ」。こちらの作品を観て ”実質”と”物質”の話を思い出しました。)

「メディアアート」としてのデジタル写真

 この展覧会を実際に観る前にもうひとつ疑問だったことは、写真展でありながら「メディアアーティスト・落合陽一の世界」と、タイトルに ”メディアアート” という言葉が取り入れられているところでした。「映像」はメディアアートと捉えても、「写真」をメディアアートと捉えることはあまりないように感じたからです。

 そんな疑問を持ちながら 今回のステートメントを読んでいると、

メディアアートに惹かれた二つの気持ちは分解できる.
だれも見たことがないものを見たいこと,刹那で失われる
なにかを留めておきたい体験の物象化だ.

とあり、写真というメディアが  ”メディアアートに惹かれた二つの気持ち” を表現する手段になり得るのかもしれないと考えながら作品を観ていきました。

(「Morpho Scenery -Shoji-」)

 屋外と部屋の間に置かれた、レンチキュラーをかませた「Morpho Scenery -Shoji-」がカメラオブスクラを連想させたり、また それと向き合うように展示された「窓」というフレームで切り取った写真が展示されていたり。

 異なる時代に開発され、解像度が異なる様々なディスプレイにデジタルのイメージが表示されていたり、

 それから、現在のような複製可能なタイプの写真 ”カロタイプ” を発明したタルボットの作品に言及し、デジタル写真をソルトプリントで仕上げられていたり…

 今回の展示全体が、写真を ”メディアアート” として捉え直すような展示に見え、展示を観た後には、映像はアナログで撮影されていても「ニューメディア」で、写真はデジタルで撮影されていても「オールドメディア」と捉えてしまうことが不思議にも感じられてきました。

作品購入のユニークな取り組みも

 今回の展覧会では、落合さん初めての写真作品集「質量への憧憬」も販売されていました。作品集といっても書籍ではなく、200点の作品を収録したボックスで ”ソルトプリント”によるプリントの展示用ピースも付属しています。

 通常は写真作品を購入すると「額装は+●円ですが、どうしますか?」といった感じになりますが、こちらはアクリルボックスのまま部屋に飾れるような仕様になっているのがいいなぁと思いました。

 また、展覧会自体は入場料無料で、エディション付きの「作品」販売もありますが、その一方で、1,000円のドネーションをすると写真作品のテストプリントを1枚いただけるというちょっと変わった仕組みも。

 入場料が1,000円というわけではなく、無料でも展示を楽しめ、一方でお金を払った場合にも特典があるというのはユニークな試みだなぁと思いました。わたしも、展示は2回見に行きましたが、入場料がわりに…と、1枚ずつ購入しました。サインが入っているのも嬉しいです。

 作品を購入するよりも気軽ではありますが、そこにあるたくさんの写真のなかから ”どの作品を家に迎えたいかな?”と考えて、一番手元に置きたい作品はどれ?そしてそれはなぜ?と考えていくということが体験できるのは素敵な試みだと思いました。

(今回の個展専用のブレンドコーヒーも。)

 展示は通常21時までオープンしているので、ぜひお時間をたっぷりとってお出かけください。会期は2月6日(水)までです。


■ メディアアーティスト・落合陽一の世界『質量への憧憬 〜前計算機自然のパースペクティブ〜』

会 期:2019年1月24日(木)~2月6日(水)
時 間:11:00~21:00
※1月24日(木)のみ、レセプション開催のため一般のご観覧は16:30クローズとなります。
会 場:amana square(sessionhall/IMA gallery/IMAcafe)
〒140-0002品川区東品川2-2-43 T33ビル1F
作品数:平面作品21作品、立体作品2作品ほか
入場料:無料

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