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シェアサイクルのユーザーコミュニケーションとオープンデータが日本の「交通変革」の鍵となるー第14回全国シェアサイクル会議「公共交通とシェアサイクル」@福岡

 Plat Fukuoka cycling2024年最初の記事は、2024年1月23日に福岡市で開催された第14回全国シェアサイクル会議から、シェアサイクルが日本の「交通変革」の鍵となる可能性を2つのポイントで紹介します。本会議は国土交通省が開催しているもので、下記リンクにて後日各登壇者資料の公開がありますので、公開され次第関連資料をこちらにもアップいたします。)

 今回の開催テーマは「公共交通とシェアサイクル」です。本記事では会議の基調講演として登壇された呉工業高等専門学校の神田佑亮教授の講演をベースに続く登壇者の方々の発言を絡めながら考察していきます。

ポイント①シェアサイクルがやらなければならないユーザーコミュニケーション モビリティ・マネジメント・心理的方略について

 冒頭、神田教授は海外のシェアサイクルや電動キックボードシェアを調査する中で、欧米でのポート整備や走行空間、スマートフォンでの経路や利用検索などのインフラの充実がある一方で、トランジットモールが進んだ都心部ではLRTなどの公共交通と歩行や多く、自転車の利用者が少ない点から場所による移動モードの選択が料金体系などもあり選別されている点を指摘。
 一方課題としたのがシェアサイクルや電動キックボードのとにかく乱雑なポートや走行利用マナーのレベルの低さで、ユーザ側の課題でした。近年、パーソナルモビリティに逆風が吹く(筆者注:パリが電動キックボードのシェアリングサービスを中止した事例など)一つの原因なのではないかというお話でした。
 この点は非常に重要で、街に新しいサービスが溶け込んでいくときに、ユーザ側のマナーの課題を克服しないと客層の劣化を招くだけでなく、取り込んでいくべき客層すら獲得することができず、社会的規制が厳しくなり、社会的な実装すらできなくなるということです。
 その点で、いままでの使う(借りて返す)というコミュニケーションだけでよいのかという課題から、利用者に対するモビリティ・マネジメント、心理的方略が必要であり、ユーザとのコミュニケーションの工夫する余地が非常にあると感じるとのことでした。(神田教授はユーザーコミュニケーションができている事例として紹介されたのがカーシェアを紹介し、会員制であることに加え、ユーザーが使う人への配慮があるかどうかの問いをユーザーに投げかけることで相互のコミュニケーションが成立していることを説明されていました。)

シェアサイクルのモビリティ・マネジメント・心理的方略についてー「シェアリング経済」から「コラボラティブ経済」へ

 神田教授のキーワードとして登場した「モビリティ・マネジメント」とは

一人一人のモビリティ(移動)や個々の組織・地域のモビリティ(移動状況)が、社会にも個人にも望ましい方向に自発的に変化することを促す、コミュニケーションを中心とした多様な交通施策を活用した持続的な一連の取り組み

土木学会:モビリティ・マネジメントの手引き(土木学会計画学研究委員会土木計画のための態度・行動変容小委員会編)

と定義されています。さらに須永氏らの論文では、「Mobility」について

一人一人の個人の移動全体を意味しており、英語の表記の通り個人の行動に関する様々な事項について、社会に対しても個人に対しても望ましい方向を実現していく政策と捉えていく方が自然である(図ー1)。

須永大介、牧村和彦、高橋勝美、島田敦子、矢部努、北村清州、中村俊之、國山淳子:
モビリティ・マネジメントの意義と今後の研究課題:IBS研究活動報告2006
須永大介、牧村和彦、高橋勝美、島田敦子、矢部努、北村清州、中村俊之、國山淳子:モビリティ・マネジメントの意義と今後の研究課題:IBS研究活動報告2006

 このモビリティマネジメントがこれまでの交通問題が構造的方略が中心であったのに対して、心理的方略を適切に取り入れていく点が大きな違いといわれています。(下の図参照)

谷口綾子(筑波大学大学院都市交通研究室)
:国土交通省第31回総合的交通基盤整備連絡会議資料より

ちなみにこのモビリティ・マネジメントの心理的方略の取り組みは、福岡では継続して行われています。その名も「まち歩かんね、クルマ減らさんね運動」です。

 シェアサイクルのモビリティ・マネジメントとしてユーザーのコミュニケーションを行っていく上で用語のアップデートする必要があると考えています。そのヒントとして、サービスデザインとサスティナブルデザインの世界リーダー エツィオ・マンズィーニの言葉を引用いたします。

「コラボラティブ経済」は、シェアリング経済のようにシェアする手段だけでなく、目的についてもシェアするのである。よりはっきり言うと、「コラボラティブ経済は、水平のネットワークとコミュニティへの参加に基づいた実践とビジネスモデルとして定義される」

エツィオ・マンズィーニ:日々の政治 ソーシャルイノベーションをもたらすデザイン文化P150

 上記のとおり、シェアサイクルはいわゆるシェアリング経済の1つではありますが、ユーザーとのコミュニケーション、そしてよりよい都市移動環境をつくるためにユーザーや他の交通事業者、自治体との連携が進んでいけばシェアリング経済からコラボラティブ経済にアップデートが図られ、自転車という移動ツールが公共交通として位置付けることにつながると考えています。では続いて、公共交通とシェアサイクルについて考えていきます。

ポイント②「公共交通とシェアサイクル」において、シェアサイクルのオープンデータが「交通変革」鍵となる

 シェアサイクルを含む自転車については、一部の自治体(埼玉県朝霞市など)を除いて地域交通計画、公共交通に位置付けられていません(多くは別途自転車に関する行政計画を策定しています)。
 この最大の要因は、シェアサイクルのサービス面の課題克服「絶対に乗れるかどうかがわからない」という問題があるといわれています。さらに自転車利用はあくまでマイカーと自家用の乗り物という扱いであり、公共交通とは異なる位置づけと考えられます。
 では、世界トップの自転車大国であるオランダはどのような思想でもって自転車を位置付けているのでしょうか。オランダの自転車まちづくりのドキュメンタリー映画『Why We Cycle: 私たちが自転車を使うわけ』の中で、アムステルダム大学(未来都市モビリティ)のマルコ教授はオランダのおける自転車を位置づけを単なる健康や経済などの有用性以外の魅力として、人が人と話しながらやすれ違いながら、また自然と街の風景と出会える点から以下のように述べています。

自転車は、公共の場所で人と人が出会えるモビリティーの形態である。

映画『Why We Cycle: 私たちが自転車を使うわけ』日本語字幕版より

 この言葉の意味は、自転車は徒歩以上、自動車以下の速度で移動することができる乗り物であることから公共の場所(≒公共交通)であるという考えです。そもそも道路空間も国や自治体が所有している公共空間ではあるのですが、日本の道路・交通政策上道路空間と公共空間があることは事実です。(ただその考えも国土交通省道路局より「2040年、道路の景色が変わる」で将来像が示され、変革の動きが期待されるところです)
 一方で、地域交通に関する議論では、誰もが気がねなくおでかけすることができ、移動することを喚起できる交通が求められていること。またコロナ収束後も人の移動量、つなり外出回数が回復していないことから、移動量を増やすことは交通機関の維持、そしてまちの経済活性化においても取り組まなければならない課題となっています。

公共交通と自転車・シェアサイクルの競合?協調?の関係を構築するための結節点的思考と情報の非対称性の解消のためのオープンデータ戦略

 神田教授は地域交通計画での課題として、自転車も含め交通結節が考慮されていない点を指摘されています。既に路線バスを筆頭に運転手不足からも快適な移動を持続可能とするためにも、ステークホルダー間での利用状況などの関連データの非対称性の解消は必要で、国の地域交通の分野での事業支援に動き始めています。今回の会議でも、公共交通とシェアサイクルの関係について、これまでの公共交通が樹木でいうと幹であるのに対し、シェアサイクルは幹から樹木のあらゆるところに水と養分を循環させる葉脈のような存在が指摘されていました。そして神田教授は、葉脈であるシェアサイクルが先陣をきって利用情報のオープンデータ化をすることで、他の幹である事業者との連携促すことにつながる点を指摘されていました。
 そして、福岡市ではシェアサイクル・チャリチャリ利用データを活用して自転車通行空間ネットワークの検討が進めることが掲げられています。(福岡市自転車活用推進計画も今年から改定作業始まると思われます。)

2021年3月策定:福岡市自転車活用推進計画より

 今回会議にも登壇されたチャリチャリを運営するneuet株式会社の家本代表取締役と西日本鉄道株式会社の髙悟自動車事業本部未来モビリティ部長の対談記事では、今後シェアサイクルとバスや鉄道などの利用者データを共有していくことの話がなされております。この連携も福岡市は一層先進的に走っていく必要を感じるところです。

 都市の活力・エネルギーというのは人の移動によるものであり、上記の記事で家本代表取締役の「今、交通が変わらなければ、次の50年の福岡市のデザインは、それほど変わらないだろう」という言葉は、再開発が進む天神や博多の街において、建物が新しくなっていく中で、道路空間が変わっていない現状に危機感をもつ筆者と同じ考えでした。

今回は全国シェアサイクル会議の内容の一部を筆者の印象が残ったポイントに絞って紹介させていただきました。国土交通省のHPに当日資料等が公開された際には、図表等を追加する予定です。

Plat Fukuoka cyclingは2024年も自転車を中心に交通や都市についての知見の収集と活動を続けてまいります。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

Plat Fukuoka cycling 安樂駿作

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