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シン・ゴジラ

 遅ればせながら『シン・ゴジラ』を鑑賞。
 いやはや、特撮映画にトンと縁がなかった私にもう一度観たい!そう思わせてくれました。

 「リアリティ」はまさに話題となっていますが、テロップ表示(登場人物・登場装備・地名の名前表記や自衛隊関連法の条文)の使い方などドキュメンタリー的(あるいは報道的ともいえましょうか)要素も強く、2時間があっという間でした。上演後、改めてパンフレットを確認すると、やはりドキュメンタリー性は意識されていた模様。その中で細かな人間描写と物語があり、その世界に没入したせいか、スクリーンを出てからも少し不思議な感じでありました。

 テロップ表示というものは便利なもので、ストーリー展開を早める効果とともに、情報を多く出せる利点があります。反面、文字追いが追い付かないということもありますが、それはそれです。たとえ追えなくとも十分楽しめますし、むしろ、もう一度観たいと感じさせる。上手い手法といえるかもしれません。

 画のカット割りなど、さすが庵野監督というべきでしょうか。アニメ的なものを感じました。あのテロップ表示もアニメ的な表現の一つといえるでしょう。そして、映画全体を見れば実写とアニメ、特撮の良いとこどりをしているといえます。コンピューターグラフィクス(CG)は実写・アニメ・特撮で用いられますし、CGのゴジラと実写を重ね、自衛隊機や破壊された町などもCGで表現していますから、CGを軸にしたこの映画は様々な要素を取り入れやすかったのかもしれません。

 そんな「シン・ゴジラ」ですがわたしは池袋のスクリーンで見たので、サンシャイン60をふと見上げ、あれよりもデカいのか…?とゴジラの大きさを想像していました。しかしながら、調べてみると、全高は当該ビルディングよりも低いことが判明しました。当該ビルディングは230メートルあまり、巨大不明生物は115メートルあまり。およそ2倍でありました。なんという誤認…不徳の致すところであります。日本初の高層建築物、霞ヶ関ビルディングでも140メートル前後ですから、丸の内近辺の高層建築物でも十分ゴジラは隠れうるということです。

 そのゴジラ、今回は4つの形態に変化します。ご覧になってない方はぜひそこも注視してみてください。ポスターに載っているのは第4形態(最終形態)です。つまり、劇中のゴジラ登場時は全くことなる姿です。個人的に第2形態が登場したとき、おもわずゴジラに「かわいさ」を覚えました。いわばちょっとやんちゃな巨大トカゲ(実際はトカゲではなくラブカをイメージしたそうですが)が都会で暴れている(にしては破壊しすぎです)ような感覚。まさかこの子があんなすがたになるとは…。ゴジラの変態(蝶々みたいですね)にも注目です。

 冒頭で少し触れましたが、「リアリティ」といえば、映画中に出てくる「テレビ画面」もまさにそうで、災害緊急報道でおなじみのL字画面が各局仕様を再現していて個人的に面白かったです。「あっ、NHK」、「あっ、テレ朝」、「あっ、日テレ」(ちなみに日テレ報道局のセットは最近リニューアルしたので、劇中のセットは旧セットとなります。)というように、まさにテレビ画面を見ているかのようでした。これも観客を映画の世界に取り込む(まるで現実のように思わせる)仕掛けの一つなのだろうなと思っておりました。このような小道具の活用は積み重ねるほどにリアルに近づくように思います。「リアル」これがこの映画の最も大きなポイントですね。個人的には首相官邸の執務室に「天照大神」の札があったことが印象的でした(どこみてんねんという話ですが)。官邸らしいっちゃあらしいかなとも思います。各々が細かいところをチェックできるのもこの映画の面白さでしょう。

 無類の乗り物好きとしては、自衛隊の装備はもちろん、米軍機、JRの車両(新幹線N700系や在来線通勤電車数種類が登場)、京急、江ノ電が映るたびに小さく喜んでいました。しかしながら、新幹線や在来線の車両を爆弾として用いることに、果たして劇中のJR東海やJR東日本は了解していたのか…?国家総動員法的に有無を言わさずというところだったのでしょうか?丸の内のビル群もゴジラ以外の力により破壊されます。どんな経緯でそれが許可されたのか。おそらく相当な数の特別措置法(ないしは政令でしょうか)が臨時内閣により次々と生まれたのでしょう。これらは物語の本筋ではありませんが、バックグラウンドが気になるのが私の悪い癖。細かく描かれなかったゴジラ活動停止期間中の日本国内の動きも見てみたいものです。

 これ以上はネタばれ(すでにかなり暴いてしまっている感)になるのであまり内容(ストーリー)には触れませんが、これはフィクションでありながら、ゴジラという虚構の存在を介した「近未来シミュレーション」映画のように感じました。自衛隊の防衛出動や住民避難、日米安保に基づく米軍出動、国連安保理決議、有事にはどれもありうるでしょう。フィクション映画であるがゆえに(しかも、巨大不明生物という超特殊事案)どれも「想定」ではありますが、描かれるリアリティがものすごく現実味を感じました。ゴジラ以外はすべてリアルにという策略が見事に実を結んでいます。緻密な台本制作と映像化までの想像をはるかに超える調査に敬意を表します。

 「スクラップ・アンド・ビルド」もまたキーワードのように思います。1964東京五輪に向けて東京大改造をした日本。ことあるごとにスクラップ・アンド・ビルドを繰り返してきた日本。とある登場人物のいった「スクラップ・アンド・ビルド」の言葉が若干皮肉に聞こえたのは私だけでしょうか?

 音楽も素晴らしかった。あの伊福部音楽が様々な形で顔を出します。ゴジラにはやっぱり必要な要素なのですね。「ドシラ・ドシラ・ドシラソラシドシラ」はインパクト絶大です。音楽的には4拍子と5拍子が交代に登場する音楽です。この「変則」感がゴジラの不気味さを音楽から支えているように思います。エンディングに流れるゴジラはおそらく初代ゴジラやそれ以降のゴジラに書かれた音楽(パンフレットによるとやはり当時のモノラル音源を用いたようです)、音源のそのものでしょう。モノラル独自の音の粗さはむしろ怪獣映画にぴったりな部分があります。もちろん昨今の重低音を響かせる音楽もそうですが。ユニゾンのヘ音とともに画面に映された「終」の文字が2時間の幕引きでした。

 なるほど、まとめればまとめるほどにもう一度観たくなります。感想を言い合うごとにもう一度見に行きたくなる人が多いのもよくわかります。思い出せば、「あそこはどうなっていたっけ?」「このひと出ていたのか…!?」といった疑問がわきます。一回で理解できるきわめて明確なストーリー展開なのですが、一回では理解できない細部があまりにも多すぎます。だからこそ人々ははまり人々は面白がり、反面批判も出るのでしょう。

 この映画は間違いなく今年一番の映画となるでしょう。

 さあ、もう一度見に行こう!

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