見出し画像

夫の不倫発覚、何も出来ないまま捨てられた妻

探偵事務所で知ったある真実


若いころ、探偵事務所でアルバイトをした。金に困っての小銭稼ぎのつもりだった。
依頼のほとんどは浮気調査。妻が夫の、夫が妻の不貞の証拠を掴もうと依頼する。もちろん当時も今も想像以上に料金が高い。少なくとも本当に調査する事務所なら安くはない。(調査もしないでお金だけ請求する事務所も普通にある)

浮気調査をし証拠をつかんだ人の何割が、浮気相手に内容証明郵便を送るか知っているだろうか。

実は半分もいない。
何十万円、何百万円という費用をかけて調査したにも関わらず、浮気相手に何もアクションを起こさずに終わる。

何故なのか。それは単純な理由で、「それをやったらすべてが終わる」から。

たとえば妻の浮気の証拠を掴んだとする。それを妻に突きつけ、相手の男に内容証明を送って慰謝料を請求するという行動をしようとするが、すぐに冷静になる。
それをやったら妻からは決定的に嫌われ、浮気相手とより関係が深くなってしまうからだ。多くの場合は妻は浮気相手を庇う。夫のことなどどうでもいい。妻から離婚したい旨を突きつけられ、浮気相手が独身なら簡単にそちらと暮らし始めることになる。

実務面でも躊躇する。
慰謝料は請求できるかもしれない。しかし離婚となったら財産分与をすることになる。結婚してから手に入れた財産は全て妻と折半しなければならない。住宅ローンを妻とペアローンや連帯債務で借りていれば、夫はせっかく買った家を手放さざるを得なくなる。

あるいはこんなことも起きる。

浮気相手に正義の鉄槌を下したつもりでも、激しい恨みを買う。執拗にこちらを調べ上げられ、嫌がらせを受ける可能性は高い。仕事上で客を装って接触され、わざとトラブルを誘発されるかもしれない。子供を外で遊ばせることも不安になるかもしれない。美人局を仕掛けれられるかもしれない。親が詐欺師に狙われるかもしれない。
もらった慰謝料以上の損害を被る可能性は低くはないのだ。

探偵事務所の社長はヤクザだったが、事務所に来る客にはこう言っていた。

「おたくね、証拠をつかむのはわしらは簡単にできる。しかしその証拠を使って裁判でもすれば正義は勝つ!と思ってるかもしれんが、相手に喧嘩を売る行為だと自覚したほうがいいわな」

多くは驚いた顔をする。浮気調査を頼む人は、自分は正義だと思い込んでいる。誰もが自分を応援してくれると勘違いする。

「え・・・」
絶句する。

実際のところ、浮気も不倫も違法ではないのだ。
慰謝料を請求できる根拠はあるものの、それをやったら配偶者には嫌われ、浮気相手からは復讐をされるかもしれない。暴力なら違法だが、合法的に損害を与えられる可能性は高い。

そういう意味のことを目つきの悪いヤクザが真面目な顔で言うもんだから、客は急にトーンダウンする。
「覚悟決まってんの、おたく」

「ちょっと考えます・・・」と言って帰り、二度と来ない。おそらく違う事務所にもいかない。
寝取られて惨めに泣くだけだ。

多くは浮気調査すらしない。浮気調査しても行動に移せない。移したところで多くは後悔する。そして誰も自分の味方はいないことに気づく。それどころか浮気された被害者なのに相談した相手には次々と嫌われていく。

夫の不倫が発覚した妻の話


夫28歳、妻27歳。まだ若い夫婦がいた。子供はいない。
どちらも高卒で田舎暮らし。正直言って幼稚な夫婦だ。あまり頭は良くない。年収は夫230万円、妻150万円と、地方でも低所得に入る。

この一年ほど夫の様子がおかしかった。お洒落に無頓着だった夫が急に服を買い始め、休みの日に香水をつけて出かけることもある。決定的なのは消費者金融から手紙が届いたこと。
妻が勝手に開封するとそれは督促状だった。

普段からこの妻は夫のスマホを無断で見ていた。浮気を心配するあまりプライバシーなど気にすることもない。当然と言わんばかりに見ていたのだが、ある日スマホにロックがかかっていた。
「解除してよ」と夫に迫る妻。
「なんでだよ、俺のプライバシーだろ」と夫が不機嫌になる。

そこで妻はなぜ消費者金融から借りているのか切り出す。
「なぜ俺の手紙を勝手に見るの」と夫はさらに不機嫌に。

その翌日、夫が風呂に入っている時にスマホをまた覗いてみた。偶然だったがロックが解除されたままだった。LINEを見てみると、そこには女とのやり取りが残っていた。
自分のスマホで画面を撮影した。

あとでじっくり見てみると、どうやら不倫しているのは確実だった。相手は職場の先輩の女性らしい。35歳の髪の長い女で、飲み会の迎えの時に一度見かけたことがある。既婚女性だ。
その会話の内容は、妻の愚痴だった。そして「離婚したら一緒に住もうか」という会話もお互いしていた。

「なにこれ・・・」
ショックを受ける妻。「35歳のババア相手になにやってるの・・・」

風呂から上がった夫に対して、妻は詰め寄った。LINEを見たことは隠したまま、浮気しているのではないかと問い詰めた。

「してないけど」しらを切る夫。「でもさ、ちょうどいい機会だから俺の気持ちを言うよ」
「なに?」
「離婚してくれ。あなたが大嫌いだ」

「え・・・私のこと愛してないの?」
「気持ち悪い。愛してるわけないだろ」

夫はその日から家を出た。

妻は翌日周囲の人たちに事情を話した。夫が浮気していて、こんなこと言われて、どうしたらいいのわたし、という感情を露骨にぶちまけるような話し方だった。

「よく分からないけど、弁護士に相談して、相手の女を訴えたら」と職場の同僚に言われ、弁護士事務所を調べ、無料相談の予約を入れた。

弁護士事務所に行くと男性の弁護士が現れて一通りのことを聞いてもらった。弁護士はみるみる不快そうな顔になっていった。
「あのね・・・端的に話してください。夫が浮気した、それでどうしたいの」
弁護士の不機嫌そうな言い方に驚く妻。「ショックを受けた私」に共感してくれるのかと思ったらそうではなく、弁護士は苛立ちを隠せないようだった。

「いやだから、どうしたいのかって聞いてるんですよ」

「どうしたらいいですかわたし・・・」

「いや・・・相手を訴えて離婚するとかじゃないの」

「相手は訴えたいです」

「じゃあ証拠を見つけて来て。LINEのやりとりじゃ証拠にならないよ」

「証拠ってたとえば・・・」

「ホテルに入ったところ、出てきたところを写真に取るとか。性行為をしている写真を持っているとか。カーセックスしてるところを撮るとか。肉体関係がないと難しいね」

「はい・・・あと離婚はしたくないんです」

「それは弁護士は関係ありません」

「はい・・・相手の職場に乗り込んでもいいですか」

「名誉棄損で訴えられるだけだね。負けるよあなた」

弁護士は最後にこう言った。
「不倫の社会的制裁は弁護士の仕事じゃない。訴えるなら証拠見つけてきなよ。それも弁護士の仕事じゃないから。では」


周囲からの同情を欲しがる妻


「弁護士にこんなこと言われたの~聞いて聞いて、ひどくないですか」と周囲に言いまくる妻。
次第に周囲はゲンナリしてくる。

「違う弁護士に頼むとして、証拠は必要だと思うよ」と同僚が言う。

「どこに頼むの?」

「探偵とかじゃないの」

「それって怖いところじゃないの?」

「知らないよそんなの」
同僚はもう投げやりになる。ほんと知らねえよ、なのだ。

「みんな冷たいんです、話を聞いて聞いて~」を繰り返すたびに周囲は避けるようになる。

無責任に「LINEを証拠にして訴えてくれる弁護士はネットで探せるかもね」と言う人が現れ、Googleを調べる妻。証拠を見つけることが怖いので、なるべくLINEのスクショだけで訴えたいと思っている。

ネットの弁護士に相談予約をし、電話で話したところ、こんな回答だった。

「LINEだけでも行けますが、厳しい結果になるかもしれませんね。肉体関係がなく、単なる言葉遊びかもしれないじゃないですか。浮気相手とされているお相手に強く反発される可能性はあります。LINE以上の証拠を出せと言われて出せなければ、むしろ訴えられる可能性はあります」

「それは怖いです・・・」

「本当にそれ、浮気なんですか?」

妻としては、ここでも弁護士が同情と共感を示してくれるかと思っていた。しかしそんなことは一切なかった。

止まらない同情の物乞い


「またこんなひどい弁護士だったの~」と周囲に言う妻。周囲はもういい加減にしてほしいと思っている。

「だから証拠を見つけたらいいじゃない。不倫ならホテルに行くでしょ」

「でも、撮影して相手が怒ってひどいことされないかな・・・」

「見つかったら怒って迫って来るよそれはwww」

「え・・・困る・・・それに相手を訴えたら、相手の女とか旦那さんにひどいことされないかな・・・」

「されるよ。私なら仕返しする」

「え・・・私は不倫されてる妻なのに?」

「関係ないよ、あなたが喧嘩売ってくるんだもん。買うよね」

「え・・・相手の旦那さん、私の気持ちを分かって協力してくれないかな・・・」

「あのね、ほんと馬鹿じゃないの」

もう二度と相談には乗らないと同僚に言われてしまった。

そうこうしているうちに2カ月が過ぎ、夫から催促の電話がくるようになった。早く離婚の手続きを進めたいと。

「どうしたらいいと思う?」と周囲にすがる妻。でも欲しいのはやはり共感でしかない。

「あのね、ちょっといい?」
友人のひとりが冷静に言った。
「浮気をされた、それはご愁傷様。それであなたがどうしたいのか全く見えないんだよね。相手の女を訴えるならそれは弁護士が言う通り喧嘩だから。相手は怒り狂って反論してくるし。相手の旦那さんが加担してくるかもしれない。それでも戦うって覚悟ないよね?あなたは」

「弱い人間ですわたし」

「またそうやって逃げる。でも離婚はしたくないんでしょ。」

「したくない」

「じゃあ、不倫のことは忘れて、離婚したくない、今までごめんなさいって謝るしかないよね」

「なんで私が謝るの・・・」

「謝る気がないなら離婚したらいいんじゃないの」

「なんでそう決めつけるの・・・」

「いや、決めつけてないでしょ、正論でしょ。相手を訴えたら旦那からも嫌われるし。愚痴言われて相手と仲良くなってるって、それ遊びじゃなくて本気だから。離婚したら相手の女も離婚して一緒に住むよ」

「・・・やだ・・・」

「嫌かどうかは私に関係ない。覚悟を決めて戦って離婚するのか、謝ってすがるか、どちらかだと思います。それ以外の同情を欲しがっても、みんなうんざりしてるのでやめてくれない?」

「・・・ひどい・・・」

結局のところ、離婚に応じるしかなくなった。証拠もないので弁護士にも依頼できない。相手の女に直接言う度胸もない。
嫌われたくないし怖いから何もしなかったら、嫌われたまま離婚に至ってしまった。

その後、元夫は浮気相手だった女と一緒に暮らしている。二人とも転職をして以前の職場にバレないようにもしている。

あまりに幼稚な女の顛末だが、こんな感じで終了するケースの方が多い。しかし、実のところ、これでいいのだと思う。

怒ったってあなたはどうせ何もできない。怖いし喧嘩は長引く。浮気されたら黙って引き下がるのが賢明なのだろうと思っている。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?