RCA IDE 体験記 | ブートキャンプのような1年目について。

こんにちは、丸山紗季(@ikbensaki)です。法学部を卒業後、Royal College of Art (RCA)の Innovation Design Engineering (IDE) に進学し、2018年6月に修了しました。現在は、Studio PLAYFOOLとして新規プロダクトの開発やワークショップの開発などをしています。

RCA在学中によく聞かれた質問No.1のIDEでののカリキュラムを1年目と2年目とで2回に分けて公開します。ただし、毎年カリキュラムはシャッフルされたり追加されたりと更新されるものなので、ここに記載されたものは2016-2018年のものだということをご理解ください。

今日は、IDEでのブートキャンプのような1年目のカリキュラムについて紹介していこうと思います。息つく間もないスケジュールで、ひたすらプロジェクトが続きます。ダイジェスト版なので、各モジュールの詳細に興味のある方は個別にご連絡ください。

IDEについての簡易紹介
MSc/MA Innovation Design Engineeringとは、Royal College of ArtとImperial College Londonとによるダブルディグリーの修士プログラムで、修了すると、ImperialからはMSc Engineering、RCAからMA Designのディグリーを得ることができます。IDEの特徴は、その多様性にあり、クラスの約45%がエンジニアリングバックグラウンド、約45%がデザインバックグラウンド、約10%が全く関係のないバックグラウンドの学生(ジャーナリスト、哲学者など)で構成されています。卒業生のプロジェクトがスタートアップとして事業になることも多く、例えば導電インクのBareConductiveや布のように扱えるコンクリートを開発したConcrete Canvas等がIDEから生まれました。Takramの田川欣也さんもIDEの卒業生です。
今回紹介するモジュール一覧
(1) Elastic Octopus | 失敗に慣れる
(2) Across RCA ( One tool for a stool ) | 学科の垣根を超えた創作週間
(3) GIZMO | 電子工作に触れる
(4) GoGlobal | 海外研修
(5) Superform | マテリアルを理解する
(6) I'll take 9 | 大量生産に挑戦する
(7) Solo Project | ひとりでゼロからプロジェクトをつくる
(8) XY | 最新テクノロジーと未来のデザイン
(9) Dissertation | 修士論文

(1) 「失敗」に慣れるためのElastic Octopus

Elastic Octopusは、'Fail to experiment, Fail to innovate.' をキーセンテンスに、簡単に言うと失敗に慣れるためのモジュールで、4人1組のチームで行われます。プロジェクト期間(10日間)は、すべての失敗を記録し、カタログとしてまとめることが求められます。

プロジェクトのはじめに、ナンセンスな言葉が書いてあるカードが各チームに配られます。そのキーワードを起点に、チームでアイディエーション→実験→アイディエーション→実験→...とひたすらに続けていきます。その中で何かしら面白い発見があったら、そこからプロトタイピングの開始です。

初期フェーズの実験は、自分たちが何をやりたいのかを模索するために実験をするので、明確な目的がないことが殆どです。失敗の数は多ければ多い方が良しとされるため、意味のわからない実験が沢山行われます。その中から、自分たちなりのインサイトを見つけ、それをもとに最終アイディアを固め、プロトタイピングを行います。

例えば、私たちのチームは、『Paper Bicycle』というカードから、実際に紙で自転車つくってみたり、普通の自転車に乗ったりする中で「身体感覚はどの程度拡張することができるのか」という問いを立てるろころから始まりました。さらに「五感はコミュニケーションの手段になりうるか」と問いを進化させ、様々な実験の結果「強い味覚は、味の好みにかかわらず、意外と同じような感情を与える」ことを発見し、最終的には『味覚で伝えるラブレター』をつくりました。

モジュール期間は、カオスを彷徨い続けることの意味がわからず混乱しましたが、振り返ってみると、目的が不明な実験から何かが生まれうることに気づけた良いモジュールだったなぁと思います。

(2) 全校がごちゃまぜになる AcrossRCA

毎年1週間設けられているAcrossRCA 期間は、全プログラムの垣根を超え、それぞれ希望の短期ワークショップに参加します (抽選落ちも多数発生します) 。私の場合、One tool for a stool というワークショップに参加しました。このワークショップの参加者も、油絵、ジュエリー、ファッション、デザインプロダクト、テクスタイルと多岐にわたりました。

まず、ツールを選ぶところから始まります。私は、食堂のフォークを選びました。5日間のうちの最初の2日間は、そのツールの新しい使い方を考えたり、そのツールがdisguiseできるようなシナリオをひたすら探します。例えば「ゴム手袋」をツールに選んだJiaobao Zhangは、冷蔵庫の中のハムとしてゴム手袋を生かしていました。

3日目・4日目の2日間で、スツールをつくります。条件は、ツールはひとつしか使ってはいけないこと。そして、マテリアルもひとつしか使ってはいけないこと。

私はまず巨大なフォークを作って、フェルトをパスタのように巻き巻きすることでパスタチェアというものをつくりました (制作の途中で寝落ちするくらいにフカフカ気持ちの良いパスタでした)。Kathleen Reillyは、鏡をツールに、「あなたのイスは私のもの」というウィットのきいたイスを作りました。かぎ針をツールに選んだCarley Mullaly は、延長コードを編みこんだアンコウのようなイスをつくっていました。

このモジュールは、IDEとは異なり、自分の妄想の世界に存分に浸ることができたので非常に開放的で心地が良かったですし、パーティが苦手な私にとっては、他の学科の子たちと仲良くなれる良い機会となりました。

(3) 電子工作をマスターするためのGIZMO

IDEの誰もが愛するGIZMOモジュールは、無意味な何かをつくります。私の年は、無意味な楽器を作るというテーマでした。前年度は、ゲームを作るという内容でした。GIZMOのIDEとしての目的は、電子工作をマスターすることにあります。3週間半で、4人1組で行いました。

GIZMOの場合、楽器であれば何でもOKです。ユーザーのことを考えることなく、自分たちがイケてると思うものをつくります。私たちのチームは、傘をつかった楽器をつくるべく、広がったり閉じたりする仕組みのリサーチをするところから始まりました。結果、こんなお花のようなGIZMOをつくりました (全長155cmくらいあります)。ミモザのように、触れるとシュッとしぼみます。

あれ、楽器じゃなくないか、、、?と思われる方もいるかもしれませんが、IDEにおいて、結果的に人を驚かせるくらいに良いものを生み出せたのなら、ルールは無視して良いものとされています。2017年までIDEの学科長を勤めていたMiles Pennington先生が明言していました。自分たちが良いと信じるものを追求することが良しとされるのは非常にIDEらしいです。

(4) クラス全員で海外研修を行うGoGlobal

GoGlobalは、毎年クラス全員で様々な国へ行き、それぞれのテーマに従ってチームでコンセプトを提案します。私の年はチリでした。日本が研修地だったときは、未来の食がテーマだったそうです。

ただし、この研修に参加するためには1,000ポンドを支払わなくてはいけません。私の場合、ロンドンでのアルバイトを休み、かつ、1,000ポンドを支払うことが金銭的に無理だったので、参加できませんでした。なのでGoGlobalに関しては割愛します、すみません。苦笑

(5) 思い思いにイスを作るSuperform

Superformは、GIZMOと並びIDEの伝統的なモジュールのひとつで、ひとりずつ、4週間かけてそれぞれイスをつくります。「CADモデリングを使わない」というルールさえ守れば、どんなイスをつくっても構いません。プログラムとしての目的は、マテリアルの扱いを理解することやその他工作を行う機械の操作に慣れることにあります。

このモジュールは、最初から最後までクラスメイトの性格や興味があからさまに出るので非常に面白いです。Carolyn Tamはバクテリアをつかったキャスティングの可能性を探り始め、Andy Carreraは砂糖での成形に執着し始め...と、スタジオ全体がまさにカオスになります。

私はと言うと、「時計がイスで、イスが時計で」というアイディアに執着し、実際にワークするものをつくるべく、シャフトやボールベアリングを始め大量のCADモデリング・3Dプリントを重ねました。またしてもルールは完全無視...。最後まで結局イスを動かすことができませんでしたが、いつかチャンスがあれば必ず実現したい大好きなプロジェクトです。

余談ですが、このイスを壁に取り付ける際、講師に大きな穴を開けても良いかを聞いたのですが、そのときの言葉が印象的でした。'There're things you shouldn't ask beforehand (ウィンク). ' とってもRCAっぽい。

(6) I'll Take 9

I'll Take 9 は、3週間のモジュールで、最終的にプロトタイプを9つつくることが求められます。1週目はアイディエーション、2週目はプロトタイピング、3週目は大量生産です。ただし、各週の最後には他のチームと成果物がシャッフルされます。つまり、1週目にチームAでつくったアイディアは2週目にはチームBのアイディアに、2週目にチームFがつくったプロトタイプをもとにチームAが大量生産する、といった具合です。ただし、受け取ったアイディアが気に入らない場合、自分たちのチームで筋が通るように解釈・改善を加えて良いというルールです。

I'll Take 9は、かなり負荷の大きいモジュールです。1週目2週目、自分たちがつくる必要ないので、かなりテキトーなアイディアがまわるからか、本当にカオスでした。3週目には最後には予想もしなかった良いプロダクトが沢山生まれました。自分たちが練ったアイディアが良い方向に解釈されたのが見れて、最後はとても嬉しかったのを覚えています。

また、最後の1週間で「9つ同じものをつくる」ことで、どうやったらラクに生産できるかについても考えることができ、良い勉強になりました。

参考に、私たちのチームはこのような変遷で3週間を終えました。1週目は「Nerfの製氷機」という課題から、「ロケット型のアイスクリーム製造機(ロケットを投げて遊ぶとアイスクリームができる)」というアイディアを作りました。2週目は、「Dr.Martinのなべ置き」から派生した「コーヒーを置けるiPhoneケース」というアイディアをもらい、皮工作のときに大量に発生する皮のパウダーでiPhoneケースのプロトタイプを作りました。3週目は、「Beats by Dreのソープディスペンサー」から派生した「持ち運び可能な靴磨き」のプロトタイプをもらい、最終的に「持ち運び可能なビデ」を作りました。9つ。

(7) Solo

4週間のSoloプロジェクト期間は、課題の設定からエクセキューションまで自分で行うことが求められます。そのため、テーマは多岐にわたります。私はこの期間に、PLAYFOOL Workshopの原型をつくりました。その他、ペットボトルをつかったコンクリートの増強に取り組んでるひとがいたり、大人の「死」を子供にコミュニケートするための介入を模索しているひとがいたり、扱うテーマが本当に幅広いです。

テーマが点でバラバラなため、プロジェクト期間は30人くらいいる講師・外部講師の中から、生徒それぞれ「使えそうな講師・相性の良い講師」を選んでチュートリアルを自らキュレートします。ひとりひとり、講師も、講師の組み合わせも異なるからこそ、このアウトプットの多様性が守られるのかもしれません

(8) インペリアル大学のラボと進めるXY

XYは、クラスのモチベーションが上がらないモジュールです。なぜかと言うと、XYの前に期末試験が終わっており、成績に入りません。また、XYは修士論文の提出直前なので、私の年は少なくとも、片手間でプロジェクトを進めるひとが大半を占めました。

このモジュールでは、インペリアル大学のラボと共同で、ラボが扱う研究テーマの未来のアプリケーションをデザインし、コンセプト動画をつくります。ナノマテリアルやバイオテクノロジー、ロボット研究のラボと一緒にプロジェクトを行うことができます。

私たちのチームは、ナノマテリアルを扱うラボと協力し、少ない量の砂糖でもより甘みを感じることができるナノ砂糖を提案しました。ナノ砂糖は通常の砂糖よりもカクカクとデザインすることで、甘みをより感じやすいという提案です。

(9) RCAのDissertation

RCAにも修士論文、Dissertationは存在します。が、2年目の最後ではなく、1年生の最後に提出します。Dissertationは真面目に取り組むひとと取り組まないひととに完全に二極化します。

私は真面目に取り組んだ方で、遊びとイノベーションとの関係性についてリサーチをしました。印象に残っているのは、指導教官に「Playfulnessを扱っているなら、装丁もPlayfulにしなきゃね。装丁のリファレンスみせて。」と指摘されたことです。

ワードで文章つくるだけじゃダメなんだ...そっか、私はもう法学部にはいないんだった、、、と思った瞬間No.1な出来事でした。

まとめ

以上9つが、ダイジェスト版でしたが、IDEの1年目の内容です。このブートキャンプのような1年を終えると、当然ですが手を動かすのが早くなりますし、3週間あれば、どんな課題であっても、精度の高いプロトタイプまでつくることができるという自信にもつながります。

ワークショップをつくる方々やRCAのIDEへの進学を考えている方々の役に立てれば幸いです。

今回紹介するモジュール一覧
(1) Elastic Octopus | 失敗に慣れる
(2) Across RCA ( One tool for a stool ) | 学科の垣根を超えた創作週間
(3) GIZMO | 電子工作に触れる
(4) GoGlobal | 海外研修
(5) Superform | マテリアルを理解する
(6) I'll take 9 | 大量生産に挑戦する
(7) Solo Project | ひとりでゼロからプロジェクトをつくる
(8) XY | 最新テクノロジーと未来のデザイン
(9) Dissertation | 修士論文

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コメント2件

初めまして。RCAのIDEの受験準備中の瀬川と申します。
IDE卒の井川さんからこのnoteをご紹介頂いたのですが、とても詳しく書いて頂き、IDEへの意欲が高まりました!
ありがとう御座います^^
丸山さん
初めまして!文系大学4年の南というものです。
留学準備中です。
参考に、受験の際、丸山さんがどのようなポートフォリオを提出されてか、
どのようなテーマでポートフォリオを作られたか教えていただけますでしょうか?
デザイナーとしてはほぼ未経験でして、色々なバックグラウンドでもいいと言われているRCAのような大学院に出すポートフォリオにはどんなものをだしていくのがいいのかがイメージしにくく。
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