老犬とわたし。

歳と出来事が結びつかないわたし。
ひとだって、上だったか下だったかくらいしか覚えてられない。時々、それすら怪しい。
年齢はただの数字。
ただのイイワケかもしれないけど。

オスだと聞いてもらった子はメスで、あっという間に元からいたオスとのこどもを作っていた。
そのこどもっていうのが、いまはすっかりおばあちゃんになった子で。
生まれた時のことは覚えている。
もうすっかりおばあちゃんになったこともわかる。
それが何年のことだったかがあやふやなだけで。

とにかく、おばあちゃんになった。
ふかふかの毛に覆われてるから、ひとみたいにわかりやすくなんてないけど、耳も目も他にもいろんなとこが弱ってきてる。

その子のおかあさんだった子は、暑い日が続く頃紙のように軽くなって旅立った。
大人しくて賢いところがあったその子は最期の夜に聞いたこともない声で叫んだ。引き留められるようにずっと撫でて夜を過ごしたけれどそうなると思うのは、もっとたくさんの時間を過ごせばよかったということ。

そんなことをよく思い出させる夏である。
おかあさんだった子とは違い、帰ってくると大はしゃぎでべろべろべろと舐めてくる。
それが滅法苦手だったのだけれど、近頃は嬉しそうな顔が見たくて好きにさせている。

名前を呼んだら遠くからでも飛び込んで来たけれど、最近は気が付かないことも多い。
散歩をしていても呼びかけたら嬉しそうな顔を見せてくれていた。そういうこともない。

でも、歩く背中に向かって何度も呼びかける。
振り向いて欲しいからではない。
ただただ空気に愛を刻みたいのだ。
ただただ名前を呼べる喜びを満たしたいのだ。

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