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防じぃたちが切り開く未来

東京事務所の小倉です。書き手がいよいよ一巡しました。それぞれのスタッフの意外なこだわりや個性的な視点が垣間見られて、内輪ですが、僕自身が一番楽しんでいるかもしれません。

では本題を。ネタ被りのないテーマということで、今回はストレートに、お仕事の話をしたいと思います。でもここでするのはあんまり表に出すことのない話。プロジェクトを通して、僕自身が学んだり考えたりしたことについて語ってみたいと思います。

今回紹介するのは僕が大好きな「防じぃ」たち。名前の通り、地域で情熱をもって防災活動をおこなっているおじいちゃんたちのことです(心当たりのある皆さま、愛情を込めて、「防じぃ」と呼ばせていただきます。「俺はまだ若ぇんだから、じぃとか呼ばれたくないね」とか言わずにお付き合いください。)

「埼玉イツモ防災」というプロジェクトがあります。このプロジェクトは、埼玉県と行っているもので、埼玉県民が防災を“当たり前のこと”として取り入れてもらえるよう、様々なツールや場づくりをしながら県下全土に防災を広げていくキャンペーンです。

[埼玉県イツモ防災事業ホームページ]
http://www.pref.saitama.lg.jp/a0401/itsumobo-sai.html

表向きには、防災マニュアルなどのツール整備(ホームページから無料でダウンロードできます)や、講座や防災イベントを県や市町村主導で実施することで家庭での備えを浸透させていく、という内容なのですが、このプロジェクトのあまり表には出していない最大の特徴は、担い手づくりを一緒に行っているということです。具体的には、ツールを活用した講座やイベントを実施できるインストラクターを育てています。

地域住民から一番近い存在である市町村職員や自主防災組織のリーダーが分かりやすく効果的な防災の伝え方を身に付ければ、僕たちのような専門家が伝えるのとは別の効果が生まれるのではないか、そう考えました。自分が信頼している人から、「これ備えた方がいいよ」と言われて防災グッズを勧められた方が、実際に買う気持ちになったりしませんか?地域の身近な方々が担い手(講師)になることで、防災マニュアルを配ったり防災講座を実施するだけではなかなか実現できなかった、“参加者が実際に備えるところまでいく”ということを本気で目指した取り組みです。

このプロジェクト、元々は埼玉県下の市町村の職員の皆さんを主軸に据えて展開する予定でしたが、思わぬ反響がありました。それは、地域の自主防災組織からスペシャルな“防じぃ”たちが次々と生まれたということです。

例えば、僕たちが使っている家具転倒防止の模型を自分で作ってしまった防じぃ。そのまま模倣するのではなく、自分なりのこだわりポイントを入れて、更にいいものを作るところがとても素敵だと思いませんか。下の写真、僕たちが使っている模型は床が絨毯敷きになっているのですが、“絨毯敷きではなくフローリングの部屋の方が一般的だろう!”ということで、床が本物のフローリングの素材でできています。このまま模型を揺らすと、家具が横滑りをし壁から離れ支えを失う形になり、すぐに倒れてしまいます。家具が滑り出ないようにするストッパー式器具やマット式器具の効果が率直に分かる優れた教材です。

他にも、自分が住んでいる街の町会主催の講座から始まり、今や他の市町村にまで出張して講座を実施するところまで活動を広げた防じぃ。県の事業には飽き足らず、プラス・アーツの他のイベントもお手伝いしてくれるようになった防じぃ。自分でイツモ防災を伝える団体を立ち上げ、毎週末メンバーと各町会を回って講座を展開している防じぃなど、スペシャルな防じぃたちがたくさん生まれ、かなりの広がりを見せています。

防じぃの皆さんに共通して見られるのは、「工夫する」ということです。一見すると実現が難しそうなことでも、たくましく工夫しながら活動を広げていく姿を見て、こちらもたくさん刺激をもらっています。

この「工夫する力」というのは、災害時に必要なスキルで、予想外のことが次々と起こる中、色々な局面を乗り越えるのに役立つ力なのではないかと思っています。例えば、先ほど紹介した「工作防じぃ」は、災害時に足りないものがあれば、そのへんのもので何でも作ってしまうでしょうし、団体を立ち上げ段取り良く人員を配置し地域で講座を展開している姿を見ていると、この人に避難所運営を託せば、指揮系統が確立された素晴らしい避難所が実現するかもしれないな、と思いワクワクしたりします。

また、僕なりに分析してみると、この「工夫する力」というのは、防じぃたちの人生経験から来ているもののように思います。様々な経験を通して蓄積された知識や技の引き出しを、応用したり工夫したりする際に活用しているのではないかと思います。もしそうだとすると、若い人にはない幅広い引き出しを持つ高齢者こそが、これから来る大災害を乗り越えるキーパーソンになり得るのではないかとさえ思ったりします。

東日本大震災の後、東北でこんな話を聞いたことがあります。ある若いママから伺った話です。東日本大震災を経験した時、電気・ガス・水道が使えないあまりにも不便な生活に途方に暮れてしまい、前向きな気持ちになれなくなった時、おばあちゃんがこう言って勇気づけてくれたそうです。「私が若かったころなんて、しょっちゅう電気や水が止まってたわよ。だから電気や水が止まったくらいは大したことではない。だから、そんなことでくよくよしないで、ちゃんと生きることを考えなさい」と。そのママは、その言葉でとても勇気づけられたそうです。また、同時に、「自分たちはそんな経験をしてきていないので、自分がおばあちゃんになった時、あんな風に子どもを勇気づけることができないかもしれない。でもあのおばあちゃんのように、子どもを不安にさせない豊かな大人になりたい」とおっしゃっていました。

これから来る大災害の際に日本を救うのは、ここで紹介したような、たくましくて柔軟な高齢者の皆さんかもしれない。
本気でそう思います。

高齢者防災の問題はそんなに簡単なものではなく、まだまだクリアすべきハードルも多い状況ですが、“守る側の高齢者”にスポットを当てるということも、ひとつのアイデアになるのではないかと考えました。今回の記事が、高齢化問題に立ち向かおうとしている皆さんのヒントになればと思います。

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