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脳みそプルン (106)

 この頃脳の衰えを感じる、と書き始めて気がついた。そもそも衰えるを感じるほど元々優れてねえ、と。つまりは「昔に比べて記憶力が落ちちゃったよ」なんて台詞を吐く前に、そもそも昔から記憶力が良い方ではなかったと、自ら気が付いたのである。短期記憶は強い方ではあると思う。根拠は高校のテスト勉強を全て一夜漬けで済ませてきた実績があるからだ。しかし長期記憶に関しては壊滅的である。一度観た映画や読んだ小説など、数ヶ月経つと丸っ切り忘れてしまう。それだけなら良いが、日常生活においても掟上今日子のごとくほとんどのことを忘れてしまうのだ。この忘却癖みたいなものが、外食において猛威を振るう。過去に入った定食屋やラーメン屋などで、以前どれを頼んで美味しいと感じたか得をしたか、またどれを頼んで後悔したかを記憶出来ていないので、同じ失敗(ラーメンの方が美味しい店なのにつけ麺を選んだり、またその逆だったり)を二度してしまうことがあるのだ。なんてことないと思うかもしれないが、筆者は食事を大事にするタイプの人間なので、外食で失敗をするのは軽めの不快を感じるのだ。食事くらい良いじゃないかと、共感出来ない方もいらっしゃるのも理解はしている。もっと怖いのは発した言葉を忘れることである。

 発した言葉を忘れる、これは実はあるあるである。あるあるであると書くとあるが多いとなぁと思うのであるが、あるあるなのである。友人や上司との会話で、”この話前にも聞いた”と思うことはないだろうか。程度の差はあるが、みな体験しているはずだ。そんな時聞き手は「へーそうなんだ(そーなんですね)」と相槌をうつが心理は、”ああこの話は前に聞いたことあるな”であり、もっと言うと”この話聞いたことあるな、このまま聞いてたらもしかしたら前に話したことあるってこの人気付くかな”であり、ともすると”あれ、この話前に聞いたな、覚えてないのかな、まあ話してるうちに気付くかな、ああ気付かないうちに話終わったな、ああこの人も年をとったなぁ”となる。
 これらは年齢を重ねると必ずあるあるあるなのだが、筆者は年齢以前に若い頃からこういう傾向がある。従ってもしそのようなシチュエーションでも”ああこの人も年をとったな”と思われるのは心外である。その場合”ああこの人相変わらず忘れる人ね掟上今日子なのね”と思ってもらいたい。そして”その話前に聞いたよ”と教えてもらいたい。

 しかし実際そう教えてもらいたい人は世の中にどのくらいいるのだろう。気付かずにそのまま同じ話をしていた方が、幾分幸せかもしれない。おそらくこれを読んでいる読者の方も、この事象を経験していると思うが、どちらを選ぶかはあなた次第なのだ。気付かずそのままか、指摘をしてもらいたいのか。脳が衰えたと思われたくないならば、指摘をしてもらうように振る舞わなければいけない。しかしその際、”この話前にしたっけ?”や”ああこの話も前にした?”や”あああこれ前に話したかな?”などと過剰に聞いてはいけない。あまりしつこいと逆に脳が衰えたと思われるかもしれない。

この連載は±3落語会事務局のウェブサイトにて掲載されているものです。 https://pm3rakugo.jimdofree.com