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悲哀(115)



  悲しいと哀しいはどちらもかなしい。前者の漢字はヒ、後者の漢字はアイと読む。どちらの意味も”かなしい“なのだから分ける必要はないと思うが、調べてみるとニュアンスに違いがあるようだ。”悲しい”は泣きたくなるような気持ちで、”哀しい”は胸が詰まるような気持ちだそうだ。一瞬なるほどとは感じたが即座に思い直した。胸が詰まって泣いちゃう場合もあるし、泣きたくなるのを抑えて胸が詰まることもあるのではないだろうか。となると言葉の解釈とはその瞬間を表すものなのだろう。つまり状況によっては”悲しい”から”哀しい”に気持ちが動く場合もあるし、逆もまたしかりなのだ。そう思うとほんの一瞬の感情を、音を変えずに字を変えることで表現する日本語というのは、凄く繊細な言語だと感心せざるをえない。

スマホが水没した。酔っ払って池に落とした訳でもなく、お風呂で使って水に沈めたわけでもない。布団カバーと一緒に洗濯機に入れてしまったのだ。気がついた時にはもうどうしようもなかった。布団カバーに包まれ洗濯槽をぐるぐると回っていた。すぐ取り出して洗濯洗剤を洗い流しSIMカードを抜いて、以前使用していたスマホに移し替え、ネットで”スマホ 洗濯 水没”で検索し対策を探した。どうやら電源を入れたり充電をしたりしてはいけないと書いてあったのでその通りにした。複数調べた結果とにかく乾燥させるのが一番だそうで、今度はスマホを乾燥させる方法を探し、お米の中に入れるもしくはシリカゲルを使うの二つの方法があるとわかった。とはいえお米の中に入れるのはお米に悪い。米一粒には七人の神様がいる。因みに余談だがどんな神様かというと、太陽・雲・風・水・土・人・虫だそうだ。ともかくそんな罰当たりなことは出来ない。すぐに100円均一でシリカゲルを購入し、スマホと一緒にジップロックに入れた。このまま24時間放置とのことだが、筆者は慎重な性格なので倍の48時間プラス半日で、60時間放置することにした。結果どうなったか。悲しいことに、スマホは動かなかった。充電ケーブルを挿しても何の反応もない。ただもの哀しげに真っ黒な画面を見せているだけだったのだ。正に悲劇である。iPhoneなのでAppleのサポートで問い合わせしたところ、修理代金は約50000円ほどかかるらしい。それはいくら何でも払いたくない。何故なら筆者のスマホはとても古い型のiPhoneで、50000円で直すくらいなら新しい機種を買った方が後々考えると結果安くつくはずだからだ。ならばと近所のスマホ修理屋さんに持っていったところ、部品取り替えたり色々試して合計2万5千くらいで、必ず直ると約束出来ないとのこと。実に哀れである。

誰かが言っていた。悲しみの果てに何があるかなんて俺は知らない見たこともない、と。

とにかくあの素晴らしいスマホはもう二度と元に戻らない。悲しくて悲しくてとてもやりきれない。今回の煮込む日々、悲しみや哀しみを明るく笑い飛ばすのが落語家の仕事であるが、たまには共有してもらいたいと思い正直に書いてみた。どうかご了承願いたい。おろろん。

この連載は±3落語会事務局のウェブサイトにて掲載されているものです。 https://pm3rakugo.jimdofree.com