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みかん (111)

みかんを食べると、親指の爪が黄色くなる。これはみかんを剥く時に、親指の爪をみかんの皮に刺したことによる副産物のようなものである。とここまで書いてみたものの、ネットで改めて調べてみると、どうやらみかんの剥き方は人それぞれ違うらしく、様々な剥き方があるようだ。筆者はみかんのヘタではなくヘタの反対から指を刺す形式で剥いているが、このヘタの反対側のことを”果頂部”というそうだ。みかんのお尻のような印象を受けるが、こちらが本来は頭なのだ。何故に尻が頂なのかを簡単に説明する。ヘタの方が枝にくっついている訳だから、実のつけ始めとなるとお尻の方が天を向く形になる、つまりヘタの反対が頭なのだ。段々と実が大きくなると重みで垂れ下がり果頂部、つまり頭が下になる。お辞儀みかんとも言われ、丁寧にお辞儀が出来ると、美味しいみかんになるのである。これは果物全般に言えることだが、落語もみかんもお辞儀は大事なのだ。

みかんの剥き方はそれぞれである。果頂部から剥く人(果頂派)もいればヘタから剥く(ヘタ派)の人もいる。果頂派からするとヘタからどう剥くのだろうと疑問に思うだろし、逆もまた然りである。しかしこれらはまだ一般的で、調べてみる多種多様な剥き方があるとわかった。有名なのが”和歌山剥き(有田剥き)”である。果頂部に指を入れ皮ごと半分に割る(この時ヘタにくっついたまま)。さらに同じ要領で半分ずつ割り四等分にする。これが和歌山剥きである。この剥き方のメリットは、皮ごと四等分されたみかんをそのまま口に持っていくことにより、中の実に手をあまり触れずにみかんを食べられるという点である。たまに見かける珍しい剥き方の一つではあり、やっている人を見ると少し感心してしまうことがある。他にも色んな剥き方がある。

ゾウさん剥き…ヘタから果頂部まで一周方向に剥き少し残して、左右を開くとゾウさんの鼻と耳のようになる。

みかんフラワー…果頂部を下にしてそこを中心に切り込みを入れお皿のようにして、それ以外を綺麗に剥く。果肉部分が底から離れないように一房ずつ離していくと、花が咲いたようになる。

ドミノ剥き…ヘタの部分を中心に円状に切り込みを入れて剥き、反対の果頂部も同じように円状に切り込みを入れて剥く。残った胴体部分の皮に一箇所だけ切れ目を入れて開き、一房ずつ離せば、ドミノのようにみかんが横並びになる。

どうだろう。少し世界が広がった気はしないだろうか。きっと今まで当たり前のように正しいと思っていたものが、別に正しい訳ではなくそういうやり方だっただけで、他にも色んな世界があるのだと、目の前が明るくなったことだろう。みかんの剥き方一つでこんなに違うのだから、世の中はもっともっと複雑なのだろう。いつものやり方を否定はしないがしかし、たまには違う剥き方も良いのかもしれない。ただ一つ言えることは、どんな剥き方をしようと、指の爪は黄色くなるということだ。

この連載は±3落語会事務局のウェブサイトにて掲載されているものです。 https://pm3rakugo.jimdofree.com