かわせみ亭コラム#5

日本人の性格特徴を形づくったもの その① 明るく陽気だった日本人
 ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)はその著書『日本』のなかで明治初期の日本人の様子について次のように語っている。「かれら(日本人)はどんな事情の下にあっても、うわべの快活さだけはけっして失われない。また、どんな難儀なことがあっても――暴風、火事、洪水、地震のようなものがおこっても、高笑いで挨拶をかわし、明るい笑顔で丁寧にお辞儀をしあい、心から慰問しあい、お互い同志相手を喜ばしたいという願いが、いつもこの世を美しいものにしている。」 (小泉八雲著、『日本』p181[死者の支配])
 なぜ個人の命をも犠牲にさせるほどの鉄の律則とも呼ばれる厳しい法律や不文律の下にあっても、日本の庶民は明るく陽気で、自分たちの人生を美しいものと見ることができたのであろうか。
 日本列島は、四方を豊かな海に囲まれ、また温暖湿潤な気候の下に緑なす美しい山々と清冽で豊富な水と肥沃な盆地に恵まれている。これらの、世界にもまれな自然環境の中にあって、それらがもたらす豊富な海山のめぐみは、日本人に生きる力を継続的に与えてきた。これらの美しくかつ豊かなめぐみは、日本人において、明るく楽天的で美を愛好する精神を育んできたといえる。
 また、その一方で鉄の律則ともいわれる日本社会の行動規範の下で、個人を空しくし、それに従順に従うような性格特徴はどのようにして形成されてきたのであろうか。

 日本人の性格特徴を形づくったもの その② 繰り返し襲いかかる厄災に鍛えられた日本人
 毎年襲い来る台風、しばしば襲い来る地震、津波や飢饉疫病は、自然界はめぐみをもたらす反面、致命的な打撃も与えるものであるということを日本人に学ばせてきた。これらの苛酷な転変地異は、膨大な人的犠牲を生み出し、天然自然界は人智の及ばない強大な力をもっているということを日本人の精神の深いところに焼き付けていった。この天然自然に対する圧倒的な畏怖が日本人において現在、神道と呼ばれている宗教の原点になったのであろう。
 自然がもたらす豊かなめぐみと苛酷な災害が交互に繰り返されることによって、日本人の精神、信仰および行動規範が徐々に作り上げられてきたものであろう。繰り返される自然の恵みと苛酷な災害は、個人および共同体を鍛え上げ、進化させる役割を果たした。
 それはまさに日本刀の作刀工程と同じことが行われたことと似てはいないだろうか。「鍛錬」とは、日本刀の作刀工程の一つであるが、材料である熱した鋼を何度も折り返して鍛えること、すなわち鉄の結晶を微細化し、結晶の方向を整えることで、鋼に粘りをもたせ、強度を増し、不純物をたたき出し、炭素量を平均化する作業である。 また「焼入れ」は高熱の刀身を水で急冷することによって刃先の鉄の成分を最も硬度の高い状態に変質させるものである。ただし、この鍛錬も焼入れも度を過ぎると刀を折ってしまうということに留意すべきである。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?