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「若い力を集めてイノベーションの邪魔を取り除こう!」 BIG PICTURE BOARD 安田 洋祐

現職について

現在は、大阪大学大学院経済学研究科にて准教授をしています。

その傍らで、メディアにコメンテーターとして出演したり、講演会に登壇したり、政府での委員活動に取り組んだりしています。

なぜアカデミアという立場でありながら、トライセクターで活動しているのかというと、元々個人的にいろんな領域で話や仕事をするのが好きだったということもありますが、学者や研究者といった業界仲間の意識を変えたいという思いがあったからです。

安田が考える “イノベーションと政策における課題”

アカデミアに対して思う課題

ざっくり分けて大学の人間は二つに分けることができます。

硬派で根強く残るカルチャーを大学の中で守る人たち。いわゆる「象牙の塔」の住人ですね。もう一方は、専門家という肩書きを使って大学の外で情報発信をしている人たち。

どちらが良いとか悪いとかではないのですが、双方に課題があるのではないかと考えます。

大学の中だけで論文を書いたり、研究をし続けたりしていると、どうしても“本当はどのようなことが求められているのか?” という、世間からの視線を把握しづらくなります。

実は、“専門家にアカデミックな知見を発信して欲しい” というニーズがあるのにも関わらず、そう言った声が当の専門家になかなか届かない。また、研究者として優秀な人ほど忙しいので、そういったアウトリーチ活動に時間を割くことが難しいという現状もあります。

何が問題なのかというと、彼らの代わりを担っているのが、研究業績があまり無く、専門家として信頼できるのか怪しい人たちであるケースが少なくない、ということ…。とは言え、肩書は一流大学の教授や、有名な研究所の研究員なので、同じ分野の専門家でない限り、その専門性はなかなか判断できないでしょう。結果的に、世の中に正しい情報・知見がなかなか広まっていきません。

世間からのニーズにきちんと応えていない専門家も、専門性が低いにも関わらずあたかも立派な「専門家」のふりをして情報発信してしまう人たちも、どちらにも責任があるのではないかと思います。もちろん、専門性をきちんと見抜けない(あるいは専門性の無さを見抜いていても確信犯的に使ってしまう)メディアにも問題はあるでしょう。

こうしたギャップを誰かが埋めなければならないと気付き、自分のように、ある程度研究実績があって、メディア露出にあまり抵抗が無いような研究者が、目立つ形で発信をすれば、何かしらの形で状況を変えられるのではないかと考え、今に至ります。

アカデミアから自分のような人を送り出していきたいー。

例えば、その不幸なミスマッチの解決手段として、一人一人の「得意なこと」を融合をしていくのが良いのではないかと僕は思います。

学者や研究者と一括りに言っても、口で伝えるのが上手い人ばかりではなく、人前で話すのは苦手だけど文章がうまい、プロジェクトを手伝うことやデータ分析が得意、といった具合にいろんなタイプの人がいます。

こうした多様な学者たちの適材適所を見出して、「ここのポイントならできる」と “言える土壌” を作り、それぞれから研究以外の時間を少しずつ提供してもらう。個々の学者ができることは限定的ですが、こうしたプラットフォームやネットワークが生まれれば、それを目掛けてメディア大学の外の組織もアクセスすることができます。

実際にメディアや政府の方とお話しすると、こうした研究者ネットワークへのパイプ役を必要としているように感じます。アカデミアから、自分のような“繋ぐ”研究者を、もっと送り出していきたいですね。

PMIに賛同した理由

上の人が聞いてくれれば組織が変わる

今までお話ししたような背景があったので、「そのプラットフォームとしての役割をPMIなら担えるかもしれない」と思い、賛同しました。

また、あえて若手世代で区切ることで、表面的な肩書を見るのではなくて、“中身が伝わらなければ・行動が伴わなければこの場には呼ばれない” という体制や、活動内容を世の中を拡散させることができるメンバーが揃っていることにも、とても興味を感じました。

たしかに、どの世代にも「社会を良くしたい」と考える人はいますし、上の世代にも優れた人はたくさんいます。

しかし、世代が上になればなるほど果たしてそれが優れた意見なのか、単に肩書きなのか、判別が難しくなりがちなのも事実です。自分の部下の意見を素直に聞き入れることが出来ず、上司が黙殺してしまっているようなケースも少なくはありません。

そういう時こそ、上手く外部を使って欲しいと思うんですよね。

実際に、研究会やシンポジウムなどで僕が挙げた提案について、「安田先生が言ってました」と一言添えることで、同じ内容を自分たちだけで伝えても響かなかった上司が急に聞く気になった、といった事例が何件かありました。政府の審議会でも、外部委員の僕が空気を読まずに何気なく漏らした感想が、若手官僚を中心に共感を呼んで、会議の運営方法がすぐに変わったという実例もあります。

組織内で権限を持っている上の人が聞いてくれれば、経営が変わる、政策が変わる、そして組織自体が変わっていく…。こうしたチェンジをもたらすきっかけとして、上の人たちを聞く気にさせるような外部の声はとても重要だと思います。

このように、PMIを、他省庁・弁護士・学者が「こういう面白いこと言ってました」と、外圧的な感じで使ってもらえると、良い政策に繋がるかもしれないですよね。

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PMIに期待すること

どうしても“所属する組織に対して” プラスかマイナスか判断しがちに

一般的に日本の官僚は優秀で、熱い想いを持っている方ばかりです。

ですが、自分の所属している省庁に関しては、少しズレた意見を持っているのではないか。そのズレが年次が上がるに連れてどんどん広がっていくのではないか、とも感じるのです。

例えば、国家財政の話でいうと、財務官僚の意見よりも、経産省や外務省の役人の方がよっぽど真っ当なことを言っている、なんていう場面も度々見受けられます。

たしかに、自分の役所が管轄する政策イシューについては、他の省庁よりも細かく色んなことを知ってます。反面、一つの職場に長くいると、知らず知らずのうちに、国のためになるかならないかではなく、“自らが所属する組織に対して” プラスかマイナスかで判断しがちになってしまう…。無意識の内に、いわゆる省益を追うようになってしまうのですね。

それは僕も同じで、アカデミアに閉じこもっている時は気付きませんが、企業で働く友人と飲んでいたりすると、突っ込まれてハッとする、なんていうこともよくあります。

自分たちだけでは気付きにくい、組織・業界の論理、縦割りの弊害といったものにお互いに気付くためにも、「見える化する場」や「役所横断的に集まって意見を言う場」は欠かせません。

PMIには、色んな役所から若手官僚が集まって来ます。気付きの場として、この前開催された #PMI政策会議 などは、本当に良いお手本だと感じました。

(PMI活動レポートより https://note.mu/pmi/n/n173b2f055e76)

テーマごとに分かれた各テーブルでは、それぞれのイシューを担当している省庁から、役人の方が一人ずつ参加。情報やエビデンスは提供するけれど、主役として議論は主導せずに、あくまで議論がしやすいようにサポートに回ります。

これはまさに理想的な体制だと思います。実は日本の多くの委員会・研究会で足りないのは「周りの人に面白い意見を言わせること」なのです。知識のある人だけが建設的な提案をできるとは限りません。彼らがうまく周りの人を巻き込むことができれば、議論の質は大きく改善するはずです。

ぜひ若い世代を中心に、こうした巻き込む体制を実現して欲しいですね。

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まずは「イノベーションを阻害する要因を抑える」ことに重きを置く

一番強調したい点は、ビジネスは放っておいても伸びるということ。

どうしても、「イノベーションを作るんだ」という能動的なスタンスで考えがちですが、実は「イノベーションを阻害する要因を抑える」というように、マイナスを避けることに重きを置く方が重要ではないかと思います。

もちろん、できるのであればプラスを生み出すことに越したことはないですし、前者はたしかにやっていて充実感はあります。

一方で、後者は一見すると地味な仕事かもしれませんが、放っておくとイノベーションを邪魔するような場当たり的な政策が出てきてしまう。民間企業でも、上司の思いつきが若手のアイデアを殺す、という状況は生じがちです。確たるエビデンスに基づかない「経験と勘」によって、イノベーションの目が摘まれてしまう不幸は避けなければいけません。

こうした潜在的な損失は目に見えないので意識されにくいのですが、「阻害要因を抑える」ことで見えないマイナスを減らしていくのが、見えるプラスを追求する以上に、中長期のイノベーション実現にとって必要とされているアプローチではないかと感じます。

そもそも、新しい政策を作って企業やビジネスを育成するという産業政策的な発想自体も筋が良くないですし、失敗するケースも少なくはありません。

最近では、日本で自動運転が進んでいないことや、GAFAなどのデジタル巨大企業への規制などが話題となっていますが、実態を精査せずに、保守的な意見に流されて、政府が過度に厳しく介入しようとしているようにも感じます。

(そこに、冒頭で話したような形だけの専門家が入ってしまうと、さらに酷い展開に…)

国の政策が良くない方向に突っ走っていきそうな時に、見方の異なる若手世代が中心に反論したり、エビデンスを持ってきたり、と踏みとどまらせることが必要です。

イノベーションに関しては、直接影響を受けるスタートアップ企業から意見を聞くというのが、PMIに特に期待される重要な役割ではないかと思います。実力のある若手のイノベーターにPMIに来てもらい、「この政策が邪魔をしているんです」という現状をざっくばらんに話してもらう。

GAFAのような巨大企業と違って、スタートアップにはロビー活動に回す自前のリソースなど無いですし、政府の審議会などに呼ばれて直接課題を訴える機会もありません。

たしかに一社一社の声は小さいかもしれませんが、分野横断的に似たような課題に直面している人達が集まれば、問題意識の共有や、具体化、さらにそれらの解決に向けたロビー活動もできるはずです。

ぜひ、PMIはそうした受け皿となるプラットフォームになって欲しいと、期待しています。

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ミレニアル世代が集まる経済圏の特徴

最後にPMIのイベントに参加した感想をひと言。といっても、まだ飲み会とカンファレンスに出ただけなのですが、実は既に結構満足しているんです(笑)

なぜなら、PMIに参画してなかったら出会えなかった、おもしろい若手や、新しいアイデアに遭遇して、自分自身の思考もバージョンアップ出来たので…。

もちろん、何か具体的なプロジェクトが残ればそれに越したことはありません。だけど、PMIがプラットフォームとして機能し始めれば、結果は後から自然とついてきます。

自分の話をうなずいて聞いてくれること。ただ勉強して賢くなって終わりではなく、「こういうことに使いたいので、相談に乗ってもらえませんか?」と“聞いた話を次に繋げたい” という発想の人と出会えること。

そうした時間が「消費/浪費」ではなく、自分が提供した知見やアイデアが、次の新しい挑戦につながる「投資」になっているんだなという、その感覚が何よりも嬉しいんです。

このつながりこそが、僕が感じるミレニアル世代が集まる経済圏の特徴でもあります。

これからもPMIでは、「アイデアの芽」「投資のタネ」みたいな話を、できる限り提供していきたいですね。そして、ここで出会った仲間たちが、将来どのように世の中を変えていくのかを一緒に見ていきたいです。

PMI BIG PICTURE BOARD
安田 洋祐

経済学者。東京大学経済学部卒業後、米国のプリンストン大学へ留学しPh.D.を取得。政策研究大学院大学助教授を経て、2014年4月から大阪大学大学院経済学研究科准教授。専門は戦略的な状況を分析するゲーム理論で、主な研究テーマは現実の市場や制度を設計するマーケットデザイン。学術研究の傍らマスメディアを通した一般向けの情報発信や、政府での委員活動にも取り組んでいる。関西テレビ「報道ランナー」、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」などにコメンテーターとして出演中。財務省「理論研修」講師、金融庁「金融審議会」専門委員などを務めた。


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