きのこ帝国 全アルバムレビュー ①序

 僕が中学生の頃大好きだったバンドの中で、最も今の趣味に影響を与えたのはきのこ帝国だ。ナンバーガールも、My Bloody Valentineも、fishmansも、きのこ帝国との出会いがなければ好きになることはなかったと思う。
 これから、時間はかかると思うけど、きのこ帝国の全アルバムレビューをしていきたいと思う。ただ今の視点からレビューするだけじゃなくて、初めて聞いた時の自分の気持ちや、それが僕に与えた影響についても語りたい。大袈裟に言えば、いわゆる自分史におけるきのこ帝国の位置を再確認するのがこれからのねらいだけど、ある意味単なる思い出話でもあるかもしれない。
 今回は意思表明と練習を兼ねて、まずこの一曲について語る。

 僕が初めて出会ったきのこ帝国の曲は、中学生、多分二年生のころにYouTubeのMVで見た「猫とアレルギー」だった。
https://youtu.be/H8z0x-i84_c

 今客観的に聞けば、なかなか普通の曲だ。でも当時の僕はひとまず。「素朴で綺麗な曲だなあ、こんなのもいいかもな」と思った。一聴して分かる通りこの曲が目指しているのはJpop的なバラードだし、それは当時の僕が毛嫌いしているものに近かった。それを食わず嫌いせずに聴いてみようというモチベーションで、このバンドの他の曲を聴いてみようと思ったのだった。結果的にきのこ帝国は、「思ってたのと違った」わけだが、今の自分を作ったのは間違いなくこの出会いだ。
 
 ここで、今の僕なりに「猫とアレルギー」という曲を評価してみたい。この曲の魅力は、結局のところ佐藤千亜妃のボーカルだ。
 この曲は佐藤千亜妃の声と歌唱を中心に据えて、その魅力を最大限引き出そうとしているように思う。そして僕が思うに、それは少なからず成功している。佐藤千亜妃というシンガーは、自分の声を単なる楽器としては捉えていないと思う。むしろ、言葉や感情を音楽に乗せるための手段として、歌に繊細なニュアンスをつけることに真摯に向き合っている。さらにこの曲においては、それが(ともすれば過剰に)ドラマチックになることを恐れていないか、その恐れを捨てていると思う。
 また、ギタリストのあーちゃんがピアノを弾いている事で、彼女が他の曲で発揮しているキャラクターがオミットされていることはこの曲にとって重要だと思う。それによってこの曲を聴く焦点が歌に集中されるからだ。
 「猫とアレルギー」はバンドとしてのきのこ帝国を象徴する曲では決してないが、ボーカリスト佐藤千亜妃の魅力を多くの人に届けることには成功したと思う。僕はそのおかげで、きのこ帝国を好きになることができた。

 ところで、僕はこの曲に時間をあけて2度出会っている。1度目はYouTubeで、2度目は日比谷野音のライブ『夏の影』の一曲目としてだった。この公演はCDの特典としてDVD化されているし、YouTubeにも違法アップロードされているのでいまでも聴くことができる。
 この曲のアウトロにあるギターソロで、佐藤千亜妃がディストーションを踏んだ瞬間を僕は忘れないと思う。音が大きかった。映像でもまあまあでかいが、あれの三倍くらい大きかった。他の楽器をかき消す、明らかに過剰な音量だった。彼女が太く歪んだ音で、シンプルなフレーズを少したどたどしく弾いている間、僕は胸の中にある黒い塊が吸い出されるような感覚になった。
 
 話は戻って中学生のころ、僕は自分のTカードを作って、家から自転車で5分のTSUTAYAに通うようになっていた。いつものようにJ-ROCKの棚を物色して、『猫とアレルギー』をカゴに入れた。ここから少しずつ、きのこ帝国のいろんな側面に触れていくことになる。

 次回のことはまだ決めていないけど、たぶん素直にリリース順にアルバムレビューをすると思う。音楽についての長文を書くのが初めてだし、曲に対するレビューと個人的なエッセイとを混ぜているので読み苦しいかもしれないが、書けたら投稿するので、気が向いたら読んで欲しい。


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