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肩こり持ちの14歳が28歳で整体師になって開業するまでの話。#7

群馬県高崎市の、とある整体サロンに採用になった後。まず最初に徹底的に教わったことは、電話の取り方でした。

予約の取り方ひとつとっても、患者さんの望んでいる日にち・時間・コース内容・担当指定の有無などなど
当たり前ですが1つも間違えてはいけません。
相手の話をちゃんと聞いて、できることならば察して。
わからなかったら、きちんとたずねて確かめること。

最初のうちは何一つ、正確にできませんでした。
1つを気にかければ1つを忘れる。
言葉遣いが疎かになる。

嫌な言い方ですが「予約を頂くこと」は生命線です。
電話の時点で、もうコミュニケーションは始まっているのです。

とにかく不安だらけでした。
そんな中でも先輩と店長、時には社長も交えて、何度も何度もロープレをしてくれました。
不思議と、できないことがあると楽しかったのです。

絶対できるようになって、早くこの人たちの役に立つんだ。
そう思うと、致命的な人見知りも乗り越えられる気がしました。
まだ施術は出来ないけれど、他に何か役に立てることがあるはず。
そう思って、電話応対以外のサロン業務の間も、先輩と店長の行動を逐一観察していました。

患者さんが来たときの動線は?
何をしゃべりながら動いてる?
タオルのさばき方は?片づけ方は?
お会計の仕方は?お釣りの渡し方は?

何を真似したらいいかわからなかったので、とにかく全部真似ることにしました。


だって、私の中には何もなかったから。

今まで働いていたのは調剤薬局です。しかもただの事務員。
接客のほとんどは、薬剤師の陰に隠れて、サポートをしていれば事足りました。
でもこれからは、自分がお店に立って、直接患者さんと相対しないといけないのです。

大大大ピンチです。

例えるなら初期装備に『ぬののふく』すらないまま、フィールドへ出てしまったようなもの。
だから、とにかく真似ました。


私が一番苦労したのが『ことば』でした。
今まで積極的に人とのコミュニケーションを避けてきた人間です。
相手の話を聞くことはできても、雑談でお天気の話をすることは出来ても、何かを説明するための『ことば』を持っていませんでした。
幸いなことに店長も先輩も、患者さんとかなりおしゃべりをする人たちだったので、たくさんの会話を盗み聞きすることができました。
常連さんとどんなことをしゃべっているのか。
新規の方がいらっしゃったときには、どんな会話をしているのか。
時には内輪ネタだったりするからよくわからないこともあったけれど、わからないことも含めて全部聞き漏らすまいと思っていました。


そんなこんなで約2週間が経ち。
いよいよ、施術の研修を受けに行く時がやってきました。
実は勤めていた会社はフランチャイズだったので、業務に関する研修はすべて関西にある本部まで行くことになっていたのです。


「関西……実は、大阪には1度行ったことがあるんです」

出発の前。新大阪行き新幹線のチケットを受け取りながら、社長と少しお話をしました。

「へぇ。旅行?」
「そうです。父の会社の社員旅行だったんですけど」

たまたま予約の隙間時間で、受付カウンターの中にいた先輩も話を聴いていました。

「……あの、ちょっと長くなるんですけどいいですか?」

「長くなるって、……まさか千夜一夜物語みたいなことじゃないよね?」

「ちがいますちがいます!!!」


社長のボケに、先輩と笑いながら私が話したのは

大人2人子ども2人の3泊4日分の荷物を全て自宅に置いてきたまま旅行をしたという

うちの家族の伝説の話でした。

社長と先輩がゲラゲラ笑ってくれました。

「いやーそれぜひ向こうに行ったときに、向こうの先生方に話してくださいww」
「そうですね。話してみます!」
「それでパワーアップして帰ってきてね」
「はい!武器を手に入れてきます!」
「武器ってwww」
「いや、だって」

だって先輩と店長には、あんなにたくさんの患者さんから信頼を得ることができる技術と人間性があるのに。

「私にも武器がないと不公平じゃないですか。」

私にも使えるスキルと『ことば』が欲しい。

この人たちと同等にお店に立ちたい。
今は何一つ満足にできることがないからこそ、全部吸収して帰ってこよう。


そう決意した翌朝。
高崎始発の新幹線に乗って、関西へ向かったのでした。

次回はそんな、はじめてだらけがたくさんのお話。

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