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展覧会の作り方 2.ージカンノハナを例にー

4. テーマ

テーマは二つの方向性から決まります。ひとつは取り上げる作家の共通する特徴を考えることから、もうひとつは、テーマの側から作家を選ぶときに見えてきます。
例をあげましょう。

例1:ジカンノハナ

●作家から

淺井裕介は、植物をモチーフとした絵を描いていました。今もそうです。泥絵だったり、マスキングプラントだったりします。
狩野哲郎は、当時、「発芽−雑草」という雑草の発芽する様子を作品にすることをしてしました。
作家の共通項は「植物」だ。ということが早くからわかりました。

●テーマから

同時に、私は「時間」について考えたいと思っていました。手前側で作家を選びながら、意識の奥底には、なんとなく、もっと深いことが考えられると思っていました。

これらを統合して、最初に出てきたキーワードは「植物が育つその瞬間を人は見ることができない」でした。ここで、初めて、人が出てきて、さらにキーワードの時間が噛んできました。かなりはっきり、これは、たぶん時間がキーワードなのだと思いました。これが企画を始めて約半年後のことでした。

もうひとつジカンノハナ以外の例をあげます。

例2:毎日(仮)

これはお蔵入りになった私の企画案なのですが、プロ以外でできる人がいたら、引き継いでほしいくらいです。プロの人は私に企画料を払えるなら、どうぞ、連絡の上ご使用下さい。

●作家から
・斎 悠記
http://saiyuhki.com/
・佐立 るり子
http://www.satachiruriko.com/
・志賀理江子
http://www.liekoshiga.com/
・樋口佳絵
https://kaehiguchi.work/

●テーマから
 「毎日」
 彼女たちは、絵を描きながら、生活を続けています。生活を続けることを大事にして、絵の中にも反映しています。毎日誰かのご飯を作ること。自分のご飯を作ること。生活を築き上げること。その中で生まれてくる「作品」という役割。そのことを考える。

私のやり方だと、作家の例が上がって、組み合わせができたところで、テーマが決まってきます。作家の作品から透けて見える底のほうにテーマが転がっていることが多いです。やり方としては、逆のやり方もあって、テーマを決めてから、作家や作品を探すこともできます。大きなテーマ「時間」などを切ると、そこからどういう方向性を持って時間を考えるのかが問われてきて、企画者を含め迷子になる可能性が高いので、サブテーマや方向性を区切って大テーマを扱うことは大事です。

この展覧会のもうひとつの美点はすべての作家が宮城県や仙台市に在住していることです。そこで見えてくる地産地消的な何かの共通項があるはずで、それは「毎日」や生活を考えるうえでもうひとつの大事な視点です。

5. 展覧会の種類

展覧会には、たくさんの種類があります。個展、一人展、二人展、グループ展、ライブ、新作展、旧作の組み合わせなど。

・一人展

一人を取り上げてやる場合は、その作家が持っている普遍的テーマとその作家が5年くらいのスパンで面している変化のテーマの両方から考える必要があります。また、その作家が、現時点の日本や世界の中でどのような発信の仕方をしていて、どのような特徴を持っているかも、ヒントになります。

キュレーターがいる場合、一人で個展をやるのとは違うので、作家のテーマを深く一緒に考えて掘ることができます。人によりますが、私は掘れば掘るほど面白いです。

ただ新作を発表するギャラリーの個展とは違うので、テーマを設定し、それについて自分も考えることで、展覧会に深みをもたらし、自分も何か得ることができる展覧会になります。

例:志賀理江子「螺旋海岸」せんだいメディアテーク、仙台 2012
淺井裕介「八百万の物語」国際芸術センター青森、青森 2012
孤高の画家 長谷川潾二郎展 宮城県美術館、仙台 2010
http://www.pref.miyagi.jp/site/mmoa/exhibition-20101023-s01-01.html

・二人展

二人展は、一番面白みが出る展覧会です。キュレーターと二人の作家がいる、三角形からなる展覧会は、バランスがとりやすく、衝突しても逃げ道があるので作りやすいです。

二人の共通点にプラスアルファとして、キュレーターの視点であるテーマを入れ込みます。テーマを共有してからは、個人個人でテーマを深めてもらいます。

例:「ジカンノハナ」 淺井裕介、狩野哲郎 2009、横浜
求道の画家 岸田劉生と椿貞雄 展 2018、宮城

・グループ展

仮に3人以上をグループ展として考えましょう。原理としては、二人展と変わらないのですが、これはちょっと力がいって、企画団体旅行のホストを務めるようなものです。複数人数でも、テーマ側、作家側から、テーマを検証し提示します。その中から、作家別にテーマを深め、それをまた集約し、方向性を確かめ、またここにフィードバックする。というプロセスの繰り返しになります。迷子の人を出さないように、疲れた人を置いていかないように、面白がっている人をできる範囲で行きたいところまで連れていくことが、ポイントになっていきます。

全員が新作だととても大変ですが、新作と旧作の組み合わせということも考えられます。

ほとんどの美術館の展覧会はこの形式で作られています。

・ライブと出来上がったものの展示、新作と旧作の違い

私はジカンノハナ展で、動くものを展示したかったので、作家に常に制作をしてもらいました。それは、展覧会としては異例の形で、それを見る人が必要なので、私も住み込みで毎日、展示を観察しました。これは、とてもライブなものを展示する方法のひとつです。

普通、展覧会を依頼する場合、やはり今までにないテーマを扱おうとするので、新しい作品を依頼することが多いです。これは、動かない作品である場合がほとんどだと思いますので、展覧会の前に作ってもらいます。これが製作費に当たります。

新作の出来はわかりません。なので、展覧会の質を守るために、旧作のある程度の質を担保しつつ、自分のテーマに沿う新作を作ってもらうというのは大事なポイントです。新作を依頼したら、時間の余裕を持ちましょう。作家に提示する時間も余裕を持ち、さらに、その新作を自分で消化する時間もスケジュールの中に入れておきます。

作家はプロですが、依頼されたことを考えるのは、新しく本を一冊書くくらいの思考を必要とする作業です。それを踏まえて、作家にどのくらいの時間が必要かを確認しながら、計画を立てます。

6. 時間軸

・作家の選定

繰り返しになりますが、まずは、誰と一緒に何をやりたいかを考えます。展覧会なのか、本を作りたいのか、メディアの検討もします。テーマとともに、作家を決めていきます。たくさんの展覧会に足を運び、情報を得て、実際に見て、会って話をして、決めます。これは、テーマを先に決める企画者もいます。

作家とは、芸術家なのでいろんな人がいます。癖のある人もたくさんいます。要点は、その人が自分と合う人なのかを見極めることです。これから最低1年は一緒にやる相手です。一緒にいて辛くないですか?得るものはありますか?意見が異なったとき、異なりつつも解決できますか?

作家と連絡を取る方法はいろいろありますが、作家の連絡先(普通はホームページがあります)がわかるなら、まずはメールを書いてみます。どういうことに共感したのか、どういうことを考えているのか、なぜ会いたいのかを書くといいです。会うときは、のちに詳しく書きますが、インタビューの形式だと深く話を聞けるし、作家にもメリットがあり、本人も考えの整理がつくので、便利です。アウトプットする媒体を確保しておきます。

ギャラリーがついている作家さんという人もいます。いずれ展覧会をやるのであれば、ギャラリーに作家本人からどの段階かでは連絡がいきます。どこにも連絡先がない場合、ギャラリーにコンタクトを取る方法があります。

作家が決まったら、まず、一緒に展覧会をやりたいことを伝えます。具体的なテーマ、いつ、どういう形式では、そのあとからでも大丈夫です。

・テーマ設定

作家の選定とともに、テーマを設定します。
最終的にぶれなければ、順番は、前後しても大丈夫。
私の場合最初に出てきた言葉は次のものでした。

〇「植物が育つその瞬間を人は見ることができない」

ここから、作家の考えではなく、自分の考えを深めていきます。
キュレーターの役割は大きく三つあります。

・テーマを深めること/考えつくすこと(作家の試合の相手として)
・作家側にテーマを深めてもらうことを補助すること(コーチとして)
・展覧会の運営(マネージャーとして)

このうち、1と2は混同されやすいですが、混同できないところです。自分の側で、どこまで深くテーマを深められるかによって、展覧会の出来は変わっていきます。展覧会が始まるまでに、テーマを深めたいです。自分の時間を取り、考えながら、文章を書きます。次に出てきたのが以下です。



〇−植物が育つその瞬間を人は見ることができない−


忙しい毎日。電車に乗るのに駆け込む時。あわてて流し込む珈琲。時間泥棒に追いかけられ、いつの間にか減っている時間。子供のころ時間を忘れて遊んだこと。のめりこんでみる映画。いつの間にか時間を忘れて没頭する。心は満たされ、時間は増える。どうして、時間は増えたり減ったりするのだろう。私たちはここに3つの時間を提示します。作品の中の人間以外の生き物が成長する目に見えない時間。作品ができあがっていく過程、期間中作品が成長する時間。そして作品の中に従来存在する時間空間。会期中作品は成長を続けます。淺井裕介と狩野哲郎のふたりは、時間泥棒たちとユーモアあふれる対話を繰り返します。決して目には見えない時間をあらわにすることによって、ミヒャエル・エンデの物語『モモ』のように時間を取り戻す作戦を立てています。


少し概要が見えてきました。展覧会の構成とテーマは連動しているので、事務的な手続きを考えている間にも、展覧会そのものは整理されていきます。大事なのは、どこにポイントがあるかをきちんと考えて押さえることです。

最終的に、展覧会を開催する前に、長い文章で、展覧会の方向性を設定しました。全文はこちらで読めます。

http://d.hatena.ne.jp/jikannohana/20091114/1258171500

・企画意図共有

テーマを設定したり、深めたことは、試合の相手として、作家と共有していきます。対面で話す。メールで連絡を取る。スカイプミーテイングなど方法はたくさんあります。それを踏まえ、作家の側でも考えることがあります。それを言葉にするタイプの人と、そうではない人がいます。言語、非言語での表現をくみ取り、お互いの進行の位置を確かめつつ、前に進みます。共有するときに、先に挙げたような、文章のまとめが記録としても、方向性をブレさせないためにも役に立ちます。

作家は、この展覧会だけに参加しているわけではないです。つまり、ほかのたくさんの展覧会にもかかわっています。なので、いつも100%の参加を求めることはできません。それでも、時間を割いて考えてくれることなので、作家が考えていることをなるべく汲んであげられるとよいです。

・場所を押さえる/作る

テーマと作家が決まると、どんな場所で行えばいいかの検討が付いてきます。私は住み込みながらの展示をしたかったので、展示場所と住める場所が一緒の会場を探しました。それが、黄金町でした。ここは、NPOが地域の活性化を図るためにアートを町全体に導入している場所です。アーティストが実際に住んでいて、1か月単位で場所を貸してくれることが分かったので、メールで申し込み、場所を見せてもらって、企画書を提出し、借りる契約をしました。このときは、作家さんが一緒に行ってくれました。

・予算を立てる

場所が決まれば、予算を立てることができます。次の項で詳しく説明しますが、かかる費用を設定します。

・企画書を書く

これは、上記の作業と並行して行うことですが、どういうことをどうして、だれと、いつ行うのかということを明確にして、人に伝える資料を作ります。予算や、企画意図をわかってもらい、賛同者や、助けてもらう人を増やすためです。企画書の書き方はいろんなところに載っているので、それを参考にして、書きましょう。

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