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週末はピザトースト

書こう書こうと思っている間に旬が過ぎてしまうということはよくある。

このピザトーストの話なんてまさにそんな感じだ。

春先、まだ寒さが残るくらいの季節に、週末の朝食としてピザトーストをするのにハマっていたときがあって、「ピザトースト簡単だしおいしいし最高じゃんこれ書こうっと」なんて思っていたら、いつのまにか汗ばむほどの陽気に見舞われる季節になってしまった。

いや、まあそれでもおいしいんだけどさ、ピザトースト。

やっぱり、あの、ハフッハフッっていう、熱々をほおばるときの感じとか、焼き立てでチーズがまだ熱いよ!ってときに、くちびるに触れないように歯をカチッと立ててかぶりつくあの感じとかはさ、絶対に寒さに残るくらいの季節が、引き立ててくれたと思うんだよなあ。

* * *

過ぎたことを言ってもしかたがないので、めげずにピザトーストの話をする。これを書いている日はここ最近にしてはめずらしく長袖の気候で、今日ならいける気がしたのだ。

でもまずいことに、春先はあんなにピザトーストピザトーストと思って、ピザトーストについてものすごい熱量で語るつもり満々だったのに、いまとなっては何をそんなに語ろうとしていたのか、よく思い出せない。旬を逃すというのはいつだってこういうことだ。

そんななか、がんばってピザトースト全盛期の我が家に思いを馳せる。

いや、うん……、やっぱりね、いいよね。ピザトースト。脳内で食べるイメージをしていたら、だんだん感覚が戻ってきたぞ。

* * *

なんてったってね、週末の朝、鍋で焼いたり炒めたりしなくていいから楽ちんで、それなのにちょっと特別感があって、もちろんおいしくって、満足感もあって、さらには洗い物も少ないのがいい。

我が家の場合は、遊びの延長みたいな感じで、作る過程に2歳の娘がジョインできるのもいい。そう、何より母ひとりで準備しないのがいいんだ。みんなでわいわい、アトラクションのひとつとして調理を楽しめるのがいい。

のせるものは特に決まっていない。冷蔵庫を開けて、そのときあった野菜やウインナーやキノコなんかを、適当に薄めに切って、とりあえず皿に置く。

この日はこんな感じ。でも本当に決めていないので、ウインナーもピーマンもないよ!(あるけど面倒くさいよ!)って日は、ツナ缶に玉ねぎみじん切り混ぜただけのにチーズのせて焼く、とかでも十分おいしい。

ちなみに話はそれるけど、2歳の娘はなぜかパプリカが好きなので、最近我が家の冷蔵庫には常時パプリカが入っている。

台所でわたしがパプリカを切っていると、たいてい横にやってきて、手を伸ばしてほしがる。ひとかけら渡してやると、生のままポリポリかじってる。ほんとうは黄色のほうが好きみたい。母には味の違いがわからないよ。

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そうそう、そんでもってこの具をのせたお皿をリビングの低いテーブルに持っていって、みんなでわいわい、それぞれの食パンにトッピングするのだ。

あとは食パンと、ケチャップと、乾燥バジルなんかも持っていく。

ピザソースのあるご家庭はもちろんそれを。ないご家庭は、ほんとうはケチャップとマヨネーズと乾燥バジルを入れて混ぜると、それっぽくなるみたい。マヨネーズの油分があったほうが、コクが出てよさそう。

でも我が家は、「マヨをこの世の食べものとは認めないほど毛嫌いする夫」と、卵アレルギーの娘がいるので、基本的に冷蔵庫にマヨがない。ない生活に、私も慣れてしまった……(これを書きながら思ったけど、油分ならオリーブオイルと混ぜてもよさそう。今度やってみよ)。

あ、ちなみにトマト煮込み系の料理をやった翌日は、その残ったトマトソースをピザソース代わりにする。いろんな旨味が溶け出してて、格段においしくなるし、残り物は減るし、一石二鳥なのでおすすめしたい。

* * *

「ほい、娘ちゃん、お料理するよ〜!いっしょにやろう」

そう声をかけると、とてとてかけよってくる娘に、エプロン代わりの巨大スタイをし、袖をまくって臨戦態勢を整える。

ピザソースもマヨもない我が家は、超適当スタイルなので、ケチャップを適当に塗って、そのうえに乾燥バジルを直接ふりかける。2歳の娘にもいろいろ渡して、手伝いながら、ちょっとずつやってみてもらう。

ケチャップ、ぷしゅ、とか。バジル、ぽっぽっ、とかね。目を離すとテーブルや洋服が大変なことになるので、ここはちゃっといきたい(笑)。

土台ができたら、用意した具を適当にのせてゆく。このステージは、あまり子の洋服汚れが気にならないのでよい。自由にやってくれたまえ。

私:「はーい、好きなのパンにのせてね〜」

娘:「パン!」(←限られた得意な単語で応答)

私:「(笑)。そうそう〜、パンにのせて〜」

という不思議なやりとりをしつつ、わたしも自分の食パンにどんどん具をのせながら、ときどき娘の食パンのようすを見る。

一箇所に玉ねぎが山盛りになっていたり、ウインナーを生でかじろうとしていたりするので、まあひとりで完成できるのはもうちょっと先だろうけれど、とりあえず食材触って楽しそうだからよし。

最後にチーズをのせて、トースターにイン。

そして数分、待つ。

“いいよね〜今日は他に何も作らなくってもいいよね〜野菜もタンパク質も炭水化物もあるしいいよね〜あとはデザートに果物でも食べようかね〜”なんて思いながら、コーヒーや紅茶でも入れて優雅に待てばいいのだ。フライパンや鍋を洗ったりする必要もない。ふはは!

* * *

“ピーッ!”

焼き上がりのブザー。もうね、焼けたら食べましょう。

でも熱いからね、気をつけて。娘ちゃん用のは、食べやすいようにハサミでカットしてあげよう。そのほうが冷めやすいし。

ただし、ここで油断するなかれ。

最近配膳を手伝ってくれるようになった娘に、ピザトーストののった皿を渡した結果、トースターから食卓へ運ぶあいだに「スルッ」とピザトーストが床へ落下し、ベチャッ!……。具とチーズが切なすぎる状況になったことは、1度や2度ではない。ピザトーストどころかもはやただの、具とトースト。いや、ぐちゃトースト。とにかく切ない。

「はい!娘ちゃん!よーく前見て!落っこちないように、よーく見て、ゆっくりね!」

そう言いつつ、傍らになんとなく付き添って、トースターから食卓への道のりを見守る。おぼつかない足どりと水平がぐらつく手元のなか、無事に食卓へピザトーストを届けることができれば、文字どおり拍手喝采をおくる。

やったー!すごいね!さあ、食べよっか!!

* * *

ハフッ、ハフッ。

まだ熱を持ってやわらかいチーズが、びよんとのびる。

適度にシャキシャキ感が残る野菜の歯ざわりが爽やかで、玉ねぎの甘味がジューシーで、口の中が楽しい。

そんでもってウインナーのところにかぶりつくと、またじゅわっとジャンキーな味わいが広がったりしてさ。うーん、たまらない。

ただ野菜とウインナーを切って並べただけなのに、この「作品として完成された」ような特別感はなんだろう。切った野菜とパンを別々に食べるのとは違う、この幸福感はなんなんだろう。

なんでもない市販の食パン1枚のうえに、凝縮された幸せな世界よ。

それにさ、新玉ねぎの季節は特にいいよね。玉ねぎが辛くなくて、ちょっと加熱したらもう甘くて、子どもにも食べやすいし。ああ、だから春先に書いておくべきだったんだってば。まだギリギリセーフかな。セーフだな?

わーい、今日はもう、鍋もフライパンも洗わなくていいぞー。お皿とまな板と包丁は食洗機にぽん。ごちそうさまでした!

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。