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プロローグのプロローグ【浅生鴨さんにインタビュー vol.0】

どうやら完全に寝不足である。

昨日は昼ごろからそわそわして、夜もずっとドキドキして、なかなか寝つけなかったのが原因だ。

浅生鴨さんの新刊エッセイ『どこでもない場所』を何度もパラパラと読み返しては、いったいわたしなんぞが何を聞けばいいのかと頭を抱える。PCを開いて思いつく質問項目を書き出してみるものの、なんだかうわすべっているようで、「こんなんでいいのかよう……」とまた、頭を抱える。結局深夜までそんなことを繰り返して「はああ」となっていた。

そう、なぜか今日、わたしは『どこでもない場所』の著者、浅生鴨さんにインタビューすることになっていた。

* * *

そもそもの発端は、浅生鴨さん(以下、かもさん)のこの記事である。

かもさんはこの中で、プロアマ問わず、インタビューをしてくれる人を募集していた。しかも「条件は一つだけで、取材から一ヵ月以内にどこかに発表してねということだけだ。紙媒体でも学校新聞でもブログでも構わない。残暑見舞いのハガキに書いたっていい」という。なんと。巷でよくある“フォロワー何人以上”とか、そんなくくりすらないのだ。

これを読んで、ああ(そんな募集をかけてしまうような方にお話を聞けるなんて)おもしろそうだなあと思いつつ、でも現実問題、育児のさなかに東京へ行くなんて難度が高いわと思っていたら、「9月に熊本まで車で行こうと思っている」というではないか。

それならもしや、もしや福岡にも立ち寄られるなんてことがあったりするんじゃなかろうか。そう思って、頭の片隅ではずうっとそわそわしていた。そんな煮え切らない気持ちを、以前のnoteにもちょっと書いている。

“もしほんとうに車で熊本までいらっしゃるのなら、そしてもし、もし別の用事なんかもあって福岡をまったり経由するのなら。そのタイミングでインタビューをさせていただくことは可能なんだろうか。いや、なんのメディアをしょっているわけでもない個人の自分が、そんなおそれおおすぎる。と思いながら、でも、でも。うじうじ考えている。”

『嫉妬と羨望のむこうがわに(あそうかも。さんのエッセイが楽しみだ)』

9月に入り、twitterでかもさんのツイートを見ていると、いよいよ、本当に熊本へ出発しようとしていることがわかった。

いつごろにこの辺りを通る予定、という、東京から熊本の全行程をインターネット上に公開されていたので、見るだけ、見るだけ……と覗いてみる。すると21日ごろ、福岡の書店にも立ち寄る見込みとなっていた。しかも、それ以外に決まった予定はなさそうだ。こ、これは。ちょうどインタビュー1件くらい、入れられそうな……。

いや、でも。

こんな、インフルエンサーでもないちっぽけな一般人が、何かの媒体からの依頼でもなく、個人のnoteに発表するためのインタビューで、何冊も本を出版している浅生鴨さんの1時間を占有するというのは果たしてゆるされることなのか。貴重な時間をこんなつまらない奴に費やしてしまったと思われたらどうしよう。いやいや、そもそもこのプロアマ問わずの取材募集は浅生鴨さんの提案なのだから、もちろん別にいいんだよな。……ええ、ほんとうに?! だいたいなんで、「面倒くさいなあ」とかよくツイートしているかもさんが、こんなどこの馬の骨ともわからない一般人にそんな機会を提供してくれているのか。ああ、もう、わからない。わからないよ、かもさん。

もはや混沌である。何を信じたらいいのかわからない。だいたいにおいてわたしだって迷子体質なのだ。

正解なんてわからないので、開かれているチャンスはとりあえず、つかむことにした。

質問がなってないとか、つまらないやつだとか言われて、恥をかいてもいいじゃないか。恥をかいたところで、その場で多少気まずい思いをしたとしても、わたしのこれからの人生にはさほど影響しない。そんなことより、ほぼ確かなことは、わたしはこの機会を逃したらもう一生、浅生鴨さんとじっくり座ってサシで話すなんてことはありえないということだ。

せっかく門戸が開かれていて、そのタイミングで福岡を通過するというのはなにかのご縁だろう。チャンスをつかまない理由がない。

そんなわけで、わたしはかもさんへの取材を申し込んだ。

* * *

そして、今日。

わたしは博多のカフェでかもさんに会い、お話を聞いてきた。

書店まわりからの流れで、かもさんとほぼ日の永田さん(今朝から合流したそうだ)が先にカフェに入られていて、わたしはそこへ後から入る形になった。わたしがお店へ入って「ああ、あの方に違いない」と軽く会釈をすると、おふたりとも揃って立ち上がられて、鴨さんはかけていたサングラスをずらしてわざわざ目を見せて、「あ、よろしくお願いします!」とふたりそろってお辞儀をされて、わたしはほんとうに恐れ入った。

ひええ。こんな、無名のなにものでもないわたしに、そんなそんな。おふたりのお辞儀の筋力がもったいないです。時間をいただいているだけでもアメージングだというのに。なんだろう、この状況。夢?

頭のなかにポンと、「実るほど頭を垂れる稲穂かな」という有名なフレーズが浮かぶ。ほんとうに事を成している方ほど、変に偉ぶったり、人を見下したりはしないものだ。いろいろなところで何度も耳にしてきた話ではあるけれど、自分よりよほどご経験も能力もあるおふたりがそろって立ち上がり、わたしにお辞儀をされるのを目の当たりにして、ことばにならなかった。

* * *

その後のインタビューで、永田さんは途中で離席され、わたしはかもさんと2人でテーブルに残り、サシでお話を伺うことになった。

ひとつひとつの質問に、真剣に答えてくれるかもさん。真摯だ。なんだろう、大きな媒体をしょっているわけでもない、こんな個人の取材に対しても「まあ適当にこたえて終わらせよう」みたいな感じをまったく、受けない。

おそらくくだらない質問もたくさんあっただろうに、「うう〜ん」と腕組みをしながら答えを考えたり、それをあらわすことばを探してくださるかもさんをみて、わたしは打ちのめされていた。人として。

* * *

今日伺ったかもさんのことばたちは、もう少しゆっくりと時間をかけて、後日ちゃんと記事にしたいと思う。

とりあえず今日は、今日の衝撃を、プロローグをかねた日記として。

かもさんと永田さんが、無事に熊本まで着けますように。

(つづく)


▼10/5追記:本編をアップしました。


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