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春をたべる(こごみ)

いつものスーパーで、ふだんは見かけないものを売っていた。

それが、こごみ。

ご存知の方も、ご存知でない方もそれなりにいらっしゃるであろう、微妙な知名度の山菜である。旬は4、5月。南では3月ごろから、東北では6月の初夏まで採れるらしい。まさに、今が旬。

そして何をかくそう、私はこのこごみが大好きだ。

スーパーで見かけた瞬間にハッとし、「あ! こごみちゃん!」と(心のなかで)無意識にちゃん付けで呼びかけてしまうくらいには、愛しい存在だと思っている。こんなところで会えるなんて思っていなかった、親しい旧友に再会でもしたかのような心の弾みっぷりだ。

じゃあ私は山育ちなのか、といえばそうでもない。山育ちに憧れてはいたけれど、実際は都会でもなければ山々に囲まれた田舎でもない、郊外の小さなまちで育った。

自転車で数十分もいけば田んぼのあるようなところで、そのあたりではタケノコや山菜も採れると聞いていたが、自分が山菜とりに行った記憶はない。

そんな私とこごみちゃんの出会いは、私が中学生くらいのころだっただろうか。たしか、母が知人にいただいてきたのだ。新聞紙にくるまれたこごみを私に見せながら「これ、こごみっていうんだって。どんな味だろうね〜」と。かくしてこごみちゃんは、初めて我が家の食卓にのぼることになった。

さて、味は……!?といえば、そこは山菜、さほど衝撃的な味はしない。あっさりとして、他の山菜ほどアクもクセもなく、食べやすい。ただ食感には特徴があり、茹で加減を間違えなければシャキシャキ感ものこりつつ、モロヘイヤのようなちょっとした粘り気、というかぬめり感があるのだ。

当時からオクラやモロヘイヤ、つるむらさきなどのねばねば&しゃきしゃきの食感をこよなく愛する、自称ねばしゃき愛好家だった私。そんな私にとって、このこごみちゃんの食感は極めて絶妙なバランスであり、初対面にしてグッと心をつかまれた。

そして背中を押すのは、そのくるくるっと丸まった葉のかわいらしい風貌と、「こごみ」という女の子のような名前である。思わずこごみちゃん、と呼びたくなってしまうじゃないか(ちなみに名前の由来は、芽の出てくるようすが、人が前かがみに縮こまっているように見えるからだとか)。

そんなわけで、別にこれほど行数を費やして語ることでもないのだが、私はこごみが好きである。

また、オクラやモロヘイヤに比べてさらに期間が限定的であり、メジャー度も低いため、置いてある店が少ないというのもひとつのポイントである。

会えなければ会えないほど、思わぬ再会を果たせたときは心が弾むものだ。たかがこごみ、されどこごみに、こうしていそいそと写真をとり、noteを書いてしまうほどには。

もちろん買ったこごみちゃんは、さっと塩ゆでして、鰹節とポン酢であっさり美味しくいただいた。マヨネーズをつけたり天ぷらもおいしいが、あっさりそのままが一番好き。

あれ、おかしい。書き始めたときは「旬のものを食べる」ことについて書くつもりだったのに、書いてみたら「こごみへの愛」しか書かれていないよ。

まあいいか。いつだって私の文章は行き当たりばったりだ(クライアントワーク以外)。

1年に1度、期間限定のぜいたく。そのぜいたくが、いろんな食材で、春夏秋冬、1年間ずっとある。四季のない国に暮らすと、これがどれほど奇跡みたいなことかわかる。

菜の花やタケノコを食べて、スイカやトウモロコシを食べて、サンマや栗ごはんを食べて、タラやブリやカブを食べて。「またこの季節かぁ」と食卓で知ることができるのは、何よりも幸せなことだと思う。

自作の本づくりなど、これからの創作活動の資金にさせていただきます。ありがとうございます。